12月19日(月)、地下鉄六本木駅に張り出された1枚のポスター。そこには妖しくも美しい女性の鮮烈なビジュアルがあった――『累』(かさね)最新第10巻の発売を告知するポスターで累を演じた玉城ティナさん。原作の大ファンであるという彼女と作者の松浦だるま先生によるスペシャル対談の全貌をお届けします。
「美しい」という言葉は容姿だけに使うものじゃないはずなのに
松浦だるま:漫画家の松浦だるまです。よろしくお願いします。
玉城ティナ:はい、よろしくお願いします。玉城ティナです。
松:元々モデルさんで、今は女優さんとしても活躍されているんですよね。以前Twitterで『累』を読んでるっておっしゃって下さったときにお見かけして、内容に対して「分かる」とおっしゃっていただいて、すごく嬉しかったんです。「自分を見せるお仕事」をされている方に『累』をどのように読んでいただいてるのかなって。この貴重な機会に教えていただけると嬉しいです。
玉:職業柄、累ちゃんが役にのめり込んで行くのはすごく尊敬できるんですけど、私自身ひとりの女の子として読んでいるところもあるので……「美しい」という言葉は容姿だけに使うものじゃないはずなのに、そんなふうに使われることが多いので、累ちゃんの美への執着はすごく共感できると思いました。
松:ありがとうございます。玉城さん以外にも、自分を見せる……というとコスプレイヤーの方とか、「この人綺麗じゃん! 可愛いじゃん!」って方が結構見て下さってるんですよね。他の人から見たら玉城さんとか、理想の頂点じゃないですか。誰でもそこに行けたらいいなとか、自分は行けないなとか、そういう比較をすることがあると思うんです。でも、理想の容姿って人によって違うんだなって。自分を見せる仕事をしている人ほど、理想とするもの要求されるものがすごく高いのかなと思うんですよね。
玉:どうなんでしょう……自分の基準が一番かなあって。「自分が可愛いです」って思って仕事してるわけじゃないので、私も不安になることもあるし。もちろん要求されることも多いんですけど、コンプレックスも人それぞれあると思います。
――周りから言われることよりも、ご自分で考えられる美しさを重視する感じでしょうか。
玉:嬉しいとかありがたいなとか、そういうのはもちろんあるんですけど、十言われたとしても自分の中でのプラスが一だったりするので、自信に変えていくのにすごく時間がかかります。
松:なるほどお……。
他人から見られること、はかられること
――『累』のキャラクターの中で玉城さんが一番自己投影してしまうのは誰なんでしょう?
玉:累ちゃんだと思います。誰でも自分の中に「この人になりたい」って思いが絶対あると思います。たとえば私に対して思ってくれてる人もいれば、私も違う人に対して思ってるだろうし。(累ちゃんって)自意識過剰じゃないですか。自分に対して厳しいんだろうなって思います。
――松浦さんも描きながら自分を投影されているところがあるのでしょうか。
松:そうですね。容姿というよりは今までの経験から「自分には人間的に能力が足りない」と思ってたんですね。漫画家になる前の仕事とか、学生の時とか。そういうときの劣等感や羨ましさを投影して描いています。自分の中の基準と照らし合わせてるってさっきおっしゃってたと思うんですけど、累ってそれが上手くできない人だと思うんですよね。
玉:うんうん。
松:さっきおっしゃっていただいたみたいに「美しさ」ってひとつの意味じゃなくて、もっと自由なものだし、こういう主人公を今描こうと思ってしまったのは……すみません話がまとまりませんでした(笑)。
(一同笑)
――『累』は認めて欲しい気持ちを「美しさ」に集約してるってことでいいでしょうか。仕事や日常生活の中で抱くような様々な劣等感ではなく、美醜という一点に絞ったと。
松:そうですね。あと、容姿ってただ一点ではかられる怖さがあって、モデルさんでなくても、普通に生活していてもあると思うんですよ。十代の女の子たちってそういうのに晒されてるっていうか。たとえば、私の通っていた学校だと、ある子がとても肌が白かったんですね。それを別の子が「あの子白くて気持ち悪いよね」と言ったんです。それで、ある日その白い子が髪型を変えたんですよ。そうしたら「気持ち悪いよね」って言った子が「あの子可愛いよね」って言って。
――ガラッと変わった。
松:180度変わったんですよね。怖いなと思って。美醜を扱うようになったのは、その年頃の経験からずっと引っかかってるものがあるからだと思うんです。でも、綺麗な方でもその辺の怖い部分から解放されないじゃないですか。
玉:ずっと綺麗でいるのって無理じゃないですか。
松:そう、ですよねえ。
玉:「その時のわたし」をずっと維持するのって無理だと思うんですよ。見せる仕事だと、この時の方が良かったとか、このメイクの方が良かったとか。好みの問題もあるのでそれは何とも思ってないんですけど。
松:でもそこですごく気にしちゃう人もいるのかなって。「その時の方が良かった」って漫画の作品もきっと同じなんじゃないかなって思います。今の年齢だからこれ描きたいとか、今の年齢でしか描けないとか、そういうのもあると思っていて、それはネガティブな意味ではなくて「見える景色が変わった」という具合ですけど。モデルさんとかも、表現できるものが年齢によって違っていくのかなと。
玉:全然違いますね。顔も違うしスタッフさんによっても違う。
松:自由なはずなんですよね。人間って実は自分でも自覚がないぐらい変化をしていて、本で読んだ言葉なんですけど、実は自分は自分のことが一番見えないんですね。そういう不安の中には醜い人も普通の人も綺麗な人もみんなさらされていると思っています。
――見せるお仕事ってそういう変化にも気を使わなきゃいけないから、苦労されてるんじゃないでしょうか。
玉:コンディションが良くなくても出なくちゃいけないので。もう今日は行きたくないなーって日もあるんですけど、でもそんなこと言ってられないんで。いつ仕事なくなるか分からないじゃないですか(笑)。
松:考え方がすごい大人びていらっしゃる。
玉:でもすごい子供。今も子供なんですけど、もっと子供のときからやってたので心配ですね。あのとき関わってた人たちに申し訳ないと思うんですけど、「あーティナ大人になったねー」みたいな感じで言われることもあります。コミュニケーションスキルも高くなりました。昔は人の目を見て話せなかったんです(笑)。
松:そうだったんですか?
玉:そうですそうです。で、「可愛い」とか言われても「あっほんと可愛くないんで、ごめんなさい」って思ってて、やばい奴だったと思いますね(笑)。
(一同笑)
玉:14、5歳くらいで会ってた人に会うと、大人になったねーって。でもその時にはみんな言ってくれないんですよ。悪いところって直ってから言ってもらえる。悪い時に言ってくれればいいのになあ、って(笑)。
――そんなふうに自分を変えていったのは、何かきっかけはあるんでしょうか。
玉:徐々にですね。自信を持ってる風にしてた方が相手に失礼がないなと思って。自信はあると言えばあるんですけど、別に100%ではないです。
――すごいプロ意識ですね。飢餓感というか……もっと欲しい、もっと仕事したい、活動の幅を広げたいとかお考えになることは。
玉:そうですね。もっと仕事したいです。
松:今こうやって話していると、玉城さんから全然そういう匂いがしないんですけど、そんな時期が玉城さんにもあったんだって分かってちょっと嬉しかった。
「普通って一番難しい」
松:自分自身が作品になっているという意識でいられたりするんですか。
玉:色んなスタッフさんに支えられての作品なんで、自分が全てではないんですけど、たとえばカタログにしても、ファンの方からすると「ティナちゃんが着てる服」になるので、すごく責任を感じます。
――カメラマンさんや他のスタッフさんの考えも汲み取らないとできない。
玉:そうですね。皆さんでひとつのものを作るという感覚なので。
――役者さんとしてはいかがでしょう。
玉:演技に関しては自分が感じたものを演じてみてから、監督さんと相談したりして修正してもらう感じです。
松:すり合わせていくんですね。
玉:そうです。演技するのは楽しいですね。刺激が多いです。でも普通の学生役を演じた時、普通ってすごく難しいなと思って。
松:大げさなものの方が感情的で演じやすいのかもしれませんね。
玉:普通って一番難しい。
松:私も普通の人を描く方が難しいと思っています。
――『累』の登場キャラクターは変な人が多いですよね。
松:そうですね。みんなちょっと頭がおかしい(笑)。普通の人が普通の恋愛をするとか、そういう漫画を描ける人ってすごいなって思ってて、演技も多分そうなんですね。
玉:えっ? 私あまり変だとは思わなかったんですけど。この世界観だからこそ変じゃないように思えるっていうか。
――漫画の中だから。
玉:そういう世界観の中だから。
――芝居がかったセリフが多いですよね。
松:敢えてやってるところもありますね。「普段この言葉使わないよね?」みたいな。「忌々しい」とかそういう(笑)。
(一同笑)
――演技とキャラクターの話が出たところで、実際に女優さんとしてカメラの前に立たれる玉城さんにお尋ねしたいんですが、『累』の中で「演じてみたい」キャラクターがいるとしたら、誰なんでしょうか。
玉:累ちゃんです。多分、もう満足じゃないですか? 顔を変えるって。100%感みたいなものってすごく輝くと思うんです。執着したものが手に入ったものの達成感、完璧感みたいなものが出てるから、人を惹きつけると思うし、でもきっと陰もあると思うし、そういうところってすごく惹かれるなあって。
松:確かに、100%って言われると。
玉:私はもう光の……光で生きれるんだ、みたいな。光の乙女みたいな感じ、すごく出てるんで。女優でもモデルでも「可愛いだけのくせして」みたいなこと言われるじゃないですか。でも才能は分かりにくいじゃないですか。顔みたいに分かりやすいところだったら、自信になるのかな、って。
あんまり褒めないで欲しいと思ってます
――『累』で描かれるような演劇の舞台にご興味はおありなんでしょうか。
玉:舞台を観に行くのは好きです。ちょっと前まではひとりでも行ったりしてました。あのライブ感はすごいです。なんか気持ちいいだろうなって。
――松浦さんは学生時代に演劇部に所属されていたんですよね。
松:超アマチュアですけど(笑)中学高校で演劇部に入っていたので、そういう経験を膨らませて描いてはいるんです。
――映画の撮影の方で『累』に出て来るような監督さんとか裏方さんとか、印象に残る方はいらっしゃったりします?
玉:監督さん……わたし、檄飛ばされる監督さんに会ったことがなくて。飛ばされたいわけじゃないんですけど(笑)。監督さんで全然違うと思います。友達の話とか聞くと「なんか面白くないからもう一回」とか。「面白くない」ってなんかもう(笑)。
松:むずかしいですね。そういうときは自分で探っていかないといけないですもんね。何度もこうかなーって試してみてOKを待つ感じですか。
玉:向こうがOKだとしても、今ので大丈夫かなとかなって。
――漫画にも通じるところがありませんか。
松:担当さんから何も修正がないと不安になって、「本当になんもないんですか」って聞いてしまうことはあります。褒められると逆に危うくなるというか……嬉しいし調子に乗るんですよ。特にいいのが描けたときは「わたし天才だな」くらい調子に乗ってて、後で揺り返しが来て死にたくなるんですけど(笑)。
(一同笑)
玉:私も褒められると調子に乗っちゃうんで、あんまり褒めないで欲しいと思ってます(笑)。
松:客観性が欠けたら不安ですよね。
『累』はまず表紙のインパクトがすごかった
――玉城さんが『累』と出会ったきっかけを教えていただけますか。
松:聞いてみたいです。
玉:漫画を選ぶときは私も書店に行くんです。表紙とか後ろのあらすじとかを見て。『累』はまず表紙のインパクトで思わず手に取って、帯の印象的な言葉に魅かれました。
松:連載が始まったばかりの頃でしたよね。今は色んな方の感想を聞けるんですけど、始めた時はどんな方がどう思って読んで下さってくれるのか想像がつかない状態で、そんな中で玉城さんのTwitterで「分かる」っておっしゃってくださったのを見て、これはと思って。その一言、勉強になりました。
玉:ありがとうございます。
松:いや、こちらこそというか、ありがとうございます。読んでいただいて。
――好きなシーンがあれば教えていただけますか?
玉:ニナを自分が殺したかも、って後悔するところが。「もうお前は口紅を捨てて醜い顔でのみ生きていく事に耐えられはしない!」(※)みたいなことを言われて気付く、そこから追い詰められていく感が好きです。
※注……『累』3巻p62、第20話「思惑」のワンシーン
――松浦さんも描いてて楽しかったところなんじゃないですか?
松:いや、作者が楽しんでるところまで伝わっててほしくないんですけど(笑)。
(一同笑)
松:でも大事なシーンではあるので嬉しいですね。色んな方に好きなシーンを聞くと、人によって違うところを挙げられることが多くて、顔を変えて初めて舞台に立つときとか。そこを好きだっておっしゃっていただけるのも嬉しいんですけど、主人公の心が揺れているところを挙げて下さったのは、特に描いててよかったと思いました。
生きているものが一番怖い
――玉城さんの出演された『貞子vs伽椰子』、大変面白かったです。『累』もホラー要素のあるお話だと思うんですけど、ホラー映画とか怖いものにはどのくらい親しんでいらっしゃるんでしょうか?
玉:わたし怖いものが苦手で、お化けとか嫌いなんです。でも、親がすっごいホラー映画好きで。私が学校から帰ってくるとホラー映画観てて(笑)。
――どんなシチュエーションですか(笑)。
(一同笑)
玉:その影響もあってすごく怖がりで(笑)。家に帰ってくると、全部の部屋のドアをひとつずつ開けながら何かいないか確認するんです。
松:想像が働いちゃいますよね。
玉:そう、なんか想像力が豊か過ぎて。開けて幽霊がいたらどうすんのって感じなんですけど、一回開けなきゃ気が済まないんですよね。普通にきて「あー、なんかごめんごめん先家きてたよ」みたいに、友達みたいに接してもらえたらいいかもしれないけど(笑)。
――それだと松浦さんのお宅には行けないですね。以前お住いの方がお亡くなりになられたとかで。(※)
※注……詳細は『累』2巻の後書きにて。
玉:そういうのやめましょう!
(一同笑)
松:なんにも出ないんで大丈夫です! うちも別に怖いことは起こらないので。私も結構怖いところ苦手ですよ。
――じゃなんでそんなところに決めたんですか(笑)。
松:見学したら雰囲気良かったんです。
(一同笑)
松:でも確かに夜は何もないのに想像してしまって怖いんですけど、ふふふ。
――『累』も怪談要素を含む話ではあったので、ホラーが苦手というのはちょっと意外ですね。
玉:でもどちらかといえばミステリーっぽい感じの怖さじゃないですか、人と人みたいな。でも人が一番怖いですよね。生きてるものが一番怖い。
――たとえば6巻で野菊が累の部屋を訪れるシーンがありますけど、「あの部屋の向こうに何がいるのか」って疑念を抱かざるを得ない、でも累はまるで裏がないように振る舞っている……サスペンス的な面白さもそうなんですが、人間の怖さが描かれているのは『累』の魅力ですよね。
松:ありがとうございます。いやー人間は怖いなとか、でもその怖さは、分かり合うのが難しいからなのかなとか思いながら描いています。
――本日はありがとうございました。
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