推理マンガの金字塔『金田一少年の事件簿』で高校2年生だった“はじめちゃん”は、シリーズ最新作『金田一パパの事件簿』でついに44歳になった。プライベートでは子育て真っ最中のお父さんで、仕事では脱サラののち探偵事務所を立ち上げてプロの探偵に。そんなライフステージの変わりっぷりなどどこ吹く風、やっぱりはじめちゃんは手の込んだ殺人事件に巻き込まれる。
どう見ても廃業した旅館であり、どう見ても殺人事件が起きそうではないか。さすが金田一一(きんだいちはじめ)、みんなの期待を裏切らない人生だ。
もはや親戚のお兄さんを見守るような気持ちで本作を追ってしまうのだが、となると最初にムクムクと興味が湧くのは「で、どんなお子さんなの?」ということだ。お名前は? “ジッチャン”こと名探偵・金田一耕助のDNAを受け継ぐ子ってどんな感じ? ところでお母さんは当然あの人ですよね……? こちらについても、私たちの期待を裏切らない作品だ。
数年間のサラリーマン生活を経て、金田一くんは「金田一一探偵事務所」を立ち上げ、探偵業を営んでいる。あの名探偵の孫の探偵事務所ならば難事件の調査依頼がバンバン降ってきて大繁盛……と思いきや、ときどき浮気調査の依頼がくる程度。
一方、幼なじみの“美雪”は国際線のCAとなって大忙しの毎日。そして金田一くんと結婚し、一児をもうけ、CAの仕事を続行中。ということで主な育児は金田一くんが担っている。ふたりは大人になってもいいコンビなのだ。
そして子どもはというと……?
金田一九十九(つくも)は小学1年生の男の子。元気いっぱい! あといい名前!
そして早くも「名探偵の血」を感じさせる。
ママ(美雪)が買ってきたプリンのことを、パパから言われる前から知っているのはなぜ?
記憶力と観察眼が光っている。しかも、九十九の「資質」は、金田一くんとの生活のなかで磨かれているようなのだ。
九十九が学校で起きた「ナゾ」を話すと、お昼のラーメンをモグモグしながら一瞬で「ナゾはすべて解けた」と答える金田一くん。食卓でのさりげない英才教育! めちゃくちゃいい。
稼げてはいないが穏やかで幸福な毎日を送る金田一くんのもとに、ある奇妙な依頼が舞い込む。
それは匿名の依頼者からの「物探し」だった。ある場所で「あるかもしれないもの」を探せという謎めいた内容で、しかも引き受ける前から前金で100万円がドーンと振り込まれて物探しが成功したあかつきにはプラス100万円! 怪しい!
昔の金田一くんなら前のめりでホイホイ調査したであろう依頼だが、44歳子持ちの男には少し悩ましい。リアルだ。
でも調査に出向いてしまう! しかも子連れで! 学校が休みだからしょうがないよね。それに100万円の大仕事なんて、探偵事務所の台所事情を考えたら見逃せない。
つまり本作での金田一くんの推理の相棒は、彼の息子なのだ。かつての美雪のポジションにふたりの息子がいる……人生っていいなあ。
さて、向かった先は音羽渓谷温泉の木霊旅館。思いっきり廃墟でお化け屋敷のよう。はしゃぐ九十九くん。やっぱり金田一家の子どもだ。
事件が起こる前から怖い!
金田一親子が依頼人の指定する場所に向かうと、そこには先客が数名いた。
しかも全員が探偵。さあキナ臭くなってきた。
そして私たちの期待通り「事件」が起こる。
九十九もガッツリ事件に巻き込まれてしまう。やっぱり金田一家の血だなあ……。
隔絶された廃旅館で最初に殺されるのは誰か。なぜ全員探偵なのか。なりふり構わず息子を守ろうとする金田一くんは、名探偵といわれたジッチャンの名にかけて不可解なナゾを解き明かし、犯人を探し出せるか。大人になった彼の活躍が楽しみだ。
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori