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2025.12.03

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『頭文字D』『MFゴースト』の世界が重なり合う──真・公道最速伝説!『昴と彗星』

「公道最速」を目指す、新たな伝説が幕を開ける

「伝説の走り屋」にして「悲運のラリースト」藤原拓海を輩出した、北関東の走り屋たちの聖地、群馬県・秋名山の峠道。近ごろその聖地が、何やら別の話題で持ちきりらしい。

秋名のダウンヒルに挑む車に対して、ものすごい勢いで追いかけてくる謎の幽霊(?)。
話によると「四足歩行で走るやせこけた婆さん」らしいのだが……。

そんなバカな噂を聞き付けた、拓海のかつての走り屋仲間である池谷とイツキ(今はオッサンのガソリンスタンド店員)は、久々に夜の秋名のダウンヒルに挑む。

そこに現れたのは、まさかの噂通りの「四足歩行で走るやせこけた婆さん」!
慌ててぶっちぎろうとアクセルを踏む池谷だが、その「幽霊」を振り切れず、痛恨のスピンで愛車をボコボコの傷物にしてしまう。

その直後、落ち込む池谷の職場(ガソリンスタンド)にある女性が現れる。
名前は佐藤昴(さとうすばる)。レーサー養成所「ドリームプロジェクト」の特待生であり、公道最速を争う世界的レース「MFG」のパイロットになることが目標だという。

彼女も「秋名の幽霊」の噂を聞きつけて勝負を挑むが、あっさりと返り討ちに遭う。
しかしその直後、同じ峠で知り合ったオッサンの走り屋(実は藤原拓海の父親・藤原文太)が、昴自身の愛車で圧倒的なドライビングテクニックを披露して、幽霊をぶっち切る。昴は助手席でその驚異のダウンヒルを体感し、感動してしまう。

一方、神奈川県藤沢市の「緒方自動車」には「自分を緒方自動車のハチロクに乗せてMFGに挑戦させてほしい!」というドライバー志望の青年が、連日訪れてくるという。そのうちの1人が、大学生の工藤彗星(くどうすばる)。彼の頭にあるのは、もう1人の「伝説のレーサー」の姿だった。

公道最速を争う世界的レース「MFG」に彗星のように現れ、ライバルたちより性能がはるかに劣るマシン「トヨタ86GT」(通称ハチロク)で圧倒的なドライビングテクニックを披露。伝説を残してわずか1年で去っていったドライバー、片桐夏向(かたぎりかなた)。

彼と組んだメカニックこそ、緒方自動車の社長・緒方だった。彼は借金返済に苦しむ毎日の中で、カナタとともにMFGに挑戦した1年間で「生きがい」を取り戻していた。そのため、カナタを失った今、抜け殻のようになっていた。

そんなおり、MFGの運営本部から衝撃の発表が飛び出した。
MFG未経験、25歳以下の若いドライバー限定でエントリーできるMFGへの登竜門「MFGフレッシュマンシリーズ」の創設だ。
工藤彗星はその発表を聞き、何としても出場したいと、改めて緒方の下へ。その執念に感じ入った緒方は、自身のハチロクに彗星を乗せ、ともに戦う覚悟を決める。

一方で佐藤昴も「ドリームプロジェクト」からの推薦で「MFGフレッシュマンシリーズ」へのエントリーが決まる。秋名の峠道にて、文太のドライビングテクニックを助手席で体験した昴は、自らの覚醒を予感して自身に満ち溢れていた。
佐藤昴と工藤彗星。2人の「すばる」による『頭文字D』『MFゴースト』の流れをくむ「真・公道最速伝説」が、ここに開幕する――。

しげの作品には珍しい「普通の人」感が強い主人公の成長が楽しみ

90年代後半~2000年代の「走り屋たちのバイブル」『頭文字D』。
夜間の公道を舞台にした走り屋たちの違法バトルが描かれており、その中で圧巻のドライビングテクニックで存在感を放っていたのが、主人公である藤原拓海だった。

一方、『頭文字D』のキーワード「公道最速」を引き継ぎ、災害によるゴーストタウンをクローズドコースとしたうえで日中に開催される合法レース「MFG」のレースバトルが描かれた『MFゴースト』。
この舞台に彗星のごとく現れ、絶大なインパクトを残して去っていった伝説のドライバーが、カナタ・リヴィントン(片桐夏向)だった。

本作『昴と彗星』は、『MFゴースト』の単行本最終巻で、同作の直接の続編として連載予告が行われている。しかも『MFゴースト』では一度も登場しなかった藤原文太(拓海の父で元ラリースト)が、いきなりメインキャラの1人として登場。まさに『頭文字D』と『MFゴースト』の世界が重なり合う最新作となっている。

おそらく第2巻以降、舞台はMFGへの登竜門「MFGフレッシュマンシリーズ」へと移行し、2人のすばる(昴と彗星)の活躍とライバルたちとの対決が描かれていくのだろう。

『頭文字D』『MFゴースト』でしげの秀一先生が描くレースバトルの多くは「圧倒的な神業的テクニックを持つ主人公と、彼と鎬を削る個性豊かなライバルたち」という展開になっている。

主人公の運転技術が高いのは当然として、藤原拓海はどこか冷めて俗世離れした物言いが、帰国子女の片桐夏向は底抜けに礼儀正しくお人好しで世間ずれしていない言動がカリスマ性を助長し、周囲から「ちょっと変人だけどスゴイ人」と思われていたように思う。

一方で今回の2人の主人公は、今のところ(特に彗星は)ドライビングテクニック自体が未知数だし、普段の言動から揃ってなんというか「普通の人」感があるのが面白い。これまでのしげの先生の作品なら、どちらかと言えば主人公の脇を固めていたようなキャラクターのように見える。

そんな2人が、とてつもない怪物たちが鎬を削る公道レース「MFG」の世界で、どのような立ち回りを見せるのか。ドライバーとしても人間としても、かなり急激な成長を見せるのではないかという予感がある。

2026年1月からはアニメ『MFゴースト』の3rd seasonもスタートするようだ。
数十年来の「しげの作品」のファンにとって、今年が「充実の冬」になることは間違いない。

レビュアー

奥津圭介

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。

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