実際にページを開いてみると、その再現度の高さに心が躍りました。空を舞う泡虫も、古代樹の家も、登場人物たちの服装もイメージ通りの美しさで描かれていて、冒頭から物語の世界に引き込まれます。
お話の舞台は、聖イジョルニ帝国の領内にありながら、自治権を認められている特別な地域「レーエンデ」。
険しい山脈と深い渓谷に囲まれ、外界との接触が難しいこの地に、交易路造りの調査で訪れたのが、帝国最強といわれるシュライヴァ騎士団・団長のヘクトル・シュライヴァ(35歳)と娘のユリア(15歳)でした。



“幻の海”と呼ばれる銀の霧が出現し、この霧に飲まれた者は全身が銀の鱗に覆われてしまう謎の死病「銀呪病(ぎんしゅびょう)」に罹ってしまうのです。
レーエンデが“呪われた地”と呼ばれるゆえんがこの銀呪病であり、ヘクトルの真の目的は、ウル族をその病から救うことでした。

「天満月の乙女」がどういうものなのか、漫画版第1巻では詳しく出てきませんが、莫大な勢力を持つ法皇庁の教典と、ウル族の伝承とでは内容が異なっており、ユリアの未来に大きく関わってきそうなのです。
さらに物語は、交易路調査を進める中で怪しげな商隊と出くわしたり、ウル族の暮らしをユリアが体験したり、トリスタンの生い立ちが謎めいていたりと、壮大なファンタジーらしく多岐にわたります。
その中でも特に印象的だったのは、ユリアとトリスタンが初めて心を通わせるシーン。
実はユリアは、伯父であるシュライヴァ州首長の策略で、半年後に父親より年上のマルモア卿に嫁ぐことが決められていたのです。
聡明で思慮深いユリアは、そんな政略結婚も自分の役目として受け入れていたのですが……。
読者の1人として、トリスタンが出てきた時点で、ふたりが恋に落ちるのでは?と期待してしまいます。
ただし、境遇の違うふたりが簡単にくっついたら興醒めだし、どうやって距離を縮めるのだろうと思っていたら、「嫌いなものはなんですか?」「では好きなものは?」というセリフが出てきました。
このトリスタンの何気ない問いをきっかけに、少しずつ心を解放していくユリア。



こうした繊細な感情描写とレーエンデの幻想的な世界が、この漫画では見事に融合しています。それだけでなく、小説で描かれた膨大なストーリーがテンポよく凝縮されていて、一気に読み終えてしまいました。
とにかく、最初から最後まで、どこを切り取っても期待を裏切らないコミカライズであるとお伝えしたいと思います。