怒りに任せてネットに愚痴を投稿したら大変なことに
どうせやるならここまでやらないとエンタメにならないよね!と思う。妻にとってエネミー(敵)な夫の「エネ夫(えねお、と読む)」に、強烈な裁きを下す……それが『エネ夫デスゲーム ~奈落の底の夫婦たち~』だ。何から何までカッ飛ばしている。
エネ夫というのは、DVやモラハラ三昧(ざんまい)の外道な夫のこと。
こういう感じのイヤーな人だ。
実にちゃんとしたデスゲームが繰り広げられる。オリジナリティにあふれ、残虐性があり、因果応報がスパイスとなる。
そしてクッキー焼いてそうなご婦人が執行人で、「公式」なのも「マザー」って名前も味わい深い。なんだこれは。
このデスゲームは、エネ夫に日夜苦しめられる妻が、その恨みを人知れずぶちまけることから始まる。妻たちは、とあるアプリにハマっていた。エネ夫への憎しみの受け皿であるママ交流アプリ「マザリー」だ。
レシピ、お得情報、そして夫への愚痴。実に手堅いジャンルで構成されている。そして注目したいのは主人公の“望”の言葉だ。なぜ彼女はこんなアプリを見つけたのか?
「他にも夫婦喧嘩してる人いないかな……」
これ! 共感できそうな人を求めちゃったのだ。SNSが怨嗟でゴーッと燃え上がるとき、人は「私も!」と自分の怒りを掘り返してスッキリさせている。一種のセラピーだ(だからその炎上に近づきたくない人は、SNSで特定のワードを表示させないミュート機能に頼る。たとえば私は“タワマン”と“旦那”と“嫁”をミュートしてます)。
マザリーに投稿されているエネ夫の最悪っぷりはどれも筋金入り。
望の夫“将太朗”はこんな酷い人じゃない。とはいえ、このとき望はめちゃくちゃに腹が立っていた。
さかのぼること数時間前。育休中の検事で二児の母の望は、この日ひさびさにライブへ出かけようとしていた。将太朗が誕生日プレゼントとして「たまには息抜きしておいで」ってことでチケットをくれたのだ。
良い夫! ひさびさの自由な時間に足取りも軽い望。ところが、だ。
将太朗に急な仕事が入ってしまい、望は急きょ家へ呼び戻されてしまう。望にとって今日が特別な日だったのに、なぜシッターを雇わない。この時点で台無しだが、将太朗は最悪の一言を言い放つ。
意味のない用事で望の自由は奪われ、ごめんの一言もなし(ありがとうは言ってるが)。これはブチギレ不可避!
こうして望はマザリーに将太朗のことを書き込んでしまう。それが地獄の始まりだとも知らずに……。
公開処刑はじまる
ネットに愚痴を書き込んでしまったことを悔やみつつも、望はマザリーにのめり込んでいく。
そんな望にマザリーから届いた招待状。人気投稿をしたユーザーを豪華なパーティーに招待するというのだ。キッズスペース完備、家族同伴大歓迎。まさかデスゲームが始まるなんて知らずに夫婦でのこのこ行ったら……?
パーティー会場の空気がやたら重い。とまどう望。しかし読者の私たちは知っている。なんせこのマンガの題名は『エネ夫デスゲーム ~奈落の底の夫婦たち~』なのだから、ここにいるのは奈落の底の夫婦だ。そしてデスゲームが始まるということは、“主催者”がいて、なんだか上の方から謎に「ハッハッハ」みたいに笑いながら登場するのだ。
ほーら来た来た。デスゲームの主催である“北条真子”は「普段自己犠牲を強いられているママたちに究極の癒やしを与えたい」とのことで、デスゲームを思いついたらしい。
まさか地獄の大運動会が始まるとも知らずに、体操着みたいなのを着せられマヌケ面をしているエネ夫たち。そしてオープニングで出題されるクイズは「娘の誕生日は?」「息子は何歳何ヵ月?」なんていうイージーな問題だが?
ダメだ~。しかも妻はエネ夫からのDVで心身ともに傷だらけ。そして執行人がライフルを構え……!
ハイ脱落。逃げ惑う参加者と、呆然とする望。こういうとき、罪を立証する検事は何をすればいいのだろう。
エネ夫たちは自分が犯した「罪」にまつわるデスゲームに参加させられる。デスゲームってなんであんなに手間暇かけるんだろうと毎回思うが、本作でも凝ったゲームが用意されているので、期待してほしい。
このあと地獄が待っている。
ところで、望と将太朗はどうなるのだろう。愚痴を言いたい日もあるが、仲の良い夫婦のハズなのに、なぜここに呼ばれたのか。
しかも北条の将太朗への当たりが妙にキツい! 誕生日なんかよりはるかに回答率が低そうな難題が将太朗に出されるが……? がんばれ!
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori