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2026.05.30

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生き残るのは1人だけ! 失敗すれば即、爆発。333人の「石井」のデス・ゲーム──『死んだ石井の大群』

王道デスゲームの皮を被った、予測不能のミステリー

見知らぬ場所に閉じ込められ、姿を見せない主催者に命を懸けた不条理なゲームを強制される――。「デスゲーム」の王道フォーマットだ。 誰が何のためにこんなことをしているのか。読者を主人公と同じ「何もわからない状態」で異常事態に放り込むことで、圧倒的な没入感と「とにかく生き残らなければ」という強烈な緊張感が生まれる。
漫画『死んだ石井の大群』は、金子玲介の同名小説のコミカライズ。王道フォーマットに仕込まれた「333人の参加者全員が“石井”」という不気味なバグが、デスゲームをさらに予測不能な展開に進めていく。

石井唯はずっと死にたかった。物心ついた時からずっとだ。これまで試した数々の「死ぬ方法」は、いつも失敗に終わった。しかしこの日はちょっと違って、唯は見知らぬ白い部屋で目を覚ます。
周囲にいる人たちは年齢も性別もさまざまだが、みな一様に体操服と首輪を身に着けている。どういうことだ? 状況がわからなくて、また死にたくなる。戸惑う唯に、一人の少女が話しかけてくる
彼女の名前は“灯莉”。苗字は唯と同じ「石井」だ。その偶然に盛り上がっていると、 突然響くアナウンスが唐突な「第一ゲームのルール」を説明しはじめる。
ゲームはドッジボール。しかしただの球技ではない。333人の参加者の苗字は全員石井で、さらに
三つのゲームを実施し、最終的に勝ち残った一名のみが生還となります
え? 生還?
困惑する唯たちをよそに次々と発射されるボール。ぬるっと始まったゲームだが、アウトになるとどうなるのだろう。その答えを唯はすぐに目にすることになる。
ボールが当たればその場で首が飛ぶ。
さらに、首輪を外そうとしても、赤いラインの外に出ても即座に首輪が爆発する。唯はデスゲーム、つまり命を懸けたドッジボールに放り込まれていたのだ。
あんなに死にたかったというのに、唯は思う。今はまだ死ねない。こんないかれた遊びを仕組んだやつの顔に蹴りを入れるまでは。

消えた“憑依系”俳優

同じころ。閉鎖空間から遠く離れた場所でも奇妙な事件が起きていた。
元作家で探偵事務所を営む伏見と、弟子の蜂須賀のもとに、伏見の高校の同級生・鶴田が現れる。鶴田の劇団の舞台に出演していた“石井有一”が、舞台の千秋楽を前に失踪したというのだ。
どんな役もまるで憑依したかのように演じる彼の才能に、鶴田は惚れ込んでいた。しかし石井有一は45歳。鶴田が彼の失踪を訴えても事件性は薄く、警察も積極的な捜索はしてくれない。
驚くほどの額の手付金を差し出し、深々と頭を下げる鶴田に衝撃を受けた伏見は、石井有一の情報を集めるが、その行方は見当もつかない。家出か事故か自殺か、あるいは……

交錯する謎と「意図」

無関係に見えた「血みどろのデスゲーム」と「天才役者の失踪」。それぞれの物語の中心にいる2人の「石井」がどう交錯するのかが本作最大のフックだ。コミカライズは伏線を「絵の力」でこぼさず拾えるのがいい。たくさんの“石井”が登場する本作は「また石井か」と無意識に読み飛ばしてしまいそうな繋がりも多いが、漫画はそれがダイレクトな視覚情報として頭に入る。文字だけでは見落としがちなパズルのピースにも自然と気づかせてくれる。
主人公の唯が「死にたかった」という設定もいい。数秒に一度、当たれば首輪が爆発するボールが飛び交う極限状態。ここに「生きたくて仕方ない」普通の人間が放り込まれたら、恐怖でただパニックに陥るだけだろう。しかし、唯は違う。
強い負けん気と怒り、「灯莉と一緒に生き残りたい」という気持ちを原動力にこの状況を乗り切ろうとする。この肝の据わった唯の視点で物語が進むため、ゲームのルールや周囲の状況、人間関係がノイズなく理解できるのがいい。
このデスゲームは殺し合いを強いられるわけではなく「死のルール」も明確だ。しかし333人もの参加者が全員「石井」となれば、ただの快楽殺人というより大量虐殺には何かの「意図」が働いているのではないか? そんな考察をするのもまた楽しい。

同じ苗字が狙われる不条理や、参加者の生死を握る首輪、そして「子どもの遊び」を命懸けで行う狂気など、この作品には有名なデスゲームものを彷彿とさせる要素がたくさん盛り込まれている。「どこかで見たことがある設定だな」と思うかもしれないが、原作を読んだ私からは、この「既視感」さえも仕掛けなのだ……とお伝えしたい。怒涛のスリリングな展開に引っ張られながらも、ふとした瞬間に感じる「いや、なんでだよ?」という違和感を、ぜひ心の片隅に留めたまま読み進めてほしいと思う。
すべての違和感が繋がり、タイトル『死んだ石井の大群』の本当の意味を知った時。そこにあるのは単なる不条理なホラーではない。少し切なく、そして力強い余韻が待っているはずだ。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。

X(旧twitter):@752019

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