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2025.12.21

レビュー

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トー横に住む漫画家志望×若き編集者、新時代の漫画創作物語『マンガラバー』

マンガ好きには“作り手の世界”を覗く瞬間にたまらない魅力があります。制作の裏側を描いた作品やエッセイを読むたび、過酷な現場で努力を積み重ねる姿に胸を打たれ、作家と担当編集者という唯一無二の関係性に憧れすら感じてきました。

令和の出版業界は、おもしろくなければ即座に淘汰されるほどシビアな時代です。
その戦場に“真正面から殴り込みにいく”ように現れた若き編集者と少女の物語――それが2025年10月23日に発売された『マンガラバー』です。読んだ瞬間、こんなにも胸を焦がされるとは思いませんでした。

柳井は編集者として3年目の“売れる若手”。やる気はあるものの、失敗しないためにいつの間にか“無難な対応”が染みつき、挑戦や冒険を避けてきたタイプです。
一方、美澄(みすみ)は歌舞伎町のトー横で孤独を抱えながら生きる少女。幼い頃からマンガに救われ、今はまんが喫茶で作品を読み漁りながら独学でネームを描き続けています。柳井が取材で訪れたとき、「わたしのまんがを見てほしい」と声をかけた一言が、2人の始まりでした。
直感で「面倒ごと」と感じた柳井はその場をかわします。しかし翌日、美澄は大量のネームを抱えて出版社にやってきます。
だって嫌な気分になるだろ 
ここまでしてくれた作品がつまらないのは
観念して読み始めた柳井は、美澄の粗削りながらも凄まじい熱量に心を撃ち抜かれます。“この作品を世に届けるのは自分でなくては嫌だ”という直感が、彼の胸を強く突き動かします。
ただ、美澄には「商業的に売れたい」という欲はありません。
マンガは、自分と誰かをそっとつなぐための大切な手段。柳井に読んでもらえたことでひとつ満たされ、生きることに対してもどこか距離を置いてしまっているようでした。
新人賞への挑戦を決め、共に制作を進めるうちに、美澄の中にも確かな変化が生まれます。衝突しながらも作品に向き合う経験が、彼女の人生の温度をすこしずつ上げていくのです。

まんが喫茶で膨大な作品を前にした彼女の言葉は、とても印象的でした。
わたしもこの中のひとりになりたいって思ったんだよ
その表情には、確かに“明日を生きようとする意志”が宿っていました。

生き方も、価値観も、性格も違う2人。
けれど、どこか人生に冷めている部分は似ていて、お互いの存在がそっと火種となり、色のなかった日々に少しずつ熱が灯っていく――そんな過程が、本作の大きな魅力だと感じます。

これから2人は、商業マンガの世界という大きな渦に飛び込んでいくことになるでしょう。その他大勢ではなく、“自分たちの唯一無二の〈おもしろい〉”を読者に届けるために。

『マンガラバー』は、その名の通り マンガを愛するすべての人(=マンガラバー) に向けた物語。そして同時に、マンガ制作という過酷で美しい世界に挑むすべての人への、深いリスペクトに満ち溢れた作品だと感じます。

マンガを読むことが好きな人はもちろん、創作に向き合う人、誰かと一緒に夢を追う尊さを知っている人にこそ、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
2人がこれからどんな物語を紡ぎ、どんな未来を切り開いていくのか。続きが楽しみでなりません。

レビュアー

Micha

ライター。フリーランスで働く一児の母。特にマンガに関する記事を多く執筆。Instagramでは見やすさにこだわった画像でマンガを紹介。普段マンガを読まない人にも「コレ気になる!」を届けていきます!

X(旧Twitter):@Micha_manga
Instagram:@manga_sommelier

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