府中市美術館開館20周年記念として開催されている「動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり」展(~2021年11月28日まで開催)の公式図録である本書には、183点にも及ぶ様々な動物の絵が載っています。
ただ絵を眺めるだけでも十分楽しいのですが、この本には新しい発見がいっぱいありました!!
日本の絵画で「動物の絵」と言ったら、やはり国宝『鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)』は外せません。
『鳥獣戯画』は平安時代後期?鎌倉時代に鳥羽僧正が描いたもので、京都の古刹・高山寺所蔵ですが、実は多くの『鳥獣戯画』の模写が存在することを今回、初めて知りました。それがこちら。
こちらは明治?昭和頃の模写で、噂に聞く有名な絵をわざわざ高山寺に行かずとも見ることが出来て、人々はきっと喜んだことだろうと想像しました。
そして次のページをめくると、なんとも可愛らしい絵が出て来ました。
実はこれも『鳥獣戯画』の模写だと最初は気付かず、色がつくとこんなに違って見えるのか!!と驚きました。
こちらは、江戸後期から明治にかけて活躍した大阪の画家・上田耕沖(うえだこうちゅう)の作品。
墨だけで描かれた高山寺の原本も深い味わいがありますが、カラー版ではさらに活き活きと見えます。
でも、このどちらからも感じられるのは、身近な動物に対する人間の温かい目。これが日本ならではの視点であることも、この本を読んで初めて知りました。
「西洋では猿は人間の出来損ない、人と悪魔の中間の存在、と考えられた気の毒な動物。中世の写本などには悪魔の象徴として登場する」ものだったというのです。
これは、「動物を崇めることを禁じたキリスト教の教義」と「人間を描くことを第一とした芸術観」によるものだとあり、なるほど!!と思いました。
確かに、中世の絵画は宗教画が多く、そこに描かれているのは神様・聖人・天使・人間です。動物で思い出せるものといったら、騎士が乗っている馬や狩猟の犬ぐらいで、やはり主役は人間です。
この本は、こうしたわかりやすい解説が、読みやすい長さで書かれているので、ストンと頭に入って来ます。
次に非常に興味深かったのは、想像上、あるいは見聞きしただけの動物の描き方。
17世紀のオランダで出版された『動物図譜』(府中市美術館蔵)は、「オランダ商館長から徳川家綱に献上され、また、平賀源内も家財を売って手に入れた」というエピソードにわくわくしてしまいます。
なぜ、犀(さい)が鎧を着ているように描かれたのかというと、実写ではなくスケッチや木版画を写したから。
見聞きした動物の絵の中には、似ても似つかないものがこの本には出て来るのですが、ひと際目を引いたのはこちら。
これが掛け軸に描かれた絵だというのが、一層笑いを誘います。さらに笑ったのが、このページに付けられたタイトル「命名『とらえもん』」。
この本は、こうしたユーモア溢れるタイトルが随所に出て来るので、とても親しみやすいです。
「ヘタウマ」画伯として江戸幕府3代将軍・徳川家光に光を当てたのも、府中市美術館でした。
歴代将軍のほぼ全員が絵を残している中、家光は木兎(みみずく)と梟(ふくろう)を好んで描いたそうです。
また、「美術史のうえでは関心を向けられてこなかった」犬の絵がたくさん見られるのも、この本の特徴です。
俳人の小林一茶、「風神雷神図」で有名な俵屋宗達(たわらやそうたつ)、近年大人気の伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)などが描いた犬の絵を見比べることができるのも楽しい。
中でも、江戸時代に子犬の絵を確立し、大人気となったのが円山応挙(まるやまおうきょ)と、その弟子の長沢蘆雪(ながさわろせつ)の絵は数多く載っています。
こうして見ていると、やはり本物が見たくなります。
いつもは美術館で色々なことを知るのですが、今回は予習ができたので、より深く作品を味わうことができそうです。
美術展に行った方はもちろん、これから行く人も、遠くに住んでいて行けない人も、ぜひこの本で自分だけの美術館めぐりを楽しんでください。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp