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2026.01.08

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おれの遺骨で、花火作ってほしいんだよね! 閉塞感に満ちた日々を爆発させる青春譚『ランチユーインザスカイ』

本作の冒頭、爆発したのは花火だ。
『ランチユーインザスカイ』は、「主人公の高校生・南圭介が、なぜに大晦日の夜に打ち上げ花火を上げることになったか?」を描いた物語で、全6話1巻で完結する。一見して作者・伊藤九氏の強烈な作家性が滲んだ作品だと、わかってもらえると思う。それこそ、全ページペン入れが済んだ状態で編集部に持ち込まれたんじゃないかと思うほど、作者の「描きたい絵」「語らずにはいられない物語」の切迫さに溢れている。それに共鳴した人は、この1冊が長く本棚に収まり、何度も思い出したように繰り返し読むことになる。きっとそういう作品だ。

南圭介は、趣味はなし、特技はお勉強という高校生。ただ極度の緊張しいで、高校受験に失敗し、なんとか潜り込んだ高校の生活に馴染めずにいる(もし望んだ高校に入っていたとしても、多分馴染めていないだろうなぁと思える、いわゆる“影の薄いヤツ”だ)。花火大会が行われる夏のある日、彼は学校の下駄箱に差し込まれた手紙を発見する。
花火大会いっしょに行こう。
話したいことがあります。
19時橋の下で待ってる。
「たかが花火されど花火!!!」
ついに、南にも青い春が、“青春”というやつが訪れた!と思いきや、現れたのは
思わぬ人物からの、思わぬ告白? それは正しい。
愛の告白? それは違う。
手紙の主、喜多誉は、こう告白する。
喜多は続けてこう言う。
「そんでさ、おれは死んだら花火になりたいわけ」
自分の遺骨を花火の火薬に混ぜて打ち上げてほしい。ついてはその花火を一緒に作ってくれないかと、南に持ちかけるのだ。
乳歯が抜けて永久歯が生えるように、少年が第二次性徴を迎えて声変わりするように、誰にも色めく青春が訪れるわけじゃない。南においては、ほぼ間違いなく目の前を通り過ぎる予定だった青春が、喜多との花火作りという形で訪れる。まぁ、その青春は色めいてもいないし、犯罪なんだけれども……。

南と喜多はせっせと打ち上げ花火を作り始める。
そして、冒頭のオープニングタイトルのように花火は上がる。

爆弾と花火

デジタルで描かれたのか、ペンで描かれたのかわからないけど、ラフに見える描線のひとつひとつがとてもいい。この良さを“味”というのは簡単だけれども、それでは済まない「これが俺の絵だ!」という念みたいなものを感じさせる。作者には、'22年9月期モーニング月例賞で佳作を受賞した『かないさん』 と、第85回ちばてつや賞一般部門で入選した『つづきのつづき』という発表作があるのだが、本作では絵のタッチが、さらに“俺の絵”に近づいているように思える。それは描線に絡ませるように、なにか絵を汚すような極細の線でグリグリと描かれるモジャモジャに見て取れる。陰影や色、ほぼ全編に書き込まれるモジャモジャが「俺だ!」「これが俺の絵だ!」を主張する。
あと、物語の肌触りは、若き日の窪塚洋介や松田龍平、加瀬亮とかが主演した'00年代の青春映画群を思い出させる。その映画群ではだいたい、放出先のわからない鬱屈したエネルギーが暴力やバイオレンスに向かうのだが、このマンガはそこへは向かわない。南にとっては満たされない青春、喜多にとっては満たされない生が、怒りとなって爆弾を作り始めてもおかしくないのに、コテコテと半年かけて橋の下で花火を作る。それが現在形の青春なのか? いや違う。作品が抱えるスピリットはやっぱり変わらないと思うのだ。花火と爆弾、爆発するという本質において差はないからだ。

「そんでさ、おれは死んだら花火になりたいわけ」
喜多はどうして花火になりたいのか? 南は深いワケを聞こうとするが、喜多は「わかんない」という。
…なんかこうリクツとかよくわかんないまま気づいたらそこにあるものってあるじゃん。
そーいうのはさ…そのままでいいと思うんだよねー…
この喜多のセリフにある「そーいうの」とは何なのか?
余命半年を切った自分の“生”かもしれないし、それを受け入れざるを得ない"運命"かもしれない。
「そーいうの」に向き合うことに、果たして意味はあるのか?
それって大事?
喜多のこのセリフは、まるでビートルズの「Let it be(あるがままに)」や、ジョン・アーヴィングの小説『ホテル・ニューハンプシャー』の「Keep passing the open window(開いた窓は見過ごせ)」といった言葉のように痛切だ。

学校の化学準備室から薬剤を盗み、四苦八苦しながら花火を作るふたり。ようやく花火に詰める小さな火薬玉ができあがり、それに火を付ける。見事、発火したのを見て喜多は叫ぶ。
なにが「あんしん」なのか。無事、花火が作れそうなことか?
それとも、もっと違う救済のようなものか?
友情とか、青春とか、なにかキラキラしたイメージの底に沈んだ、“それもまた”友情とか、青春といえるもの。それを見事に自分のスタイルで描ききった作品をぜひ読んでほしい。

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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