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2023.04.05

レビュー

サブカルの聖地、中野発よいどれグルメ漫画。中野区の実在の店を紹介!

サブカルの聖地・中野。中野ブロードウェイを筆頭に漫画やアニメ等のオタクが集(つど)う、日本、いや世界有数のディープな場所として有名ですが、実はお酒や食の魅力がたくさん詰まった街としての一面もあります。

そんな中野を舞台にした『なかのみ #中野でカンパイしよっ』は、漫画家の卵・坂上やよいが、地元で知られる様々な中野の美酒・美食を味わいながら、創作のヒントを見つけていくというグルメ漫画です。

かくいう私も普段から中野を利用しておりまして、見知ったお店が続々と登場する本作には興味津々。

たとえば、いかにも中野!な、怪獣をテーマにしたカフェバー「大怪獣サロン」。



水なすの浅漬け、鮑(あわび)ステーキといった美味が楽しめる老舗割烹(しにせかっぽう)居酒屋「第二力酒蔵」。

包容力のある素敵なマスターがいてフードも充実の「bar DUNK」など、多種多様なカルチャーが集う中野らしいチョイスにワクワクしてきます。

また、福島の酒造店と中野がコラボした日本酒「本醸造 中野」、そして中野駅前や中野セントラルパークで開催される"史上最強"の盆踊り大会などもピックアップ。




さらにはここ数年で一気に注目のグルメスポットとなった中野レンガ坂から、日本酒バルの「中野青二才」、ビールの新しい魅力に触れられる「麦酒(ビール)大学」、古民家ビストロの「root」の3店舗を紹介するなど、多角的な視点から中野のお酒や食事、そして中野という街の魅力を届けています。

ひとつ、エピソードを拾ってみましょう。「麦酒大学」を訪れたやよいは、1杯目に「麦酒大学注ぎ」というビールを味わいます。豊富なメニューの中から、続く2杯目に選んだのは「灘(なだ)コロンビア」。



マスターに解説してもらいながら、美味しそうにビールを飲むやよいが羨(うらや)ましい……。しかしここで、やよいは衝撃の事実を知ることになります。



なんと、「麦酒大学」で扱っている銘柄はたったひとつだけ。たくさんあるメニューは「注ぎ方」の違いであり、マスターの注ぎ方によって変化する味を楽しむのが、「麦酒大学」という場所だったのです。

驚いたやよいは、次々と違うビールを注文します。



こちらは泡が軽くて爽やかな「爽快注ぎ」。めちゃくちゃ飲みやすそうです。



まさかの泡だけ、という「ミルコ」も登場。さすがに泡で満たされたグラスを手に、疑心暗鬼なやよいですが……。



泡なのに飲んでいる感覚があるという、その不思議な味わいに思わずうっとり。シャーベットの秘密はマスターのテクニックにあり。「ビールをすり潰す」とは一体どんな技なのか。お店に足を運んで直接確認したくなります。

本作には、中野区公式キャラクター・中野大好きナカノさんという人形が登場するのですが、やよいがナカノさんと"乾杯"するとナカノさんが意志をもって動き出し、それが作品づくりのヒントへと繋がるという、漫画ならではの展開も見どころのひとつ。



担当編集に5本のネーム(漫画の下書き)を提出したものの、どれも同じような内容だと一蹴されてしまい悩んでいたやよいは、「麦酒大学」でビールを飲みながら、ナカノさんと乾杯します。すると……



ナカノさんが1体から5体に増殖!



いつもとは違い、麦酒大学のメニューに合わせたコスプレで登場したナカノさんたちと、注ぎ方で味が変わるというビール体験を重ね合わせて感動したやよいは、あることに気づきます。





同じ銘柄のビールでも、注ぎ方を変えることで味が変わるように、漫画もやり方を工夫して描き分ければ、5つの作品にそれぞれの色が出るかもしれない。「どれも同じ内容」と言われた作品に違いを出すためのヒントを得て、やよいは見事、新人賞をゲットするのです。

本作では、動くナカノさんのようなファンタジーも取り入れつつ、実際にお店で味わった料理の感想や、店主たちとの会話を通じて得た情報などをわかりやすく紹介していきます。なかでも、取材の細やかさを感じたのが「root」という古民家ビストロ回。



このお店では古来種の野菜や熟成肉、自然派ワインなどが楽しめるのですが、丁寧な料理であることが漫画の絵からも伝わってきますね。





料理をビジュアルだけでなく「キレイなピンク色」「鮮やかな緑」といったフレーズで表現し、肉にナイフを入れる描写でその柔らかさを伝えるなど、随所に工夫が見られます。しかし、「取材の細やかさ」という部分で注目したいのは、別のポイント。



実は私も夜と昼、どちらの「root」にも行ったことがあるのですが、このランチ限定ラーメンは上品かつとっても美味。地元民として、ここをチェックしているのはさすがだと思いましたし、しっかり取材してくれていることになんだか嬉しくなりました。



漫画家・やよいの視点を通してディープな中野のバラエティ豊かなグルメレポートを読んだら、今度は自分自身の目と鼻と舌で、数々の酒と料理を堪能したくなる。サブカルだけじゃない中野の魅力が味わえる作品です。

レビュアー

ほしのん イメージ
ほしのん

プロフィール:中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009

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