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2026.02.20

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「ベオグラードメトロ」に暮らす子供たち──持たざる者たちの異能力バトル&サスペンス!!

本作の原作は、インディーゲームサークル「Summertime」によって2020年にリリースされた、文章を読み進めながら楽しむノベルゲームです。舞台はセルビアの首都ベオグラード。地下鉄建設が頓挫した廃墟「ベオグラード・メトロ」に集う、社会からこぼれてしまった人々と、様々な力を持つ能力者たち、さらに彼らをスカウトという名のもとに能力者狩りする巨大企業ゴールデンドーンの3者を中心に描かれるファンタジー作品です。

コミカライズにあたり、Summertimeの主宰を務める隷蔵庫が原作を新たに書き下ろし、作画を『頂のリヴィーツァ』の山座一心が担当。同作でディストピア×特殊能力を描いていた山座の参加は、まさに適材適所といえるかもしれません。

謎と廃墟と超能力! 秀逸な設定に高まる緊張感

本作の舞台となる東欧のセルビアは、一般的な日本人にはあまり馴染みのない、どこか謎めいた土地。建設途中で放棄された、地下鉄と呼ぶにはあまりに廃墟な場所を住処にする浮浪者や、そこに出入りする子供たち、そして蔓延する薬物。これらの設定が、アンダーグラウンドな犯罪系作品好きな私の好奇心をかきたてます。

能力が顕現するのは一部の人のみで、政府もその存在を公表しておらず、世間的にはほとんど認知されていません。一方で都市開発を担うゴールデンドーン社は能力者たちを次々とスカウト。しかしこれに応じない者へは暴力を振るい、また無能力者は殺害もいとわない、かなりキケンな香りのする企業です。

本作の主人公シズキは一般的な家庭で育った少年ですが、ベオグラード・メトロに暮らす友人のデジャンはサイコキネシス能力の持ち主。
無能力者とされていますが、そこは主人公。シズキにはキレる頭脳と、大きな秘密がありました。シズキが薬物を飲んでトリップした際、幻覚の中でシズキのことを「兄さん」と呼ぶミステリアスな少女が登場。
序盤ではこの少女が実在するのか、実在するとしてその生死もわかりません。彼女の存在は、物語の行く末を大きく左右しそう。また、シズキが出会うゴールデンドーン社長令嬢マリヤ。彼女はシズキと何やら因縁がありそうで、ふたりの過去も気になるところです。
きな臭いゴールデンドーン社の思惑とは? シズキと妹の間に何があったのか?  マリヤとは一体何者なのか? 序盤にして数々の伏線が張られており、これらの点が今後どう繋がっていくのか、興味が尽きません。ネットで「ベオグラードメトロの子供たち」と検索すると、予測ワードに「考察」が出てくることからも、原作自体、謎や解釈の余白が散りばめられた作品であることがうかがえます。

多様な能力者たち登場! その演出や異能バトルに大興奮

1巻冒頭、警察に追われるシズキとデジャン。逃れるため、デジャンがサイコキネシスの力を発揮した際のシーンがこちら。
モノクロページの中で唯一、水色の光を宿すデジャンの眼。フルカラーで描くよりも効果的、そして劇的に能力発露の瞬間を表現する、憎らしい演出にゾクゾクしてきますね。
(※瞳の色が変わるのは電子版のみの描写となります)

バトルシーンも見逃せません。ゴールデンドーン社側についた能力者・第9(だいく)からの誘いを断ったデジャンとシズキは彼に襲われて絶体絶命のピンチに陥ります。第9の能力は、透明化。
この危機的状況にシズキたちはどう対処するのか。このシーン、機転を利かせたシズキの着眼点とデジャンとのコンビプレイも見どころです。

能力者たちはまだまだ登場します。シズキの同級生でいじめられっ子のネデルカ。彼女の能力は、なんと……!
この死者召喚能力、シズキたちにとって厄介な一面もありつつ重宝するスキルなのですが、ネデルカ自身は「死んだ人とおしゃべりできるだけ」とその強大な能力に無自覚なところも面白い。

能力者狩りを行うゴールデンドーン社に対抗するため、味方を増やすべく動き出すシズキたち。今後も敵・味方含め様々な能力者たちが登場することでしょう。どんな能力なのか、そしてその能力が物語にどう影響してくるのか、気になります。

ネデルカ無双!? シリアスな中で発揮するコメディエンヌの才

政府や巨大企業の企みに、能力者たちの命を懸けたバトル。自分たちの場所・メトロを守るための戦いに身を投じる少年たちを描くファンタジーの中で異彩を放つのが、先ほど紹介したネデルカ。
これまで人類はソリティアを散々ネタにしてしゃぶり尽くした気がしていましたが、まだまだ調理法次第ではこんなにも味がするんですね……! コマをぜいたくに使って、全力でツッコむネデルカには、大きな可能性を感じます。このシーン以外にも思わず笑ってしまう彼女の行動が描かれており、シリアスな作品の中で彼女が生み出す笑いは、ある種の癒し。私はすっかりネデルカのファンになってしまいました。

能力から個性まで、様々な属性を持ったキャラクターが登場する本作。シズキの妹やゴールデンドーン社の令嬢マリヤなど、シズキとの関係性に「?」の矢印が伸びるミステリアスな相関図や、まだ詳細が明かされない過去のある出来事に苦しむシズキなど、「早く、早く続きを読ませてくれ……」と思わずにはいられません。特に1巻ラストの展開を目にすれば、「早く続きを」の言葉が本心だとわかっていただけるはず。

能力の種類やそれぞれの個性といったキャラクターの属性を楽しんだり、物語に隠された謎の数々に興奮したり、複数の視点で楽しむことができる本作。ちなみに、ベオグラードには2026年現在も、地下鉄は建設されていません(建設計画は進行中だそう)。そんな現実ともリンクした異国の世界観も含め、好奇心がわき上がってくる作品です。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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