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2026.01.18

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かつて「行方不明」になったはずの友人と再会した──おまえはだれだ?『はじめの友人』

不穏な村と、8年後の再会

小学生の谷亀遼太は、カメラが趣味の父に付き合って、山奥の寂れた村を訪れる。ちょうどそのとき、村では「ふた祭り」という祭りの準備に追われていた。その祭りには、こんな言い伝えがあった。
災いとは何か?
村人たちは「まあとにかく人が沢山亡くなったんだよ」と、知らないのか、隠しているのか、はっきりと答えない。そこに現れた一人の老人がこう言う。
気味の悪い話を聞いたうえに、田舎ゆえに何もすることがない遼太は、すっかり暇を持て余してしまう。そんなとき、同じ年頃の少年と出会う。彼の名は中本朔(はじめ)。村の有力な一族の息子で、災いを「ふた」で封じ込めた行者の末裔だという。
「村から外に出るな」
「村で作られたもの以外口にするな」
「中本家以外の村人とは口を利くな」
そう言われて育った朔は、村の外のことについて何も知らなかった。村の言い伝えなど嘘だと決めつける遼太に、ならば実際に行者が施した「ふた」を見てみるかと、朔はお堂に誘う。
よく分からない規則やルールが嫌いな遼太は、恐れることなく“開けてはいけない”その扉を開けてしまう。
「ほら、何も起きない」
そして「お前さ、出てこいよ、こんな村」と朔を誘う。
「ここを出てどこに行けば…」
と、その瞬間、遼太と朔は扉の向こうから伸びてきた手に捕まり、暗闇へと引き込まれてしまう。忍び寄る何者かの足。無数の足。すんでのところで遼太と朔は逃げ出すが、気を失ってしまう……。

遼太が目覚めると、そこは中本家の布団の上。お堂の前で倒れていたところを助けられたのだという。
朔は?
そこに現れたのは……
別人。
しかし、朔の父をはじめ、誰も別人であることに気付かず、前から“それ”が朔であるかのように接している。
遼太が会った朔は朔ではないのか?
というか、
気を失う前に何をしていたのか?
どうしてお堂に行ったのか?
何を話したのか?
朔はどんな顔だったのか?
よく分からない……。

混乱する遼太は、再び老人と出会う。その老人は言う
かつてこの村では、「うなゐさま」という怪異が人間になりすまし、村や家族に混ざり、悪さをしては村人を困らせていた。一度うなゐさまになりすまされると、決してそのことを見抜ける者はいなかった。うなゐさまに記憶をいじられるからだ。やがて村では疑心暗鬼から争いが絶えず起こるようになり、村人達はうなゐさまの名を出すのも憚(はばか)るようになった。
それからというもの、遼太は漠然とした恐怖感を抱え続け、内向的になり、朔のことも忘れた。
8年が経ち、遼太は大学生になった。
そして大学のキャンパスで、中本朔を名乗る青年と遭遇する。

予想を裏切り続ける展開

田舎でなにかしら禁忌に触れ、恐怖を味わう。この物語の感じは「くねくね」や「きさらぎ駅」、「八尺様」といった、いわゆる“ネット怪談”的な怪異譚に近い。「うなゐさま」は“なりすまし”を行うので、SF小説の古典『盗まれた町』(ジャック・フィニィ作。何度も映画化されている『ボディ・スナッチャーズ』の原作としても有名)も思い起こさせる。あと「うなゐさま」の“記憶をいじる”という能力も、なにか人の本質的な部分を逆撫でされるようで落ち着かない。なぜなら、「自分は自分である」という人間の根本は、“なりすまし”と“記憶をいじる”ことで、いとも簡単に崩れてしまうからだ。

大学生になった遼太は朔と再会し、遼太は朔に追い詰められていく。朔の正体は? なにが目的なのか? と……展開すると思うだろうが、そうはならない。それが『はじめの友人』の面白いところだ。

大学生になって一人暮らしを始めた遼太のまわりで、奇妙なことが頻発する。玄関前に花束が置かれたり、お菓子が置いてあったり、さらには誰も居ないはずのベランダに女性の影が見えることも……。「誰かのいたずら?」かと思っていたところに、朔が現れる。
朔は、隣の部屋に住んでいた。遼太は朔を忘れているが、読者は朔を知っているし、朔が「うなゐさま」であれば記憶をいじれる事も知っている。遼太の記憶はもちろん、管理人さんの記憶だっていじれる。読者だけが状況を俯瞰して理解できていて、当然、次に起こるであろう恐怖体験を予測してしまう。
そして事態は、悪くなっていくのかと思いきや……、
悪くなるのだが……、
違う方向で悪くなるのだ。
壁に対して垂直に浮かぶ、本物の幽霊が出る。
遼太の部屋の近くの踏切で、若い女性が飛び込み自殺をしていた。玄関先に置かれた花束やお菓子は、お供え物だったのだ。女性の幽霊は、その自殺者の霊。じゃあ、お供え物を玄関先においたのは誰なのか? 物語は意外な方向へと展開していく。

人間と、人間ではない幽霊や妖怪、人ならざるモノが組んで、不思議なこと、恐ろしいものに対峙する漫画作品は多い。ヒーローものや、アクション、ミステリーからコメディまでジャンルはさまざまだが、『はじめの友人』はそれを真正面からホラーとして描こうとしている。この女性の幽霊譚の次は、山奥のリゾートホテルの幽霊譚である。この展開、ゴーストバスター的なバディものとも言えないこともないが、朔は怪異を解決するわけでも、遼太を助けるわけでも、友情を結ぶわけでもない。朔はときどき遼太の前にふらっと姿を現すだけ。でも、ひょっとしたらどんな怪異よりも朔は厄介で恐ろしい存在かもしれない。そもそも朔は、8年前の遼太の知る朔か、なりすました朔かさえも分からない。

本作のタイトルを考えてほしい。『はじめ(朔)の友人』なのだ。遼太が主人公のようで、あくまで物語の中心は「朔(はじめ)」だ。朔が「うなゐさま」なのであれば、これからどんな災いを招くのか? なにひとつ分からない。なにひとつ先が読めない。不穏さだけを湛えたこの意欲作、このムズムズと湧いてくる不安を解くには、続きを読まなければ収まらない。

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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