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2020.05.02

レビュー

練習できない、その日のために。身内が亡くなったときにすぐすべきこと

初めて喪服を買ったのは、30歳を超えてからだった。学生の時は制服で、それ以降は体格の似た母の喪服を借りて乗り切っていた。今にして思えば、それで間に合うくらいの回数で済んでいたことが幸運だったし、だからこそ自分用の喪服を持つことが怖くなっていた面もある。他愛ない話だが、当時は「喪服を買ったら、途端に不幸が増えるんじゃないか」などと感じていたのだ。

もちろんそんなはずもなく、年齢を重ねるにつれ、葬儀への出席は増えていった。ある日、ついに買うことを決意したものの、いったいどこへ買いに行けばいいのかわからない。試しに百貨店へと足を運び、「ブラックフォーマル」と名のついたコーナーへ行ってみると、同じ黒でも様々な形やバージョンがあり、目が点に。結局その日は購入できず、後日、母や友人から情報を集めて入手した。喪服でさえこんな調子なのだから、これがいざ自分が関わる葬儀となったら──。

本書の監修者は3人、それぞれが葬儀や行政手続きに関するプロばかりである。とはいえ専門的な用語を使うことなく、初心者にも理解しやすい言葉で説明していくから、読者としてはわかりやすくも心強い。内容は大きく「葬儀・法要」「役所・生活関連」「遺産相続」という3つの章で構成され、遺された人間のなすべきことが一目でわかる仕様になっていた。文中では表やグラフ、チェックシート、そしてQ&Aまで、細かい点がフォローされている。まさに至れり尽くせり!



ちなみに冒頭は、マンガから始まる。とある家族の父が、85歳で臨終を迎えた。悲しみに浸る間もなく、息子は病院スタッフから今後の流れを案内され、葬儀社についての希望を問われることに。彼はまっさきに母の意見を聞くも、涙にくれる母は丸投げの返答。困った息子は……という流れ。

不謹慎かもしれないが、オチのコマでつい笑ってしまった。こういう局面で誰かに頼りたくなる気持ちは、十分に理解できる。でも次の瞬間「もし自分だったら」と考えて、思わず真顔になった。そうだそうだ、他人事ではない。自分事として想像しながら読み進める。

この後のページでは「身近な人が亡くなった後の1年間の流れ」として、葬儀に関するイベントや手続きが時系列で並んでおり、読み手がその時必要とする記述へと誘導されていく。



特に役所や銀行への手続きは、行える日数が限定的で必要とされる書類も多いため、こういった形で事前に整理をすることが重要になってくる。頭の中でシミュレーションを行う時にも役立ちそうで、おかげで、家族や関係者と共有すべき情報も見えてきた。

1人の人間がこの世を去るにあたり、どれだけの手続きや作業が必要とされるのか。私は本書によって、初めて具体的に知ることができた。また「自分が今まで出席してきた葬儀は、こんな風に準備されていたのか」という気持ちにもなり、裏にあったであろうご苦労の数々へ、改めて思いを馳せる機会にもなった。

遺された人間に託された仕事をスムーズに行い、悔いを残さないイベントとするために。必要とする知識はこの1冊に詰まっている。本書に触れることは、「その時」を迎えたあなたにとって、十分な備えともなるだろう。気になる方はぜひこの機に、ページをめくってみてほしい。

身内が亡くなったときにすぐすべきこと 知っておくべきこと 

編 : 講談社
監 : 白根 剛
監 : 磯村 修世
監 : 中島 朋之

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レビュアー

田中香織 イメージ
田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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