ピンときてこの記事を開いた「剣と魔法の世界」が大好きな「ファンタジー育ち」な人は、まずは黙って第1巻を読んでもらいたい。 そんな、満足度の高い1冊が『転生したらスライムだった件』です。
通り魔に刺されて死んだ会社員、三上悟(みかみさとる)は、次に目覚めたときは異世界の洞窟でスライムとして転生していた。
こんなプロローグから始まるこの物語は転生物のファンタジー漫画なのですが、とにかく各種設定が深いし細かいところまで本当によくできています。
僕が子供の頃はエルフが「赤目」として扱われていたり、コボルトも犬首だったりと「ファンタジー」の基礎部分はまだ手探りで確定した共通認識はうまれている最中でした。
でも、「今ここに存在しない」世界を描く以上、どの作品もやたら設定は細かく、ゲームだったり、小説だったりの設定資料を眺めているだけで1日が終わったりしていました。
そんないわゆる「設定厨」が大人になった様な漫画読みでも大満足なのがこの『転生したらスライムだった件』。
1人でも多くの人にこの世界に触れて欲しいですし、ぜひアニメ化もして欲しいんですね。原作の小説も「アニメ化してほしいライトノベル作品1位」に選出されてますし、この世界に触れた人の声が少しでも大きくなって欲しい!
ということで、ネタバレしないように「転生したらスライムだった件」の魅力の1つである「設定」について軽くご紹介させて頂きたいと思います。
この世界のお約束その1:主人公の能力は2つ。
主人公の能力は「捕食者」「大賢者」の2つ。
「捕食者」は敵を喰らうとその能力を手に入れる能力です。
いきなり最初に捕食しちゃうのが、「暴風龍」なのですが、とある理由で暴風龍の力を得ることはできません。
そして「大賢者」はアナライズに加え、各種知的能力ブーストの効果があります。
具体的には、
思考加速:通常の1000倍に知覚速度を上昇させる。
解析鑑定:対象の解析及び、鑑定を行う。
並列演算:解析したい事象を思考と切り離して演算を行う。
詠唱破棄:魔法等を行使する際、呪文の詠唱を必要としない。
森羅万象:この世界の、隠蔽されていない事象の全てを網羅する。
という能力です。
「捕食者」だけでも強力な能力なのですが、「大賢者」はかなりヤバい奴ですね。これ。
「俺の考えた最強のキャラ」的な奴で、詠唱破棄とかハイウィザードでも無理でしょ、「大賢者」の名前に恥じないヤバい能力だなぁ、ストーリーをどう成立させるんだろう。なんてつい熱くなっちゃいます。
しかも、「解析鑑定」や「森羅万象」がそれぞれの能力や事象を解説するのですが、これがまた面白い。
ファンタジー好きはもちろん、本作ではじめてファンタジーの世界に触れる人の「これって何?」が放置されることはありません。
さて、この2つの能力を使って、主人公はこの世界をサバイブしていくのですが、こんなチートレベルの能力を持っているにもかかわらず、納得感がある形で読者をグイグイ引き込む展開も本作の魅力なんですよね。
この世界のお約束その2:ネームドになると進化する
この世界では、「名付け」という行為がとても重要な役目を担っています。
名付けが行われたモンスターはランクアップし、上位種となるという設定です。例えば雄のゴブリンはネームドになると、ホブゴブリンになります。
暴風龍による名付けで「リムル」となった主人公に名付けされた「ネームド」達は、この幻想世界の中の1エネミーから、名前を持ったキャラとして生き生きと動き出します。
この世界のお約束その3:おなじみのモンスターや亜人が満載
ファンタジーにはおなじみのエネミーなゴブリン族、
そして鍛冶と斧による戦闘の天才ドワーフ族、
神にもっと近いエルフと言った亜人はもちろん。
オークやリザードマンと言った獣人も登場します。
しかも、これらの種族はそれぞれに文化の設定はもちろん、それぞれの関係性も描かれていて、単なる1エネミーとして描かれているファンタジー作品とは一線を画するんですよね。
僕はXboxで発売された「ナインティナイン・ナイツ」というファンタジーゲームの原作と、モンスター側のシナリオを担当したことがあるのですが、その時に描きたかった世界はまさにこれ!
ずるい奴もいれば、お調子者もいる、そして義理堅い奴も……モンスターたちの人間(?)模様を楽しむことができるんです。
お約束その4:もちろん絶対悪もあり
「魔王軍」が存在します。現在最新刊の5巻まで僕は読んでいるのですが、これらに詳しく触れられるのはどうやらまだまだ先の様子。ですので、「絶対悪」と言ってますが、現状は「絶対悪」っぽいといったところ。今後の展開が楽しみです!
お約束その5:設定解説だらけ
武器や、スキルの特性、国や種族に至るまで、突然ポンっと出てきて、そのまま説明も何もないものは本作に存在しません。
ファンタジー好きにとっては超楽しみなポイントなので、ご紹介はこのコマだけ。続きは本編でお楽しみください。
随所に散りばめられた「設定」が仮想世界を艶っぽく、そして感情移入させていきます。
さて、『転生したらスライムだった件』こんな作品なんですが、いかがですか? ファンタジー好きだったら、途中でこの記事を読むのをやめて、本編を読み始めている人もいるのでは。
なお、巻末には原作者・伏瀬さんが自ら書き下ろした小説「ヴェルドラのスライム観察日記」も収録。本編だけでは語られなかった『転生したらスライムだった件』をリムルに捕食された暴風龍ヴェルドラの目線で描くサイドストーリーで、こちらも必読。
是非、皆さんも『転スラ』の世界をお楽しみ下さい!
レビュアー
GMOインターネット特命担当/ゲームデザイナー/Webマーケティングコンサルタント。2009年に自身が企画した「Matrix Music Pad」がアップルの年間ベストアプリ有料部門選出、英App Annieが選ぶ日本のTOP10デベロッパーにも個人チームで唯一選出される。ソニー・ミュージックエンタテインメント、セガ、キューエンターテインメントを経て2010年から現職。鈴木みそのマンガ「ナナのリテラシー」に登場する天才ITコンサルタント山田甚五郎のモデル。年間1000冊程の漫画読みを経て、今は年間500冊程度の軽度の漫画読み。