毎年NHK大河ドラマを1年間楽しみに視聴している身としては、その年のテーマに毎回影響されています。2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう』も例外ではなく、江戸中期を舞台にした物語で、主人公の蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)が吉原で暮らすことから、作中に登場する美しい花魁(おいらん)たちに心惹かれました。そんな中、吉原を舞台にした作品をいろいろと読んでいる中で出会ったのが、並木クロエさんの『芳町花かげ地獄』です。
2025年3月13日に第1巻が発売されたばかりの本作は、江戸遊郭を舞台にしながらも、吉原の花魁ではなく「陰間茶屋(かげまちゃや)」という、男性が春を売る世界を描いています。そこに生きる年若い楼主の奮闘と、陰間たちの光と影が交錯する物語が、華やかでありながらも深い闇を感じさせる魅力的な作品となっています。
物語の中心となるのは、陰間茶屋「紫扇楼(しせんろう)」の跡取り娘・一花(いちか)。彼女は幼いころから、店の看板である美しい陰間たちを誇りに思い、父を尊敬していました。
ある日、紫扇楼に売られる道中で川に溺れた美少年・のあを一花は助けます。
それがきっかけで、2人は同じ部屋で兄妹のように暮らすことになります。喜ぶ一花ですが、2人は跡取り娘と売られてきた陰間という関係。仲良しな兄妹でいられた時間は、あっという間に終わりを迎えます。
陰間茶屋の「本業」に初めて気づいた一花は、父への信頼が揺らぎます。そんな矢先、物盗りに襲われ、父が急死。突然、楼主の座に就くことになった一花は、戸惑いながらも紫扇楼を守る決意を固めます。
本作の魅力は、まず圧倒的なまでに作り込まれた世界観にあります。たとえば、紫扇楼の看板陰間であった冬二郎の引退道中のシーンは、まさに「吉原花魁も惚れちゃう美しさ」です。
繊細な描写スタイルが、読者をその場にいるかのような感覚に引き込むことでしょう。物語の舞台となる芳町(よしちょう)は、ただの町ではなく、あらゆる感情が交錯する場所として描かれ、登場人物たちの心情を豊かに表現しています。
また、キャラクターの心情描写を豊かに表現している「目」にも注目したいところです。陰間茶屋という特殊な世界で生きる人々の光と影が、彼らの「目」に表れています。
陰間茶屋の光と影が混沌と渦巻く中で、それぞれの目が言葉では語れない本心を伝えてくるようで、どのキャラクターにも深い思い入れを抱かずにはいられません。
さらに本作で惹きつけられるのは、闇の部分。華やかさだけでなく、陰間茶屋という場所の持つ根源的な「闇」も深く描かれています。冬二郎らが一花に突きつける陰間茶屋の本質的な一言は、毎回読者をドキッとさせてきます。
「陰間にとっちゃあ苦界」である陰間茶屋を継いだ一花が、これから女楼主としてどのように店を盛り上げ、陰間たちと関係を築いていくのか、2巻以降の展開が楽しみです。
そしてもちろん、のあとの禁断の関係にも目が離せません。楼主と陰間という立場の違いを理解しながらも、2人がどのように気持ちを寄せていくのか──その禁断の行方を、ぜひ見守りたいです。
彼らの運命は、物語の中でどのように交錯していくのでしょうか。
レビュアー
Micha
ライター。フリーランスで働く一児の母。特にマンガに関する記事を多く執筆。Instagramでは見やすさにこだわった画像でマンガを紹介。普段マンガを読まない人にも「コレ気になる!」を届けていきます!
X(旧Twitter):@Micha_manga
Instagram:@manga_sommelier