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2018.04.26

レビュー

シンプルで、続けられて、丁寧で。ウー・ウェンの食卓に一生ついていく。

「丁寧」は良い言葉なのに、なんだかいつの間にか「丁寧(笑)」のようないじわるな視点で語られる場面を目にすることが増えてきて、そんなのに出くわしても絶対に話の輪には加わるまいと決めているけれど、「いや、あの、そんなんじゃないのにな……」と誰に言うでもなく1人で小さくつぶやくような、私にとって少しセンシティブな言葉になってしまうときがある。

でも本当はわかっている。

「丁寧」は、自分の心と体をピカピカにする方法であり、防衛線であり、自尊心なのだ。ちゃんと背筋を伸ばして、静かに、自分と大切な人のために使う言葉だ。

……いきなりお前は何を言っているのだとお思いの方もいるかもしれませんが、『シンプルな一冊を究める 丁寧はかんたん』は、私に美味しいごはんの作り方だけではなく「丁寧って何なの?」を教えてくれる本でした。ただレシピを読んで付け焼き刃で美味しい料理を作るのではなくて、ウーさんの哲学と知恵が頭にインストールされます。

でも安心してください、すっごく「かんたん」で、ちゃんと「美味しい」本なので。

丁寧であることについてウーさんは迷いがありません。「お母さん」は家庭の社長さんであるという信念と責任のもと、旬の食べ物を選び、丁寧にごはんを作り、お子さん2人に25年間まいにち食べさせてきました。ごはんは、健康を守り、成長を促すことに必要なことだから。

ウーさんの考える「丁寧」は、ただ手間をかけることではなくて、理にかなった、途切れることのない、ずっと続けられる行為のことを指します。この本には、そういう丁寧が自然に続くための工夫があちこちに秘められています。背筋が伸びるのに肩の力は抜けるんです。

例えばこう。

母は家庭の社長さんではあっても、プロの料理人とは違いますよね。綺麗なお出汁をとった美味しい茶碗蒸しを食べたいのなら、レストランに行けばいいのです。(略)

無理して凝った料理を作らなくてもいい。頑張って品数を作らなくてもいい。けれど、買った食材は無駄なく使い切り、毎日一品でもいいから手作りのごはんを作る。

ここで私の中の「丁寧好き」たちが総立ちになりました。そうそう、そう!

「何をしたから丁寧」とかじゃなくて、毎日気持ちよくシャンとできること。そういうウーさん流の「つづけられる丁寧」の秘密が、この薄いクリーム色のシンプルで美しい表紙の本につまっています。

たくさんの美味しい旬の食べものとレシピ、中国と日本の食文化と風土、そしてウーさん自身のお話は、生きていくために役立つ力強くて優しい芯をくれました。

レシピは、どれもかんたんで、シャキッとシンプルで、すごく美味しい。

読んだその日に夜ごはんとして「新玉ねぎの丸ごと煮」と「春キャベツの肉団子」と「ジャガイモのパセリソース」と「坦々麺」を作りました。どれも食べてみたくて勢いに任せて……だったので、正直これは作りすぎた。

でも不思議なくらいポンポンと出来上がってしまいました。新玉ねぎをレンゲで崩してハフハフ頬張りながら「旬のうちにあと何回作れるか……旬は待ってくれない!」と考えるくらい美味しかった。(そして完食)

春が過ぎれば夏がきて、夏のレシピが待っています。うだるように暑い日に食べる「香味野菜の白和え」や「冷たい和え麺」は最高だろうし、寒くなったら「きのこの黒酢炒め」もいっぱい作ろう。すごい、年中続いて年中楽しい! だって、美味しくてかんたんだから。

ウーさんのレシピでごはんを想像し、写真を眺め、お話を読み返しながら、私が今までいろんな人に食べさせてもらったごはんのことを思いました。

以前勤めていたゲーム会社では開発が大詰めを迎えると社長(お料理好き)が夜ごはんを作ってくれました。私は会社で食べる夜ごはんが大好きで、仕事が大変だった記憶よりもごはんが美味しかった記憶の方が濃いです。その社長の本棚にもウーさんの本が並んでいたので、私はあの頃からウーさんのレシピのごはんを食べていたんだろうなと考えると少し泣けてきます。当時はもう大人で、子供という年齢では全くなかったけれど、あの時期の私は確かに育ててもらっていたのだと。

今は私が私の社長で、まだお母さんじゃないけれど、自分のことを楽しく健康に保つ責任と願望があります。そこに「丁寧」を加えるとこんなに楽しく心強いものなのか。今日も明日も来週も、なに作ろうかな。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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