世の中は様々なマニュアル本で溢れています。接客や写真撮影、SNS運用にダイエット、さらには婚活や税務調査対応などなど……。そんな多種多様なマニュアル本のなかに、またひとつ新星が仲間入りしました。
それが、異世界転生におけるサバイバル術を解説した本作です。異世界転生という、架空の事象に対して真面目かつ真っ当な内容で直球勝負するこのマニュアル本は、それでもなぜか「ためになるな」と思わずにはいられない要素が満載です。
また、大人気作『転生したらスライムだった件』(以下『転スラ』)の主人公・リムルがガイドをしてくれるという点からも、異世界転生ファンにとって読みやすく、また『転スラ』の中で実際に起こった出来事を例に解説が進むので、理解が深まります。
まずはプロローグ。異世界への転移が始まったら、何をするべきか? その答えがこちら。
本作の基本フォーマットとして、「こんなときはどうする?」などのテーマを掲げ、異世界転生ビギナーである本作の登場人物に対してリムルがいろいろ指南していく、というスタイルをとっています。『転スラ』での同ケースの事例シーンなども差し込みながら、「ワンポイント・アドバイス」まで記載するという丁寧な作り。
異世界転生といったらやっぱり気になる、アレについてもしっかりガイダンスしています。
転生する際、与えられるスキルによって、これからの人生(人でない場合もありますが)が大きく変わるという点でも、とても重要なポイント。これはしっかり読んで身につけないといけません。
実は本作、異世界ではなく現実世界でのサバイバル術も紹介しています。
異世界転生でも十分あり得る「ここはどこ?」状態の際に参考になる、方角を知る方法をイラストと合わせて解説。この他にも、遭難時などに役立つSOSサインのやり方、火の起こし方に飲み水確保方法など、私たちが今生きているこの世界において、非日常な状況へと陥った際に役立つガイドがたっぷり。
異世界で生き残る術を学びながら、現実世界でのサバイバル術も身につくという、一挙両得、欲張りなマニュアル本です。
まだまだ注目ポイントが控えているので紹介しましょう。
「キミだけの異世界を作ろう!」というテーマで「異世界転生」ジャンルのなんたるかを解説するミニコラム。ここでは『異世界への行き方』と題し、「転生」をはじめ、「召喚」「ゲート/ポータル」「ゲーム内に閉じ込められる」という4つのルートについて、具体的な作品名を挙げながら紹介。他にも『キミの異世界、どんな世界?』『主人公の能力や特徴は?』と題して、中世ヨーロッパ風や過去・未来といった転生先のパターン、さらには主人公が持つスキルの種類なども紹介。「異世界転生」の様々なバリエーションを知ることができるのです。
まだまだあります、注目ポイント。早稲田大学高等研究所講師でファンタジー研究者のエスカンド・ジェシによる、「異世界転生もの」に関するガチのコラムも掲載。「なぜ洋風なのか」というテーマでは、こんな記述も。
要するに、剣と魔法の世界である。便利な設定だが、本来は異文化のものであるはずの中世ヨーロッパ的な世界観がなぜ引き継がれているのか。
1970年代から、日本には洋風ファンタジーが存在した。栗本薫による『グイン・サーガ』のような、和製ファンタジーと呼ばれるこれらの作品は、内容や形式が西洋ファンタジーに極めて近かった。つまり、和製の西洋ファンタジーだったのである。ほとんどが、際立った日本独自の要素を持っていなかった。しかし、後にさらなる異文化を取り入れたことで、日本ファンタジーは独自の可能性を開花させた。その起爆剤となったのはゲームだ。
作品を好きになれば、その背景を知りたくなるのも自然な流れ。「異世界もの」が、その世界観を含めてどのように生まれ、流行していったのか、その要因などを丁寧に解説してくれています。また、「異世界もの」に秘められたメッセージ性について紐解く描写もあり、異世界転生を学術的な見地から知ることができる、知的好奇心をかき立てられるコラムです。
このように、「異世界転生」について様々な知識や事例を交えながら、ある種体系立てて理解を深めることができる本作は、「異世界転生」ファンであれば“あるある”要素と合わせて楽しむことができ、またこういったジャンルに疎い人、興味はあるけど手を出していない人にとっては“入門編”として楽しく学ぶことができます。
備えあれば憂いなし。ある日突然その身に降りかかるかもしれない「異世界転生」を見据えて、まずは本作にてしっかり予習しておきましょう。そうすれば、スライムや第七王子、あるいは悪役令嬢だったとしても、転生後の新生活を快適に過ごせる可能性がグンと高まるはずです!
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009