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2026.10.17

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この世は「穴を埋める作業」でできている!? 奇妙な超能力を手に入れた少年の倫理崩壊サスペンス『超穴理論』

いじめられっ子、穴を埋める

西村大貴、高校2年生、野球部所属。小学校の頃からの親友・山ちゃんとともに、野球部員からいじめられ、泥水を啜る毎日を送っている。唯一の希望は、指定校推薦を勝ち取って山ちゃんと同じ大学に進学すること。しかし、現実はキツい。丸裸にされて写真を撮られ、逆らえばSNSに流すと脅しをかけられるに至って、山ちゃんが「もう学校に行くのやめる」と言い出す。
「逃げる他に選択肢はないんだ」という山ちゃん。
「ずるい。山ちゃんだけ逃げるなんて」「嘘つき!」「卑怯者!」と絶叫する大貴。
山ちゃんから絶交を言い渡された大貴は、子ども時代からよく遊んでいた穴神神社へと向かう。その神社にある井戸に、「穴埋め給え」と言って賽銭を投げると願いを叶えてくれるという。大貴は有り金を投げ込み、首に縄をかけて、井戸に身を投じる……が、気がつくと神社で気を失っていた。

ここまで説明すれば、おわかりだろう。この夜から、大貴は穴を埋める能力を身につける。
パンクした自転車のタイヤの穴が塞がる。
数学の穴埋め問題がスラスラ解ける。
自分の能力に気づいた大貴は、喜びに打ち震える。野球部の面々に、「特別ノック」という名のいじめをすると言い渡されてもこの顔だ!
いじめを受けながら、「前は怖かったけど、今や虫ケラの小言。生殺与奪の権は俺にある!」と、復讐にワクワクしている。
最初のターゲットは、大貴の弁当を食ったタコデブにロックオン!
ノックされたボールを投げ返しながら、そっと「穴埋め給え」と唱えると、ボールはタコデブの口に飛び込み、病院送りに成功。大貴は「穴を埋める」能力が、さまざま応用が効くことを知り、さらに喜びに打ち震える。もちろん、こんなことも考える。
きっと可能だ。
それが憧れの女子、青山さんであっても……。
そう思うと、笑みが止まらない!
そんな妄想を膨らます週末。
(高2ですから)ナニをナニしていると、野球部のいじめっ子のひとり“キーキーうるさい小金持ちのドラ息子”こと猿渡まさるから呼び出しが……。
早く月曜にならないかな〜!

穴を埋める能力の無限性

突然授かった、「穴を埋める」という超常的な能力。ドラえもんなら、なにか“ひみつ道具”のひとつのネタとして、のび太が乱用して混乱を招いて1話完結で終わるところだが、本作の著者・橋木喬はこってりとねぶり倒して、いじり倒して、遊び倒す気マンマンである。「穴を埋める」という能力自体はすごくシンプルだけど、なにか神話的、哲学的な香りがするところもいい。でも、それを与えられたのが、近寄っただけで汗と顕示欲と精液の香りがしそうな高校生なのである。ろくな展開になるわけがない(=面白い展開にしかならない)。漫画『デスノート』も同じように突然超常的な能力を手に入れる話だけれど、もともと天才少年で、いいシャンプー使っていそうな夜神月と、大貴は真逆だ。

話を戻そう。猿渡にどう復讐したものかワクワクしていると、お母さんから「おばあちゃんの様子を見てきて」とお願いされる。久しぶりに会うおばあちゃんは、笑顔が頼りなくて、食欲も薄く、元気がない。
「おじいちゃんがいなくなってから、毎日が辛くて、辛くて」
そう、おばあちゃんの心には大きな穴がポッカリと……。そこで大貴は唱える!
「穴埋め給え」
すると、おばあちゃんの瞳孔が縮むと同時に、涙が溢れ出て、笑顔を取り戻し、昔話に花が咲く。おばあちゃんの心の穴を埋めることに成功した大貴は思う。
そして月曜日。
いじめっこの猿渡の心の穴を埋めてやろうと、「負の感情で人は幸せを感じられない」「暴力ではなく話し合おう」「さぁ君の心の穴を僕に見せて」と語りかけるのだが、
「なんつーかお前、マジでつまんねー人間だよな」
という猿渡の言葉に敗北する。そう、実際に大貴はつまらない人間なのだ。そして、大貴はそのことに目をそらして生きてきた。自分の心の穴を、逆に猿渡から指摘された大貴。改めて膨れ上がるのは……
復讐再開である。
なぜ、猿渡の心の穴が見えないのか? 大貴は、猿渡が金と面倒見の良さで手なづけていた取り巻きのザコ連中に目をつける。猿渡は、ザコ連中が差し出したプライド、忠誠心で心の穴が満たされているに違いない。であれば、ザコ連中の心の穴を埋めてやればいい! そうすれば、ザコ連中は猿渡を見限り、心の穴をふさいでくれる大貴の思いのまま! そして、心を満たしていたザコ連中からの忠誠心を失って、猿渡の心の穴が露出するはず!
見よ! この晴れやかな笑顔!

すでに大貴は、物理的な穴、テストの穴埋め問題のような“目に見える”穴はたやすく埋められる。彼が新たに気づいたのは、“目に見えない”心の穴を埋めれば、穴を埋めてもらった側はそれに依存し、従うということ。心の穴など、大なり小なり誰でも持っている。大貴の能力を持ってすれば、全人類を支配可能だ。問題は、相手の心の穴がどこにあるのかを見極めること! 大貴は、この時点で次なるステージへと覚醒したのだ。

さて、ここからどう物語が転んでいくやら、まったく予想がつかない。親友の山ちゃんは? 野球部の連中への復讐は? そして憧れの女子・青山さんは? ついでに、やたら色っぽい大貴のお母さんも気になるのだが、それは次巻で!
すでに、大貴は手のつけられない怪物と化している!

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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