いじめられっ子、穴を埋める
「逃げる他に選択肢はないんだ」という山ちゃん。
「ずるい。山ちゃんだけ逃げるなんて」「嘘つき!」「卑怯者!」と絶叫する大貴。
山ちゃんから絶交を言い渡された大貴は、子ども時代からよく遊んでいた穴神神社へと向かう。その神社にある井戸に、「穴埋め給え」と言って賽銭を投げると願いを叶えてくれるという。大貴は有り金を投げ込み、首に縄をかけて、井戸に身を投じる……が、気がつくと神社で気を失っていた。
ここまで説明すれば、おわかりだろう。この夜から、大貴は穴を埋める能力を身につける。
パンクした自転車のタイヤの穴が塞がる。
数学の穴埋め問題がスラスラ解ける。
自分の能力に気づいた大貴は、喜びに打ち震える。野球部の面々に、「特別ノック」という名のいじめをすると言い渡されてもこの顔だ!
最初のターゲットは、大貴の弁当を食ったタコデブにロックオン!
ノックされたボールを投げ返しながら、そっと「穴埋め給え」と唱えると、ボールはタコデブの口に飛び込み、病院送りに成功。大貴は「穴を埋める」能力が、さまざま応用が効くことを知り、さらに喜びに打ち震える。もちろん、こんなことも考える。
それが憧れの女子、青山さんであっても……。
そう思うと、笑みが止まらない!
(高2ですから)ナニをナニしていると、野球部のいじめっ子のひとり“キーキーうるさい小金持ちのドラ息子”こと猿渡まさるから呼び出しが……。
穴を埋める能力の無限性
話を戻そう。猿渡にどう復讐したものかワクワクしていると、お母さんから「おばあちゃんの様子を見てきて」とお願いされる。久しぶりに会うおばあちゃんは、笑顔が頼りなくて、食欲も薄く、元気がない。
「おじいちゃんがいなくなってから、毎日が辛くて、辛くて」
そう、おばあちゃんの心には大きな穴がポッカリと……。そこで大貴は唱える!
「穴埋め給え」
すると、おばあちゃんの瞳孔が縮むと同時に、涙が溢れ出て、笑顔を取り戻し、昔話に花が咲く。おばあちゃんの心の穴を埋めることに成功した大貴は思う。
いじめっこの猿渡の心の穴を埋めてやろうと、「負の感情で人は幸せを感じられない」「暴力ではなく話し合おう」「さぁ君の心の穴を僕に見せて」と語りかけるのだが、
「なんつーかお前、マジでつまんねー人間だよな」
という猿渡の言葉に敗北する。そう、実際に大貴はつまらない人間なのだ。そして、大貴はそのことに目をそらして生きてきた。自分の心の穴を、逆に猿渡から指摘された大貴。改めて膨れ上がるのは……
なぜ、猿渡の心の穴が見えないのか? 大貴は、猿渡が金と面倒見の良さで手なづけていた取り巻きのザコ連中に目をつける。猿渡は、ザコ連中が差し出したプライド、忠誠心で心の穴が満たされているに違いない。であれば、ザコ連中の心の穴を埋めてやればいい! そうすれば、ザコ連中は猿渡を見限り、心の穴をふさいでくれる大貴の思いのまま! そして、心を満たしていたザコ連中からの忠誠心を失って、猿渡の心の穴が露出するはず!
すでに大貴は、物理的な穴、テストの穴埋め問題のような“目に見える”穴はたやすく埋められる。彼が新たに気づいたのは、“目に見えない”心の穴を埋めれば、穴を埋めてもらった側はそれに依存し、従うということ。心の穴など、大なり小なり誰でも持っている。大貴の能力を持ってすれば、全人類を支配可能だ。問題は、相手の心の穴がどこにあるのかを見極めること! 大貴は、この時点で次なるステージへと覚醒したのだ。
さて、ここからどう物語が転んでいくやら、まったく予想がつかない。親友の山ちゃんは? 野球部の連中への復讐は? そして憧れの女子・青山さんは? ついでに、やたら色っぽい大貴のお母さんも気になるのだが、それは次巻で!








