PICK UP

2026.07.12

レビュー

New

しがない不動産屋、闇バイトで成り上がる。心優しい老人が世紀の大悪党へと登り詰める『リアルター』

しがない不動産屋のおじさん、転生せずに暴力で成り上がる

街で小さな不動産業を営む小日向は、人生のどん詰まりにいた。3年前、投資話に乗ってしまったが最後、3000万円の借金を抱え、生活が立ち行かない。残された資本である体は、胃がんのステージ2から3。今から治療すれば治る段階なのだが、金のことを考えると病院通いをする余裕はない。妻と娘に無理をさせて乗り切る毎日が続く。
病気で死ぬか、自ら命を断つか……。死んで家族が楽になるのなら、どちらでも構わない。
そんな小日向は現在……。
『リアルター』は、そういう成り上がり漫画である! 

少し時間を戻そう。
金に困っていて寿命も短い、でも基本的には善良な小市民の小日向は、“おいしいバイト”の話を聞く。今や“おいしいバイト”イコール“闇バイト”なのは周知のことなのに、ブルーギルのように餌に食らいつく小日向! リアルター(=不動産屋)のコードネームでひとつ、ふたつ簡単な仕事をこなし、次に向かわされたのがタタキ(=強盗)の現場。怖いお兄さんが「お邪魔してまーす」の挨拶と同時にバットを振り下ろし、指示役からの情報どおり2000万円以上の現金を奪った強盗集団。小日向は躊躇しながら様子を見守っていたが、被害者が悪徳不動産業者であること知り、沸々と怒りにも似た感情が湧き上がる。
小日向は、不動産屋としての経験と勘を頼りに、床下収納に隠された大量の現金を探し当てる。その額1億円! 脱税して得られた金だから警察にも届けられない。そして指示役も知らない金。これを根こそぎ攫って、強盗団で山分けすることに。それが指示役に知られたら、待つのは「死」!
「これでもう行きつく先は天国か地獄だな」
行き着かなくても、おいしいバイトに食いついた時点で、“生き地獄”に足を突っ込んでいるのだが、小日向はすでに“あの世”に片足を突っ込んでいるので怖くない。ただ、山分けした金で借金返済の目処がついた今、家族のことを考えると闇バイトから抜けたい。

そんな思いを抱えて臨んだ次のタタキの現場は……、パッキパキにキマった覚醒剤中毒者がバットを振り回す家。なんとかスタンガンで応戦し、覚醒剤が入った金庫を運び出すことに成功するのだが、報酬が払われない。しょせん実行犯は使い捨て。弱みを握られた小日向ら強盗団は、言われるがまま。しかし“あの世”に片足を突っ込んでいる小日向は、「これまでの報酬を払ってくださいよ」と迫る。そこに、これまで姿を見せなかった指示役・サイモンが現れる。
おとなしく報酬を払いながら、涼しい顔して人に火をつけるサイモン。
平然と暴力を振るう彼に恐怖を抱きつつも、闇バイトを辞めたいと、土下座をする小日向。
「この仕事を抜けたいんですよね? 構いませんよ」と言うサイモンのスマホには……
小日向の愛する娘の部屋に侵入する不審者!
「続けるか辞めるか…どちらを選択しますか?」
スマホを見せて脅すこともなく、小日向が「辞める」と言えば、サイモンは非道な判断を下すに違いない。娘に迫る危機を知らない小日向だったが、サイモンの挙動を不審に思い「続けさせてください」と答える。なんとか危機を回避した彼は、同じように弱みを握られている強盗団に提案する。

ワルとワルの潰し合い

一般に、闇バイトやトクリュウ型犯罪において、組織の上部の人間である指示役が、末端の実行犯と会うことはないと聞く。でも『リアルター』の描写はとても生々しい。それは、人の弱みを握り、徹底的にマウントを取り、支配下に置く手順が描かれているからだ。「信頼」とは正反対の「疑心」をベースにした人間関係に「暴力」を振りかければ、そこにトクリュウ型犯罪組織が出来上がる。

日本最大のマフィアのボスに成り上がった小日向は言う。
「裏切り者は決して許すな」
彼は、その言葉をサイモンから教わったという……。

鋭い洞察力を持ち、死期が近いゆえに怖いものがない小日向だが、それだけで成り上がれるほど犯罪組織は甘くない。進行が早いと言われる胃がんのステージ2から3。この寿命という制限時間のなかで、小日向はサイモンに対峙していく。その一方でサイモンは、小日向の資質を嗅ぎつけ、彼の弱点である“家族”に近づき、支配下に置こうとする。
『リアルター』は、圧倒的な強者サイモンと、弱者小日向の対決を軸にした息を呑むクライム・サスペンスだが、第1巻は、まだまだ序章。喰うか、喰われるか、その駆け引きは次巻以降のお楽しみ……だ。

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

おすすめの記事

試し読み

江戸川乱歩賞受賞作『殺し屋の営業術』、コミカライズ! 凄腕営業マンが「殺人」を売りさばく!

  • ミステリー
  • 仕事
  • サスペンス

レビュー

闇バイト、ヤクザ、売春…!? 売れない漫画家が踏み込んだのは不穏な裏社会

  • エンタメ
  • 花森リド

レビュー

真実を知るには「それなりの代償」が必要だ。週刊誌記者に命の危機が迫るオカルトサスペンス!

  • エンタメ
  • 嶋津善之

最新情報を受け取る

講談社製品の情報をSNSでも発信中

コミックの最新情報をGET

書籍の最新情報をGET