龍と人間の戦い(あるいは共生)を描いたファンタジー作品は数多いが、これは明らかに一線を画している。まずは第1話のダイナミックな見開きを見てほしい。
この描き込み、スケール感、世界観構築は、ただごとではない。作者は『リバイアサン』の黒井白。線の細かさとボリューム、肩幅の狭い人体描写のリアリティなど、日本の漫画というよりヨーロッパのBD(バンド・デシネ)を思わせる描写も多い。宮崎駿のコミック版『風の谷のナウシカ』を思い出すとしたら、やはりその日本人離れした画力から来るものだろう。実際、作者はBDや『風の谷のナウシカ』、『ドラゴンボール』や『アキラ』の愛読者でもあったとか。それにしても、連載漫画でこの画風を貫くのは、並大抵のスタミナでない。
ストーリーはいたってシンプル。龍に育てられた人間の少女ナトが、「龍狩族」の狩人ルドラに保護され、人間として新たな生活を送ることになる。かつて“家族”だった龍を殺す側にさせられたナトは懸命に抵抗し、問題児扱いされながら成長していく。やがて彼女は思うところあって人間として生きる道を選択し、龍狩族の一員として苛酷な試練に挑む……。時間経過を凝縮したような濃密なストーリー展開は、絵柄の濃さと相まって想像以上の読み応えを与える。また、ビジュアルはBD調だが、語り口は王道の日本漫画らしさも感じさせ、そのハイブリッド的感覚も新鮮だ。
龍のデザインも独特。大型の個体に体毛があるのは、近年の恐竜の想像図からの発想だろうか。新しい解釈を取り入れつつもクラシックな魅力を外さない造形センスが、読者の目を捉えてやまない。また、「生物としてのドラゴンをどう解釈するか」という課題にも果敢に取り組んでいて、その描写も面白い。フランシス・ベーコンの絵画を彷彿させる禍々しいクリーチャーの変容形態、グロテスクな生態に、作者のチャレンジ精神を感じる。
人間と龍という、地上の支配者となりうる力を有した生物同士の相剋も、今後のストーリー展開を左右するテーマとなるのだろう。その狭間でアイデンティティの問題に直面する主人公ナトのドラマは、ヒリヒリした現代性も含んでいる。
第1巻の終盤には、少年少女のチームワークを描く冒険漫画テイストまで立ちのぼる。そこから先の展開はまだ読めないが、いち読者としての立場から言わせてもらうと、これまで多くの物語で退治される側だった希少生物が、完全勝利をおさめる話になってもいっこうに構わない。そう思わせるほど、両者に対する作者の視点は公平性を貫いている(どちらにも「悪」の要素は存在するという、辛辣な描写を含めて)。
ハンドメイドの「画で魅せる」気概に満ち溢れた作品性には、AI全盛の時代における反発心と反骨心も感じさせる。まさに、漫画の魅力をとことん追求した芸術的エンタテインメント作品だ。
レビュアー
岡本敦史
ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。