中古マンションに住む友人から、管理組合での話を聞いた。その建物は築年数が古く設計も旧耐震のため、定期的な修繕とは別の、大規模な補強を検討していた。だが高齢の住人達は、「外観やエントランスの見栄えが悪くなる」「自分たちが生きている間もてばいい」と主張し、議論は平行線のままだという。一見、合理的とは思えぬ意見だが、ではなぜそういう声が出てくるのか。そして議論の落としどころがあるとすれば、いったいどこになるのだろう──。
本書では8つの事例を元に、老後の住まいに関する問題を具体的に取り上げている。各事例の主役は定年間近、もしくは定年後の人々とその家族だ。歳を重ねることで変化する生活スタイルとどのように向き合い、より心地よい暮らしを実現していくか。そして家族はその変化にどう寄り添い、対応すればよいのか。多くのヒントが挙げられていた。
たとえば事例2では、子育てを終えた50代後半の夫婦が決断する、駅近マンションへの買い替えが紹介されている。新築で購入してから22年間住み続けている現在のマンションで、管理組合の役員を初めて打診された夫。受諾後に参加した理事会の場で、マンションの現状に直面する。
新旧役員の引き継ぎをしている際、管理会社のフロント担当者から、「これから2回目の大規模修繕工事の検討を開始するので、今期の皆さまは大変かと思います。また戸数は多くないのですが、管理費等を長期滞納されている住戸がございます。詳細は次回の理事会時にご説明させていただきます」との説明があった。
「滞納する人がいるんだ!」というのが、私の正直な感想だった。むろん、冷静に考えればそういうこともありうるのだろうが、自分にその発想がなかったため驚いてしまった。住人のそれぞれに事情があり、異なる考え方があるということを改めて実感する。ちなみに夫妻はその後、管理組合で経験したことを活かし、所有している物件の価値やその売却時期、ローンの見直しなどを新たにしたことで、適切な住み替えを実現させている。
著者は第1回マンション管理士・管理業務主任者試験に合格後、マンション管理会社勤務を経て独立した。現在はマンショントレンド評論家として管理組合の相談や顧問業務にあたりながら、10000人以上のシニア層をマンション管理員などの再就職へ導くなど、多岐にわたって活躍している。本書の各事例では、そういった著者の見識や経験を活かした解説がちりばめられており、多方面からマンションの「今」について知ることができる。
ちなみに事例2では、大規模修繕工事にかかる費用や長期滞納への対処法、ローンの返済方法の具体的な切り替えについて紹介するとともに、著者自身の買い替え時の苦労もつづられていた。著者のようなプロ中のプロであっても、住宅購入においては時に思わぬ困難を伴うことがあると知る。また他の例では、リノベーションとリフォームの違いや修繕積立金の内実、最近耳にする「リバースモーゲージ」なども触れられており、私のように賃貸で暮らす身には勉強になる話ばかりだった。
また「おわりに」では、著者のこんな言葉が印象に残った。
住まいほど人生に密着したものはない。どんな人の人生にも、その中心には家がある。家が理想的な状態であれば、心の拠り所として安心して外に行くこともできる。住まいは人生の拠点であり、幸せの象徴なのだと思う。
まさにその通り! だからこそ、多様な人が集まって暮らすマンションという場所では、さまざまな暮らし方、住み方が交錯しながらも、どうにか妥協点を見つけることが重要になってくる。自分とは違った考え方にも寄り添いながら、著者のあたたかい視点と言葉を役立てることで、より良いマンションライフへとたどり着いてほしい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。