女性用風俗へようこそ
女の性欲やセックスについて軽~く知りたがる男は少なくないが、あくまで「軽~く」であって、実情に踏み込む覚悟があるのかどうかは、ちょっと疑わしい。とくに、その男にとって特別な女の実情なんてのは、頼むから墓場まで持って行ってくれ、そして女子会トークでも何卒お手柔らかに、いやそもそもそんな実情なんて存在しないよね? 俺たちが感じてるコトは一緒だよね? ……と信じている気がしてならない。
二人に一人は演技! 自分の腕のなかで寝息をたたてる女を見ながら「今のアレ、どっちの“5割”だったの……?」なんて、考えたくもないよね。こっちだって教えないよ。
だから、あなたが女の性欲を軽~く知りたくて『井口純平は今日もやれない』を読んだら、思わず生唾をのんでしまうかも。とても赤裸々かつ無防備な世界が待っている。
ここは赤裸々上等な女性用風俗。そして主人公の“井口純平”は、女性用風俗で働くセラピストだ。
仮想通貨で大失敗、そして風俗へ
なぜ井口純平が女性用風俗で働いているかといえば、お金が必要だからだ。25歳の慎ましいサラリーマンである彼の人生は、大学時代のしょうもない先輩との再会によって、思いもよらぬ方向に前進してしまった。
貯金の話なんて他人には絶対にしちゃいけない。たいていロクでもないことになる。
なんでそんな儲け話を富豪でもない自分にわざわざ教えてくれるのか、冷静に考えてみてほしい(ホントに半年で資金が倍になるならイーロン・マスクを勧誘して1兆円くらい投資してもらうだろう)。こうして井口純平はアホ先輩に持ちかけられたアホみたいな投資で派手に失敗し、コッテリした借金を抱えることに。おまけに奨学金返済の真っ最中という負債の2階建てだ。とてもじゃないがサラリーマンの月給で払える額じゃない。
で、副業でもして返済しないと……と思ったところで見つけたのが、女性用風俗“ハイドランジア”でのセラピストとしてのお仕事。
しかもこのお店では“本番行為”がないのだという。
トントン拍子で実技研修にぶち込まれてしまう井口純平。お金のためだ! 行け!
実技研修のお姉さんはどんなことを教えてくれるの? 他人事ながら「なんだか楽しそう」なんて思っちゃったが、実は井口純平には女にまつわるトラウマがあった。
簡単に稼げるちょろい仕事だと思ってた?
井口純平は、元カノと悲しい別れ方をしている。この別れ話について、井口純平から聞いても、元カノから聞いても、私はうつむくと思う。
この失恋は井口純平の心を大きくえぐって、その影響は彼の下半身にも及んでいる。要は「できない」のだ。本作の題名の通りである。
でも女性用風俗では本番禁止。だったらむしろ好都合じゃない? ところがそんな単純な話でもない。
女性用風俗でセラピストをやるには、勉強しないといけないことがたくさんある。「なんだか楽しそう」なんて思っちゃってごめん。
こころもからだも満たす。そんなこと、元カノとひどい別れ方をした傷心の井口純平にできるのか。でもやるしかないし、お店のボーイさん曰く、彼には「資質」があるのだという。こうして彼はハードな研修に耐え抜き、晴れてセラピストとしてデビューする。
そう、これは女性の性欲をめぐる大冒険なのだ。
初回から本番強要されてる! 大丈夫?
セックスって何?
女性用風俗にどんな女性が客として現れるのかといえば、とにかく「いろ~んな女性」だ。あんなことやこんなこと、それはそれは多種多様にお望みだ。
彼氏のいる28歳女性が女性用風俗で求めるのはどんなこと?
セラピストの仕事をこなせばこなすほど、女性客の欲望に応えれば応えるほど、井口純平は「セックスって何?」と考えるように。この副業は、彼の心にも体にも影響を与えるのだ(爪もキレイになるし)。
男の性欲と女の性欲ってちがうの? 同じなの?
彼氏や夫以外の男にお金を払ってまで性欲を満たしたいとき、彼女たちは何を考えているんだろう。それを知るのは結構ハードなことで、だから高収入なんじゃないかなあなんて女の私は思う。
でも、そんな深い沼を、やれない井口純平にこそ見てもらいたい。読んでるこちらも興奮すると思うんですよね。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori