「な」が「ニャ」になる金田一少年
『きんにゃいち少年の事件簿』は、表紙と題名のインパクトで駆け抜ける1冊だ。
どこからどう見てもこの猫は“はじめちゃん”だし、デザインも『金田一少年の事件簿』第1巻の表紙と同じ! 猫なのに! 猫になっても成立するものなんだなーとしみじみする1冊だ。ぼさっと毛深い尻尾も金田一少年っぽいや。
で、本作で猫化しているのは、金田一だけではない。
ヒロインの“美雪”もライバルの“明智警視”も猫。誰だかすぐわかる。で、“剣持のオッサン”こと剣持警部は人間なのが妙にジワジワくる。
『きんにゃいち少年の事件簿』は、“比較的”大真面目に「猫になってしまった金田一少年」をめぐるミステリーなのだ。猫による猫のための異世界ではない。
ところでみなさん、なんで猫になっちゃったの?
ということで、猫ギャグマンガを繰り広げつつ、後半にはきちっと謎解きが待っている。
これこれ、この手の込んだ感じ! 「な」って言おうとすると「ニャ」になっちゃう脱力系金田一だけど、ミステリーだ。さらに金田一の宿敵である例の“高遠遙一”も猫になって参戦するもんだからもう大変(猫になっても高遠だと丸わかりだったので笑った)。随所に差し込まれる元ネタにニヤニヤしつつ読んでほしい。
呪われた島の名は鬼奴島(きゃっとう)
事の始まりは、鬼奴島(きゃっとう)のツアー。金田一少年と幼なじみの美雪が呪われた島に行ったら、二人の関係はちっとも発展しない代わりに、陰惨な殺人事件は必ず起きるのだ。だが本当の事件は帰り道に待っていた。
そうそう、いい感じにオトナになった金田一たちが登場するスピンオフ『金田一37歳の事件簿』もあったね。
大変わかりやすい猫的名前の呪われた島に行ったおかげでなんでだか猫になっちゃった金田一と美雪たち。
外見は猫なんだけど中身は相変わらずはじめちゃんのままだ。本家と比べると平和だし、事件の頻度も規模も猫サイズ。いやされるなあ。
でも猫になってしまった謎は解かなければならない。なぜなら金田一少年だから。そんな猫たちをサポートすべく、いろんな金田一キャラクターズが登場する。
私の最推し・撮影マニアの“佐木2号”! ちゃんとビデオカメラ片手に出てきてくれてうれしいよ。猫だけじゃスマホも使えないもんね。みんなを助けておくれ。
おなじみの登場人物との再会を喜びつつ、猫的プチイベントをくぐりぬけると、やがて真犯人からの挑発が待っている。わかりやすく煽(あお)られて、そこに飛び込んでいくのが金田一少年シリーズのいいところだ。物語が小動物サイズになってもそこは変わらない。
明智警視と金田一少年のタッグで鬼奴島の謎に挑む! (明智警視は無理して変なポーズで立たなくてもいいのに、猫になっても自己愛強め+健気だなあ)
猫の金田一が肉球をぺたぺたやりながら推理する様子を見ていると、だんだん本家のほうも読み返したくなる。
そう、このセリフが聞きたいのよ。オリジナルの強固な世界観やキャラクターで存分に遊ぶスピンオフの好例だ。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori