映画を知る監督と漫画家の強力タッグで描く“お仕事コメディ”
本作の主人公は元ヤクザであり、とある事情で服役後、今はケーキ店で働く奥園鯨(おくぞのくじら)、35歳。キュンキュンした恋愛映画『QUN(ハートマーク)極』(きゅんごく)シリーズの大ファンで、コワモテなビジュアルに店員からドン引きされようが、劇場で観ることを貫く『QUN(ハートマーク)極』愛に溢れる男。
意外と知らない!? 映画撮影のあれこれ
たとえば、鯨が元ヤクザであることをうまく利用したこんな勘違いも。
ロケハンのエピソードでは、瑠衣が探し出した候補地が、作品の出資会社と競合する企業の看板が映り込んでしまうため却下されるという悲話も。映画制作はお金がかかります。出資者がいなければ成り立ちません。そう、映画は夢を見させてくれるものであり、同時にシビアな現実を見せつけられる、そんな存在でもあるわけです。
ケータリングひとつで現場の空気が変わる! 超重要な裏方仕事
とある撮影現場で飯場担当となった鯨と瑠衣は、飯場が荒れ放題となっていることに気づきます。進行役がおらず、ゴミの分別もされていない。また、撮影のタイムテーブルが急に変更されたため満足に準備ができず、ぬるい食事を提供せざるをえない状況に……。その結果、現場からは不満の嵐、士気も当然ダダ下がり。
悔しい思いをしたふたりは、鯨の機転もあって、飯場を大改革。
私は以前、とあるロックバンド主催のフェスで裏方仕事をしたことがありまして、バックヤードに用意されたケータリングがとても印象に残っています。まだ肌寒い時期のフェスで、事務所の偉い人が自ら手作りした豚汁が身にも心にも沁みました。もちろんゴミの分別も完璧、お弁当からお菓子までいろいろ用意されていて、決して予算豊富なフェスではないけれど、だからこそ手作り感もあって。本作を読んで、仕事仲間とワイワイしながら食べたあの昼ご飯の思い出が、温かい記憶として甦ってきました。仕事とご飯は、決して切り離せないのです!
鯨と瑠衣が映画人として成長していく物語
実は鯨の映画現場初仕事は、ロケ現場となった彼が働くケーキ店での、音声まわりのお手伝い。高性能なガンマイクが冷蔵庫の音を拾ってしまうため、カメラが回っている間だけコンセントを抜く、という単純な仕事です。
『QUN(ハートマーク)極』という映画の一ファンだったひとりの元ヤクザが、(モノやヒトを) “壊す”組から、(映画を)“つくる”組へとその立場を変え、初めてのことだらけの新鮮な現場で、様々な経験を積んでいく。
映画好きの知識欲や好奇心をかき立てるだけでなく、チーム一丸となって目標を達成することの面白さ、そして本気で働く人間から沸き立つ情熱の美しさも伝えてくれる、実にドラマティックなお仕事漫画です!








