『大きいムキムキ小さいむちむち』を読んだ方全員に問いたいのは「アノ第2話みた!?」だ。第1話もいきなりすごかったが、第2話は、作品と読者との約束が果たされまくる。ひょっとしてエンディング?と思うくらい美しい。もちろんそれはエンディングではなく、第2話以降もどんどんハイスコアをたたき出していく。その点でいうと第8話も忘れられない。惜しみないマンガだ。
ではその約束は何なのかというと「美しいむちむちを愛(め)でる」だ。
“椎名さん”はトレーニングジムのスタッフ。ふわふわのおなかに張りのある太もも(この張りは筋トレのたまものだと思う)。ブラトップからはみ出たお肉と脇のしわもナイス。おへその横にあるホクロもかわいい。
私がこのページで「うわっ!」と最大に感動したのは、椎名さんを横から見たときの姿だ。背中からウエストにかけてのまるみ、ちょっと前傾した骨盤、立派なお尻や太ももに比べると細めな膝下……リアル&見どころ満載。
椎名さん本人は、自分がむちむちであることは認めていないらしい。
それにしても眼福。
とにかく、ずーっと、むちむちむちむちしている。
椎名さんが働くジムに通う“片岡”は、食品会社で働く22歳。定時にサクッと退勤し、向かう先はトレーニングジム。食事はタンパク質重視。そんな感じなのでワイシャツ越しにもわかるくらい胸板が発達している。いわゆるムキムキだ。
片岡の名誉のために先に書いておくが、片岡はトレーニングジムで真剣に筋トレをしている。フリーウエイトとマシンをまんべんなく使い、上半身と下半身どちらも頑張っている。でも……?
100キロでハーフスクワットをしながら椎名さんの美しさに感動しっぱなし。そう、片岡は無類のむちむち好き。
片岡からの視線に椎名さんは当然気づいている。何か私の仕事ぶりに不満があるのかな?などと真面目に考えているが、片岡はひたすら「美しいなあ」と思っているだけ。ちなみにこの「美しいなあ」は、実際に私もジムで感じることがある。ジムは基本的に自分にしか興味のない人間の集まりなのだが、「華のある、いい体型」の人が現れると、つい視線が奪われる。例えばプロレスのスターが同じフロアにいれば、10メートル先でもライオンキングみたいなのがいる!と気づいてしまう。
つまり、片岡には椎名さんが輝いて見えてしょうがない。椎名さんに「どうして見ているんですか?」と尋ねられた片岡は、自身のモットーを熱弁しまくることに。
このおなかや腰、胸が魅力的なことなんて常識だ。隙間のない太ももだって言わずもがな。片岡が最も愛するむちむち部位は実際に読んで共感してもらいたい。
確かに美しい。私が本稿の冒頭で大騒ぎした第2話は、この神がかった美しさが純度100パーセントで表現されている。
ウエストをぐいっとひねって腹斜筋をしばきあげるマシンの使い方を教えてくれる椎名さんが、第2話のテーマだ。このページだけでも100点満点だが、他のページはもっとすごい。大変すばらしかった。
ちなみに、ジムで働き、プライベートでもトレーニングをしている椎名さんのボディがむちむちしている理由はこちら。
アルバイトの掛け持ちで、もう一方のバイト先のまかないステーキが大変おいしいらしい。これはライスも絶対に食べたいよね。椎名さん本人は「私はむちむちではない」のだが。
眼福に次ぐ眼福のむちむちコメディなのだが、実はとても繊細なことにも触れている作品だと思う。
椎名さんは、片岡からの「あなたは美しい」というアツアツのメッセージにイヤな気はしていないが、自分がむちむちだとは認めていない。
だから椎名さんは「『むちむちの定義』を明らかにして、私がむちむちではないことについて、白黒つけましょうよ」と片岡に持ちかける。むちむちの体型に定義があるならば、客観的な数値があるはずで、そこに自分が該当するかしないかも明確になるだろう、というわけだ。
すると片岡はこんなことを言い始める。
むちむちの定義は「みなの心の中にある」。つまり片岡には片岡の「むちむち」があり、椎名さんには椎名さんの「むちむち」がある。これは、あくまで片岡という一人の人間から見た大切な世界なのだ。体型は千差万別で、自分にとって居心地のよい体型も、好きな体型も、人によって違う。
さて、片岡が考える「むちむち説」の中で、最も重要とされているおなかだが……?
ああ、たまらない! 触っていいの!? たしかにそっと触ってみたい。見てるこっちがドキドキしてくるむちむち賛歌だ。
レビュアー
	
			
		
			花森リド
      ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
       X(旧twitter):@LidoHanamori