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2025.01.23

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食パンがあれば無敵だ!! 終末世界に生き残った姉妹が食パンでサバイバル!

私たちには一生分の食パンがある!

災害の備えをボンヤリ考えた結果「日持ちのする、そのまま食べられる、コンパクトでガツンとした糖質を……」となって、我が家ではようかんを備蓄している。なんのことはない、銀座や赤坂へ出かけるたびに「とらや」へ立ち寄り、「備えになるし」という言い訳とともにようかんを買いまくっているだけだ。

個人のささやかな備蓄ではあるが、積み上がったようかんを眺めるとウットリしてくる。とりあえず安心、なんだってできるさ、と。

『絶滅世界で食パンを』の主人公“イカル”と“アトリ”姉妹もまた、「糖質」という一点においてのみ安心できているようだ。
終末後の世界に残されたナゾのひろーい倉庫。そこに延々と積まれていたのは、
ふかふかの食パン! しかも100年保存できるらしい。一生分の食パンを、彼女たちは手に入れたのだ。こうして糖質だけは完璧に保証された、ある意味無敵のサバイバル生活が始まる。そう、食パンを発見したらそこでサバイバル終了かなと思うかもしれないが、これがまったく終わらない。

本を読むと怒られる里

イカルとアトリは“ソゴシエの里”と呼ばれる共同生活の集落から逃げてきた。人間が一度絶滅した世界では、資源も食料もテクノロジーも乏しく、生き残ったわずかな人間が協力しあって暮らしていたのだという。

つまり里を離れる=生存のピンチのようだが、それでもイカルはソゴシエの里を離れたかった。激ヤバポイントが数点あったのだ。

まず、里では「本を読むこと」が禁止されていた。勉強しているヒマがあったら労働しろ、というわけだ。だから識字率も低い。

里のなかでは珍しく字がちゃんと読めるイカルには本禁止なんて耐えられなかった。
旧世界の書物(胸きゅん★オレンジボーイ)をコッソリ読みふけるイカル。楽しいよね。

もうひとつの激ヤバポイントはこちら。
18歳になると女は決められた相手の子供を産むのだという。拒否権ナシ! 「この世界はそういうもの」と信じて育ってきたのなら、それは当たり前のことと思えるかもしれないが、イカルは旧世界の書物を介して「きゅんきゅん」を知っている。私の「胸きゅん★オレンジボーイ」はどこよ!?といわんばかりに、ナゾの子作りシステムに動揺を隠せない。

こうして妹を連れてソゴシエの里を脱出したものの、やがてお腹がすいてくる。ああやっぱり里を離れては生きていけないのか……と弱気になったところで、偶然、食パンの巨大倉庫を発見してしまったのだ。

腹ぺこの2人を、真っ白な食パンがみるみる癒やしていく。
おいしそうに食べるなあ。ああハッピー。

生まれて初めて見る食パンを食べて食べて食べまくって、そういえば……とアトリが隠し持っていたノートを取り出す。旧世界の「食パンのおいしい食べ方ノート」に載っているコレは、さっき自分たちが食べた食パンかも?
このノートさえあれば、未知のミラクル食材・食パンをもっとおいしく食べられるかもしれない。そしてイカルも食パンを少女マンガの世界で知っていた。食パンくわえて「遅刻遅刻~」の伝統芸は偉大だ。

ただ、食パンとレシピがあっても、ここは絶滅後の世界。トースターもないし、調味料もない。どうやっておいしく食べる?
あ、トーストなら意外とできそう。つまりこの世界では食パンだけは無限にあるがその他が何もないので、食生活を豊かにするためにサバイバル活動をがんばらないといけないのだ。これがとにかく楽しい。
「ある方法」で鳥を捕まえて、その脂(あぶら)と卵で目玉焼きを作れば目玉焼きトーストだってできてしまう。おいしそう!

制約をくぐりぬけ、創意工夫を重ね、おいしい食パンをむしゃむしゃ食べて幸せ全開……かと思えば、実はそうでもない。
とても執念深い“追っ手”が姉妹を探している。なんとなく、悪いやつじゃなさそうなんだけどなあ……。そして「ソゴシエの里になんて二度と戻るか。こっちには食パンがあるんだ!」と鼻息が荒いイカルも、心のどこかで故郷のことが気になるらしい。

そんな葛藤を抱えつつも、結局は食パンをおいしく料理して食べまくっている。
しかも再現だけにとどまらず、新しい食パンレシピまで開発するつもり!? 夢と希望がいっぱい。このポジティブさと、ありあまる食パンがあれば、ヤバい里で苦しむみんなを救うことができるかも? 姉妹の知恵と食欲がほとばしるマンガだ。

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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