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2016.12.29

レビュー

号泣ずるい『ゆずの動物カルテ』──親子で読みたい、犬と人の本音物語

「犬の十戒」というものがある。

“言葉はわからなくてもあなたの気持ちは届いているので話しかけてください”
“あなたには仕事や楽しみ、友達がいるかもしれません。でも私にはあなたしかいません”

など、犬の視点で人間への思いや願いをつづった作者不明の短編詩だ。数年前『犬と私の10の約束』という映画が公開された時、話題にもなった。「なかよし」で連載中の『ゆずのどうぶつカルテ~こちらわんにゃんどうぶつ病院~』は、この「犬の十戒」に真正面から向き合ったアンサーソング的漫画だ。母親の入院で獣医をしている叔父と暮らすことになったゆず。獣医見習いとして病院の手伝いを申し付けられるのだが、動物嫌いのゆずにとってそこは未知の世界だった。

目に見えているものだけがすべてではない。動物病院にくる動物たちは皆何かしらの問題を抱えている。元捨て犬でけがの後遺症を背負っている病院の看板犬ソラ。認知症で飼い主のことを忘れてしまった迷い犬コロ。この作品は、病名や病状、動物の高齢化問題、死を隠さない。子供向けだからといってごまかさないし、かわいい絵柄でも自然の摂理を曲げるような奇跡は起こらない。

残酷な現実を人間の方が受け入れられないこともある。
勇気は小さい頃から一緒だった愛犬のリオンが拡張型心筋症で長くないと知り、いじめっ子から自分を守ってくれた“強いもの”が弱っていく姿を受け入れられず距離を置いてしまう。

大人でも身近な存在の死は受け入れがたい。それが家族ならなおさらだ。

作家・内田百閒は突然姿を消した愛猫ノラを何年も探し続けた。新聞に広告を出したことや警察に失踪届けを出したことなど、失踪からの日数をカウントした当時の日記はノラの話題ばかり。猫を弔ったという話を聞けば訪ねて墓を掘り返してもらい、猫が帰ってくるおまじないを聞けば試した。十数年経っても「ノラや」と愛猫の名前を口にすることがあったという。

私事だが、当方も数年前まで犬を飼っていた。腰を悪くしてからは車椅子になり、死ぬまでの約2年はほぼ寝たきりだった。お腹をマッサージして排泄を促し、食事は口元に持っていって食べさせるという家族総出の介護生活だった。ゆっくりと弱っていく姿も日常になった頃、ふと居たたまれなくなることがあり死に際を見たくないという思いが頭をよぎった。けれど子供たちは大人の想像を遥かに超えるスピードで成長し、大の大人でさえ難しいことを乗り越えたりする。

こんなのズルイよ泣いちゃうよ。

「犬の十戒」の中にこんなものがある。
“最後の時までどうか一緒にいてください。「見ていられない」「ここには居られない」とは決して言わないでください。一緒にいてくれるなら安らかに逝くことができます。忘れないでくださいね、私があなたを愛しているということを”
(Go with me on difficult journeys. Never say, "I can't bear to watch it ." or " Let it happen in my absence." Everything is easier for me if you are there. Remember I love you.)

作者の伊藤みんご氏は昔から動物好きで、この連載が決まる前から動物園にスケッチに行っていたという。ただペットたちの願いに応えるだけでなく、互いを思いやりもらった分を返すような優しい物語は作者の動物愛のたまものだろう。相手は何をされたらうれしいのか。相手への感謝をどうしたら伝えられるのか。子供たちなりに考えてもがいて出てきた言葉が胸にしみる。

1巻に収録されている、認知症のコロの話もぜひ読んでみて欲しい。ペットの高齢化が進む今ならではの、老いた家族に向き合う姿は必見だ。「なかよし」を読んで四半世紀ぶりくらいに泣きました。とりあえず、親子で読みたい漫画大賞にノミネートさせてください。

レビュアー

松澤香織

ライター。漫画やアニメのインタビュー・構成を中心に活動。片道25km圏内ならロードバイクで移動する体力自慢。漫画はなんでも美味しくいただける雑食系。

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