世の中には、警察官が主人公のドラマ、映画、小説、漫画がたくさんあります。「刑事モノ」と呼ばれる、刑事部(あるいは刑事課)所属の警察官が主役を務める作品では、次々と発生する凶悪犯罪に立ち向かう刑事たちを描き、殺人犯を逮捕したり、作品の時代によっては派手な銃撃戦をしたりと、警察作品の中でも花形と言えるかもしれません。
一方で、刑事部以外の警察官を主役に据えた作品もまた、多くあります。いわゆる「交番のおまわりさん」が主役の『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』や、警視庁公安部の捜査官が主人公の『SPEC』等々。
そして本作もまた、刑事部ではなく生活安全部の一部署が舞台の作品です。その名も、少年事件第零課ヤングダイヤル。
少年少女を守るために新設された架空の部署で、子供たちからの、いじめや親との関係といった相談から、家族や学校関係者からの相談なども24時間受け付けて、事件の「可能性」の段階から介入する組織。シリアスなドラマが展開されそうな予感もありますが、本作はコメディの要素もたっぷり。
少年少女たちが抱えるトラブルや、巻き込まれている事件を解決しつつ子供たちに寄り添い、救い出していく。そんな大枠のなかで、ヤングダイヤルというチームを舞台に様々なキャラクターたちがそのユニークな個性を発揮。
笑いで大事なのは「緊張と緩和」と言いますが、まさしく事件=緊張、コメディ=緩和の図式がビタっとハマり、ついついクスっと笑ってしまうのです。
物語は、主人公の志鷹千栄子(したかちえこ)がヤングダイヤルに配属された日から始まります。こう見えて元マル暴(主にヤクザなどを相手にする部署)。
志鷹は、マル暴を理由に彼氏から婚約破棄されたことがきっかけで、自ら異動願いを出して少年課へと移ったのでした。
イメージの良い部署に移って“普通”をめざす志鷹の前に現れたのは、いきなり「ちゃん」付けで距離感詰めてくるおじさん、野間英三郎(のまえいざぶろう)含めてクセの強い面々。
チャラ男な課長、池田に続いて登場したのはこの男、蝙蝠鋼(かわほりこう)。本作において、志鷹とバディになる要注目のキャラクターです。
勤務初日、受けた電話相談でうまく対応できず、自信喪失の志鷹をねぎらう歓迎会でのひとコマ。
蝙蝠はとにかく白湯が好き。かくいう私も白湯が好きなので、気が合いそう。「白湯は裏切らない」というセリフも、ちょっと共感してしまいました。裏切られた記憶がないです。
志鷹たちが飲んでいるお店の一角に、なにやら不穏な空気が漂うグループを発見した志鷹と蝙蝠。どうやら、ひとりの女の子がグループ内の男から日常的に暴力を受けている可能性が。さあ、ヤングダイヤルチームの出番!なのですが……。
ちょっと様子がおかしい志鷹。目が座ってます。
蝙蝠の立ち回りにより、その場は収まりました。暴力におびえていた少女も、彼女を心配する友人の存在もあって、なんとかいい方向に向かいそう。
気になるのは、酒の力だけでは出せそうもない、志鷹のあの迫力。それもそのはず、彼女には隠されていた驚くべき秘密が――。
元ヤン、と呼ぶにはあまりにも骨太な暴走族出身。しかも白湯愛好家・蝙蝠が総長・志鷹を慕う右腕だったとは。
この設定にはいろいろな可能性を感じさせてくれます。暴れまくった族時代を経て警視庁入庁という今に至るまで、ふたりに何があったのか……そんな過去を辿る物語もありそうですし、かなり名を馳せていたと思われる暴走族「風流華路」(フリューゲル)時代のエピソードにも興味が湧きます。
実際、作品内では「風流華路」と関連がありそうな人物が殺害されてしまう事件も発生。少年課の愉快な面々が、悩みを抱えた子どもたちに寄り添っていく、人情系コメディドラマかと思いきや、別軸で進むハードな路線への広がりも感じさせてくれる展開も。
これから先、少年少女たちのどんなトラブル・事件が舞い込んでくるのか。そして志鷹と蝙蝠に待ち受ける不穏な存在の正体とは。
そしてまだまだ登場する、楽しいキャラクターにも注目。個人的にとても気に入っているのは、この方。
めちゃくちゃ怖そうですし、キレ者感も出てます。いかにも“優秀な刑事”という捜査一課の内木和哉(ないきかずや)には、意外な一面が……。
ラストのコマが目に飛び込んできたとき、思わず声を出して笑ってしまいました笑。ギャップ萌えに胸キュンする内木さんに、こっちがギャップ萌えです。
そしてやっぱり、居酒屋での豹変事件はお酒だけが原因ではないことがわかる、元総長の血が騒ぐ志鷹の二面性キャラの今後も楽しみ。
そこかしこに笑いを散りばめながら、昨今話題になっている“トー横キッズ”が象徴するような、家庭にも学校にも居場所がない若者たちの苦境を取り上げていく。一方で志鷹と蝙蝠の過去と因縁がありそうなストーリーも同時進行という、見どころ満載の警察コメディ。
キャラ立ちまくりなレギュラーメンバーたちの活躍にも、目が離せません。
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009