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2025.08.10

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超高偏差値3人組、ダンスに出会う! ゆる系青春ディベートダンスストーリー!!

高偏差値3人組がダンスに目覚める?

人生を振り返って「あれ、やりたかったんだよなぁ」と思う“あれ”はないだろうか? さらに「でも、自分には合わねぇよなぁ」と諦めた“あれ”はないだろうか。ギター、バスケット、スノボ、ケーキ作り……、そういうやつ。私にはある。スケボーだ。ストリートでトリックをキメる自分を夢想して20年。35歳で買ったよ、スケボー。もう気持ちがおっさんだったから、始めるにも言い訳が必要で「これは通勤用だから」とロングスケートボードを買った。その言い訳のためにトリックは諦めた(ロンスケでトリックは難しすぎる)。そんで転んで、肋骨折って、ロングスケボーは庭で朽ちた。

「自分には合わない」は、人生の敵。
さっさとなんでもやりゃいいんだよ。

『かいせいとポップコーン』の主人公・野村海成は、「塾は面白い問題が解けて楽しい」という勉強好き。全国模試1位で、超難関中学の首席。でも人づきあいが下手。人づきあいが嫌いなわけじゃないから、友だちはほしい!
そんな海成に、風変わりな友だちができる。
その友だちは全国模試2位の田原あざぶと、3位の近藤六三四(ココに開成、麻生、武蔵、の男子校御三家が揃う!)。あざぶが主催するお茶会に、クセあり難ありの高偏差値の3人が集まっては、うだうだとダベる日々。そして15歳の春休み、海成は出会ってしまう……。
それはダンス!
ビルの鏡面ガラスを前に踊るダンサー。
その躍動に見惚れる海成。
それまでの4コママンガ展開から一転、肉体が縦横無尽にページ上で弾ける。
「きみもダンスしに来たんでしょ?」
「僕、学校の体育でも一番下手です。センスないです」
「センスがあるかとかは、ある程度やった奴の話じゃない?」
「ダンス、好きそうな顔してたじゃん。自分がやりたいようにやんな」

Don't think, feel!

「考えるな、感じろ」そうブルース・リーは言った。
しかし、海成は「考える」こと一本槍で生きてきたのだ。手を振り回すことと、ダンスの境界線が分からない。「もっと根本的に全部が足りない」と思った彼は、ストリートダンスの種類を検索する。ブレイキン、ロッキン、ポッピン、ニュージャックスウィング、ソウル、ハウス、ビバップ、ワッキング、ヴォーグ……、そしてヒップホップ。何が何やら理解できない。もし海成の隣にいたら「これ読め!」って、『ワンダンス』のコミックを貸してやるのに! 

ここから海成は本を読み漁り、ヒップホップ文化を体系的に理解しようとする。それこその始祖クール・ハークから!
第4次中東戦争によるオイルショックで世界経済が停滞し、米国では公民権運動が終息する。保険金目当ての放火が頻発するサウスブロンクスで、1973年8月11日にクール・ハークがパーティを開いてヒップホップは生まれる。漫画のここのくだり、世界史の東大入試問題に脱線しているように見えて、実はヒップホップが生まれる文化土壌の解説としてこれ以上ないほど的確だ。あぁ、この3人の輪の中に入っていれば、NHKの「世界サブカルチャー史 欲望の系譜 21世紀の地政学 ヒップホップ編」とか、NETFLIXオリジナルドラマ『ゲットダウン』をオススメできたのに!

こうやって3人は、ヒップホップについて理解を深めていくのだが、一向に踊り始めない。コミックの帯にあるとおり「踊る前にまず議論」なのだ。ダンスの初歩の初歩「ボックスステップ」にちょこーっとだけ挑戦するのだが、そのステップさえ踏めない。にもかかわらず3人はアウェイの極北、プロダンスリーグ“Dリーグ”を観戦しに行き、そこで彼らは吹き飛ばされる。
「考えるな、感じろ」
海成の頭に、そう刻まれたに違いない。ダンスに覚醒?

いや、まだダンスを始めない(←しつこい)。まずは「人がいなくて」「鏡面があって」「踊れる」練習場所となるビルを探し始めるのだ。ちょうどいい感じの場所を見つけたところ、アディダスの3本線ジャージを着た怪しげなおじさんが登場。あざぶがローファーを履いているの見て「MJ*リスペクトのポッパーか?」(*MJ=マイケル・ジャクソン)というハイブロウな質問をする。3人はポカーン。おじさんから日本のダンス史をいろいろ聞きながら、いつものように3人が議論ムーブをしようとしたところ……、おじさんが
御託(ごたく)は いんだよ

さっさと踊れ!
と、誰もが3人に思っていることを言ってくれる。

「自分には似合わない」なんて思わずに、「自分がやりたいようにやんな」と言われて、すっごく遠回りをしながら、ちょこっとずつダンスに近づいていく3人が、とにかく愛おしい。すぐに「考え」てしまう彼らが、音楽のグルーヴやオーディエンスの熱を「感じ」て踊る日はくるのか? そんな日が来てほしいような、来てほしくないような……。でも、パリ五輪のブレイキンでAyumiが「雑巾」ムーブで喝采を浴びたように、3人が「べんきょう」ムーブで喝采を浴びるところを見てみたいなぁ。

かいせいとポップコーン(1)

原案 : Hi-Bullets
著 : 日口 十二

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レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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