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2017.07.04

レビュー

元米軍大尉が告白「在日米軍は、指令後24時間で完全撤退できる」意味するものは?

在日米軍撤退があるのかどうか……ということだけではなく在日米軍とはどのような存在であり、どのような実力をもっているのかを知ることができる1冊です。もちろんディール好きなトランプですからこの本のタイトル通り「金の切れ目云々」ということがないとはいえませんが……ん。なにしろNATOに加盟諸国の負担が軽すぎると文句をつけた人ですから。

この本で一番注目して欲しいのは在日米軍と自衛隊との関係です。対談形式の本ですので該当個所を抜き書きしてみます。
・OB(ORDER OF BATTLRE 部隊編成)を見れば一目瞭然ですが自衛隊は、極東地域に展開する米軍を守るために作られています。
・米空軍、嘉手納のF-15と三沢のF-16が敵国を攻撃しやすいように、日本上空と近くの制空を空自F-15、200機が担当しています。(嘉手納、岩国、厚木、横田、三沢の米軍飛行場を守る)
・(海自は)米第7艦隊を守ります。最初に、出撃する航路の機雷からの海自掃海部隊が掃海をやります。次に、海自対潜哨戒機は、第7艦隊の行く先に潜水艦がいないか、哨戒します。海自イージス艦は、米空母を守ります。日本人の多くはイージス艦というとMD(ミサイル防衛)用と認識しているようですが、あれは敵航空機から空母を守るシステムです。海自ヘリ空母は、空母の近くの対潜哨戒です。海自にはこの掃海艇、イージスシステム、対潜哨戒機、の比率がやたらと多い。これは第7艦隊の外堀以外の何物でもありません。
・(5兆円の防衛費は)第7艦隊の外堀に使わされています。米海軍にとっては非常に心強い外堀です。

要は自衛隊はアメリカの「攻撃部隊を守る」のが使命であり、その目的にあわせて編成されているということです。これが在日米軍と自衛隊との真実の関係です。

このように読み解いている著者の飯柴智亮さんは19歳で日本を飛び出し、アメリカの大学入学後、士官候補生コースの訓練を終了したという経歴の持ち主です。その後、米国永住権を獲得し米国陸軍に入隊。アフガニスタンの作戦に参加後、米国の市民権を獲得。かつては日米合同演習では連絡将校として自衛隊との折衝にあたっていました。

彼我の実情を知っている飯柴さんによれば、もし在日米軍がアメリカの戦略の変更によって日本から撤退しなければならなくなった場合、24時間(!)で撤退が完了するそうです。(もちろん部隊ごとにちがいがありますがその詳細はこの本で語られています)

日本には“在日米軍駐留経費負担”、通称“思いやり予算”というものがあります。防衛省のホームページによると平成29年度予算では1946億円となっています。しかし、それ以外のものを含めた在日米軍関係経費の総額は5875億円にのぼります。またこのホームページには次のような注が付されています。(防衛省ホームページより)
1 特別協定による負担のうち、訓練移転費は、在日米軍駐留経費負担に含まれるものとSACO関係経費及び米軍再編関係経費に含まれるものがある。(※SACOとは、Special Action Committee on Okinawa 沖縄に関する特別行動委員会の略)
2 SACO関係経費とは、沖縄県民の負担を軽減するためにSACO最終報告の内容を実施するための経費、米軍再編関係経費とは、米軍再編事業のうち地元の負担軽減に資する措置に係る経費である。他方、在日米軍駐留経費負担については、日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保していくことは極めて重要との観点から我が国が自主的な努力を払ってきたものであり、その性格が異なるため区別して整理している。
3 在日米軍の駐留に関連する経費には、防衛省関係予算のほか、防衛省以外の他省庁分(基地交付金等:384億円、28年度予算)、提供普通財産借上試算(1657億円、28年度試算)がある。

防衛省の予算が総額5兆円ですから1割以上になります。けれどこの支出はアメリカの「攻撃部隊を守る」ためのものであって、国防といえるかどうかは問題が残るところです。なにしろアメリカの戦略変更によってはどのような行動を取るか分からないのが在日米軍なのですから。

在日米軍の姿についても手厳しい指摘があります。在韓米軍の2倍の在日米軍がいる実態に触れてこう話しています。
──結論から言いますと、日米双方にとって、居心地がいいからです。また、自分の同期も先輩、後輩たちも、『日本勤務はピクニックだ』とか、『ロングバケーションだな』と言っていましたから。付け加えますと、日本勤務になる将校、特に司令官ですが、ハッキリ言うと米陸軍内では二流の将校が配属されます。その証拠に在日米軍司令官経験者が、後にペトレイアス大将、マクレイヴン大将などのように、イラクやアフガニスタンで部隊を率いて実戦で功績を収めた、とは聞かないでしょう。──

厳しい指摘ですが、そのことを踏まえてか、飯柴さんは在日米軍の削減を提言しています。米兵力を4分の1にする内容の提案です。それは煎じ詰めれば米軍は「二つのレーダー基地と、横須賀、佐世保の港湾施設と数個の飛行場が使えればいい」というものですが、その詳細はぜひ読んでください。日本にある米軍基地の任務・意味合いがここでもよく分かると思います。

当然のことですがアメリカはアメリカの国益で動きます。まさしく「米国が自己中心的なのと、日本の自立は全く別問題」なのです。

では日本の国防、安全保障はどのようにすればよいのでしょうか。飯柴さんは兵器の購入や日本での兵器産業の活動を含めて極めて“ビジネス”として安全保障を考えています。ここもまた読む人によっていろいろな意見が出るところではないかと思います。それに加えてトランプが費用負担で注文を付けたNATOへ日本の加入ということも言っています。少なくとも思考実験としてはありうるかもしれません、さまざまなハードルはありますが。

これらの刺激的な言葉をどうとらえるか、それは思ったよりも喫緊の課題でしょう。もっとも日本が胸をはって守るに値する国柄になるのがまず先かもしれませんが。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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