富裕層向けの「食の案内人」が紹介する「知られざる世界」
──食べることが好きな顧客に最高の体験を──
富裕層の顧客一人一人に「オーダーメイド」で旅の体験を提供する案内人だ。
彼が所属する会社「折紙案内」は、グルメ専門のDMC。
食に関わる領域であれば、顧客のニーズ次第でなんでもやる、という。
ときにはアニメで見た「登山食」を山の上で再現したいという顧客のために山岳ガイドから手配し、原作者の同行まで検討。陶芸が趣味の顧客のためには、古伊万里の食器を使う飲食店を押さえると同時に、人間国宝である窯元のもとへとアテンドする。
単に顧客に「美味いものを食べさせる」だけでなく、「最高の食体験」「運命の一皿」を提供すべく知識を得て、経験を重ねる。同時に「一流の人たち」との人脈づくりに精力的に取り組むなど、日々、研鑽を積み続けている人たちだ。
「真面目で素直で食いしん坊」だけが取り柄の山中は、難航する就職活動に辟易して飲み潰れていたところを、元ヤンキーである高校時代の先輩、佐藤(旧姓・折島/通称・オニシマ先輩)に拾われ、現在の会社で働いている。
物語は、彼の昇格試験となっていた「厄介なゲストへの対応」のシーンからスタート。
山中は直前の訪問先で気分を害したゲストを引き継ぎ、予定していた寿司店へとエスコートする。
その際も、予定時刻より「713秒」巻いていたスケジュールを(シャリの適正な温度管理を無駄にしないために)予定時刻に合わせるため、ゲストの足元を確認したうえで、次の目的地に向けて神楽坂を徒歩で散策するプランを提案する。
目的地である寿司店でも、彼を試しているかのようなゲストの言動も見事にさばく。さらに顧客の店舗への無理難題に対しては明確な「NO」を提示し、ゲストにも店側にも納得がいく解決策へと導いていく。深い知識と機転、なにより関係者との信頼関係がなければできない対応を見ると、もはや熟練のアテンダー(案内人)のような雰囲気だ。
この物語は、富裕層である顧客に最高の食体験を案内する「DMC」の世界に飛び込んだ「真面目で素直で食いしん坊」な青年が、特別な世界に戸惑いながらも「一流の食の案内人」として成長していく、一風変わったグルメ漫画である。
“一流の人と食が集まる世界”を垣間見せてくれる「グルメ&お仕事漫画」
あとがきや帯の文言によると、このグルメ漫画の原作を務めるにあたり第1巻分で100万円を超える取材費を使っており、そのほとんどが現時点で自腹だという。
「売れなきゃ赤字になってしまう」というが、なんだか羨ましいような、リスクの高さにビビってしまうような……。いや、やっぱりそれが「最悪、自腹になってもいい」という判断ができるだけで、羨ましい感じはしてしまう(笑)。
それらの取材の成果だろうが、さまざまなエピソードで登場してくる高級飲食店の雰囲気や、店の職人、シェフなどのこだわりについての描写から、解像度の高さが感じられる。
なにより飲食店のスタッフにしろ、山中らの同僚も含めた「案内人たち」にしろ、「常に一流の仕事を」とこだわっている人たちへの敬意が現れているのが心地よい。
その内容は、完全貸し切りとなる「ビジネスジェット」利用の提案や、自分好みの日本酒を自ら樽ごと仕込む数十万円の「酒造り体験」、もしくはご子息等への投資としての「絵画の購入」や「長期留学の勧め」など。残念ながら私自身の人生とは縁遠いものばかりではあるものの「こんな世界があるんだな」と興味深く感じられた。
一風変わったグルメ漫画であると同時に、あまり知らない世界に接することができる「お仕事漫画」という一面もある本作。今後も「なかなか庶民には触れられない“一流の人と食が集まる世界”を垣間見させてくれることを期待したい。








