PICK UP

2026.03.12

レビュー

New

唐の価値観をひっくり返す! 現代知識とグルメの力で無双せよ!!『王朝無双』

日中合作の歴史グルメファンタジー

短編ドラマアプリ「UniReel」を運営するCOL JAPANが原作を提供し、月刊少年マガジン編集部および国際企画編集チームが制作・編集を手掛ける新プロジェクトとして、「月マガ基地」にて連載中の本作。

原作は、中国人の推塔天王による同名小説。漫画を担当するのは、本作が商業デビューとなる南冥青天。日中合作による、料理と歴史への興味が尽きない異世界グルメファンタジーの誕生です。

主人公は若き料理人! 市井の人々の幸せを願う心優しき転生者

舞台となるのは中国・唐の時代。西暦635年、日本でいうなら、あの有名なイベント・大化の改新の少し前というタイミングです。現代でサラリーマンだった主人公は、この時代の人物・趙辰(ちょうたつ)という、長安の料理店を切り盛りする若き料理人へと転生。その過程で料理や絵画など文化スキルをゲットできる謎の「システム」を授かります。
趙辰の中の人となる主人公は、サラリーマン時代から一貫して個(社員)より組織(会社)が優先される仕組みに異を唱えており、転生後もそのスタンスは変わりません。まだまだ多くの人が貧しい暮らしをする唐の時代において、どうすれば人々が豊かな生活を送れるのかを試案する、志高き人物。それも、今目の前でお腹を空かせた人に食べ物を与えても、一時しのぎにしかならず、社会を根本から変える必要があると試行錯誤していました。

とはいえ、趙辰はひとりの料理人に過ぎません。社会を変えるといっても、何ができるのか。そこで重要なツールとなるのが、転生時に授かった「システム」です。

ちなみに、「システム」によって高度な文化スキルを得た趙辰は、店内にこんな詩をしたため、飾っています。
これは北宋時代(960年代~)の文豪・蘇軾が詠んだ「定風波」という詩の一部。まだ唐の時代には存在しない有名な詩を堂々と飾ったうえ、「定風波」以外にもこの時代にあってはいけないものが飾られており、タイムパラドックスなんぼのもんじゃいという趙辰の自由な姿勢は潔いです(笑)。

食を通じて国を、そして社会の仕組みを変える!

食が社会の根幹であることを、再認識させられる点が本作の見どころのひとつ。料理人という立場から身近な食材を例に出して、問題の原因と結果を示しつつ、その改善点を提示。社会情勢なども踏まえた趙辰のプレゼンは、作中における説得対象者のみならず、読み手である私自身が「なるほど……そういうことか!」と納得させられるものでした。さらに付け加えるなら、今とは異なる当時の食文化に関する解説も入るので、時代や歴史というものへの関心も深まります。

たとえば、高貴な身分ながら「商人」だと偽って来店した客の「食べたことのない料理を」というリクエストに応え、とある料理を出したシーン。
家庭料理ということもあってか、高貴なふたりにとっては未知の料理。一口食べると、肉がほぐれて消えてしまうという、驚きの食体験にふたりも大感動……かと思いきや。
現代日本を生きる私たちには「まさか」というようなお話ですが、当時の豚肉はこのように低い扱いを受けていたわけです。

「食べたことのない料理を」というオーダーに、趙辰は「ちょっとリスキーだが」と思いながら、この紅焼肉を提供。その整った身なりから庶民でないことはすでに察しており、それゆえにリスキーを承知で、未体験であろう家庭料理を振る舞った趙辰の観察眼と胆力。そして、客に賤肉をふるまうとは→庶民ですよね?というやり取りからわかる、機転が利く彼の地頭の良さもまた、趙辰というキャラクターの魅力を引き立てます。

また、ここで趙辰は「国の根幹をなすのは食」と説き、牛肉食を禁止した法を官僚たちが犯しているという不正と併せて、改善点を指摘します。
理路整然、(読者に向けては)わかりやすいデータも添えて、完璧なプレゼンです。私が宰相なら豚肉施策、即採用。個を大事にしたいからこそ、一つひとつの個を救うのではなく仕組みごと社会を変える。まさに彼の思想が詰まった提言といえるでしょう。

皇帝からの難題にチャレンジ! 料理人が国家の命運を左右する!?

ここまで「高貴なふたり」と記してきた登場人物、実はめちゃくちゃ偉い人でした。
トップオブトップ。このふたりが偉い人だろうと察していた趙辰も、さすがにその正体が皇帝であることには気づいていません。「趙辰と太子が入れ替わってしまった」という不穏なフレーズも飛び出していますが、この時点においてはまだ、入れ替わりの詳細は不明です。

皇帝・李世民(りせいみん)は今、国家財政の危機という問題を抱えており、解決策として「塩の専売」策が挙がるなか、その管理業務の仕切りを豚肉問題で評価した趙辰に依頼します。しかし趙辰はこれを固辞。生活に必要な塩の販売を国が独占すれば国は潤いますが、そのしわ寄せが庶民に来てしまう。人々の暮らしを思う、彼らしい思考です。ならばと、李世民は代案を出すよう命令。しかも期限は1ヵ月。さあ、どうする趙辰!? 現代の知識を持つ料理人の彼は、一体どんな解決策を見出すのか、気になるところです。

唐という一時代を築いた中国の国家を舞台に、市井に暮らす料理人が知恵と優しさと「システム」を駆使しながら、料理を通じて人々を豊かにしていく。転生や王宮内での不穏な人間関係といった要素も織り交ぜつつ、壮大かつ誰もが知る食材を取り上げる親しみやすさによって老若男女が楽しめる、好奇心刺激されまくりの異世界グルメファンタジーです!

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

おすすめの記事

レビュー

不吉な銀髪の少女と若き外交官、明治の世にもたらした革新とは『白銀のキュイジーヌ』

  • 料理
  • 仕事
  • Micha

試し読み

痛快ざまぁ系ハーレムファンタジー! キャンプで強くなる転生ライフ!!

  • ファンタジー
  • グルメ
  • 異世界・転生

レビュー

オッサンが異世界の姫に転生!? 謎食材と魔物だらけの異世界“限界”グルメ!

  • 異世界・転生
  • グルメ
  • ほしのん

最新情報を受け取る

講談社製品の情報をSNSでも発信中

コミックの最新情報をGET

書籍の最新情報をGET