ある日突然、連れ去られたところが宮殿で、貧しい暮らしから一転、王女様として生きることになったら……、しかもそこに麗しい王子様がいたら……。
現実の世界では絶対にあり得ない話だからこそ、せめて物語の中だけでも夢を見ていたい!!
そんな女の子の望みを叶えてくれるのが、『星降る王国のニナ』です。
主人公のニナは、流行病(はやりやまい)で両親を失くし、同じく孤児のサジ、コリンと貧しいながらも仲良く暮らしていました。
ところがある日、ニナは人買いに売られてしまいます。唯一の友であるサジの手で。
その日からフォルトナ国の王女アリシャの身代わりとして生きることになったニナ。このことを知っているのは、身の周りの世話をするわずかな人間だけ。
立派な王女に仕立て上げるため、文字すら読めないニナの教育係となるアズールですが、実はニナをさらったのもこのアズールでした。
本物の王女は不慮の事故で亡くなったのですが、それがもし世間に知れたら一大事。というのも、王族の結婚は国の勢力と領土を守るための政治的な意味があるからです。
幸い王女は「星の巫女(みこ)の跡継ぎ」として星離宮奥(ほしりきゅうおく)育ったため、王様や王妃様すら王女の顔を知りません。
もし私がニナだったら、サジに裏切られた悲しみはあるにせよ、宮殿で暮らせるなんてラッキー!!と思うことでしょう。
貧乏なその日暮らしよりずっといいし、悪い奴だと思っていたアズールはなんと……
17歳で連隊を率い、執務も取り仕切る聡明さがあり、口の悪いドSかと思えば、どんなときでも守ってくれるアズール。滅多に笑わず、どこか憂いを秘めた瞳は、2次元とわかっていても惚れ惚れします。
読者を夢の世界に連れて行ってくれる王子様としても完璧です!
しかしアズールには、大きな隠し事がありそうなのです。
ニナが王女アリシャに成りすますことができたのは、非常に珍しい「星の神のごとき深き青── 瑠璃色の瞳」をしていたからですが、アズールも珍しい灰金目(きんめ)の持ち主。
そして、優秀なのに王位継承権は2位。第1王子は、まだ子供で凡庸なムフルム王子。ムフルム自身はとても可愛い子なのですが、母親である王妃はアズールを疎ましく思っています。
この展開は、まさしく王道。陰謀渦巻く権力争いも楽しみなのですが、それだけでなく生きるという意味でハッとさせられた言葉がありました。
違う人物になるということは、今までの自分という存在を完全に抹消する、つまり自分を否定することでもあります。
自分が生きていた証、それが“名前”だということに改めて気づかされた気がしました。
この思いを理解するアズールは、ニナと2人だけの約束を交わします。
あぁ、もうこれは絶対に恋に落ちる展開でしょ~と思いつつ、色々な伏線が仕込まれているので、どんでん返しもあるかも~と空想が広がります。
もう1つ、空想を手助けしてくれるのが、世界観を表す宮殿の装飾や衣装です。
実は私、ベルサイユ宮殿、シェーンブルン宮殿、アルハンブラ宮殿、スペイン王宮などにも複数回行ったほどの大の宮殿好きなのですが、ヨーロッパやイスラムとも違うアジアンテイストの美しい画も見どころです。
我ながら、いい年をしていつまでも夢見る夢子ちゃんだなぁと思っているのですが、作者であるリカチさんのメッセージに勇気づけられました。
老若男女問わず少女の心を持ち続ける人に届けばいいなぁと思っています。(男性でも少女の心はありますよ! 年とっても! 失う人は失っちゃうものだから、持っている人は自慢していいと思う!)。
ぜひ、少女の心でどっぷりと夢の世界に浸って下さい!!
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp