38歳で歿した、太宰治。
ヒリヒリする痛切な小説から、技巧を凝らした実験小説、陶然たるロマンス、古典の翻案、果ては爆笑ユーモア小説と、その作品世界は、まさに千変万化。
そんな太宰の短篇を、21人の現代作家に、それぞれの視点で選んでいただきました。
あなたの「マイベスト太宰」は、この中にあるでしょうか?
小説家。青森県生まれ。県内屈指の素封家の六男として誕生。青森県立青森中学校在学時から同人誌に作品を発表。1930年、東京大学仏文科在学中に共産主義活動にのめり込み、女給・田部シメ子と心中を図る。1935年「文藝」に発表した「逆行」が第一回芥川賞候補となる。1936年、処女作品集『晩年』刊行。1937年、内縁の妻・小山初代と心中未遂。1939年、井伏鱒二の仲介で石原美智子と結婚し、安定した生活を得て充実した作品を次々に発表。戦後『斜陽』で流行作家となるが、『人間失格』を書き上げた1948年に愛人・山崎冨栄と玉川上水で入水自殺。 主な著書に『虚構の彷徨 ダス・ゲマイネ』『二十世紀旗手』『愛と美について』『東京八景』『新ハムレット』『駈込み訴え』『右大臣実朝』『津軽』『ヴィヨンの妻』『如是我聞』など。
30代作家が選ぶ太宰治
38歳で歿した太宰を、現代の30代作家たちはどう読み、いかに選ぶのか。同世代としての視点で選ばれた短篇。
「新樹の言葉」
倨傲さだの不遜さだのを離れた、その先にもいる太宰に心打たれるのだ──青木淳悟
「親友交歓」
ときどき何だか恋しくなって、うっかりページをひらいてしまう──朝吹真理子
「トカトントン」
「若い人」ではなくなった三十五歳の僕の耳にも、トカトントンの音はたしかに聞こえてくるのでありました──佐藤友哉
「葉」
悲嘆にくれながら笑い、怒りながらおどける。背反を抱え、そのまま抱きしめ続ける人
──滝口悠生
「駈込み訴え」
目を背けたくなるようなユダの弱さは、わたしたちの弱さとも呼応する──津村記久子
「皮膚と心」
こんな風にかわいらしくて優しい太宰作品も、私はたまらなく大好きなのです──西加奈子
「おさん」
軽やかにとんとんと進んだり、急にぐにゃりと柔らかになったり、太宰のそういう言葉の感触が好きだ──村田沙耶香
男性作家が選ぶ太宰治
現代日本文学を牽引する男性作家が選んだ太宰短篇。同性作家は太宰をどう読み、いかに選ぶのか。
「道化の華」
この作品が自分は一番嫌いだ──奥泉光
「畜犬談」
「芸術家は、もともと弱い者の味方だった筈なんだ」は、いまでもかくありたいと思わされる言葉である──佐伯一麦
「散華」
見事だと思う。読んで下さい──高橋源一郎
「渡り鳥」
言葉の選択、リズム、途中から長く独白となるタイミング、その長さも完璧──中村文則
「富嶽百景」
不思議な明るさに包まれた怯えの百面相──堀江敏幸
「饗応夫人」
表面とバックグラウンドの間を小説って走り狂うよね。走り狂うよね──町田康
「彼は昔の彼ならず」
うらぶれた題名に似合わず、妙に図々しい生命力が滾っているところに惹かれる──松浦寿輝
女性作家が選ぶ太宰治
異性作家は太宰をどう読み、いかに選ぶのか。女性選者それぞれの視点で選んだ「マイベスト太宰」。
「女生徒」
これを読むと、私は太宰を、軽やかな作家だなあと思う──江國香織
「恥」
暴かれるというその痛みが、読む快楽になるということを知った──角田光代
「母」
きわめつきは、最後のひとこと。しびれます──川上弘美
「古典風」
ほとんど奇跡のような成り立ちかたをしている──川上未映子
「思い出」
プライドと恥辱。才と情。太宰治は生まれた時から太宰治なのだった──桐野夏生
「秋風記」
この甘やかさに浸らずにいられない──松浦理英子
「懶惰の歌留多」
自分の悪徳は怠惰であると書いた治め! 私には、それが唯一無二の小説家の美徳であると解るよ──山田詠美
読者が選ぶ太宰治(BOOK倶楽部メールアンケートより)
「晩年」
太宰の処女作にしてこのタイトル。彼の人生そのものを表わしていると思います。(東京都/50代/男性)
「走れメロス」
小学生の時と高校の時に読んだ時はメロスとセリヌンティウスの友情に心が動かされましたが、今様々なメディアに触れた段階で考えると腐女子が発狂しそうな作品だなと思いました。 (千葉県/20代/男性)
「走れメロス」
教科書に載っていて初めて読みました。とっても面白くて、その後太宰さんの「人間失格」なども読むようになりました! (山梨県/10代/女性)
「走れメロス」
冒頭の一文で読者の心を鷲掴みしている作品だと思う。何が起こっているのか気になって続きを読むしかない。 (山口県/30代/女性)
「走れメロス」
子どものころは友情物語として読んだ。今読むと大仰な言葉なのに不思議なリズムで読み進む。子どもも暗唱して楽しんでいる。ありそうでないようなお話。厳しいのか甘いのか。ラストで更ににやりとさせられる大人の御伽噺。 (神奈川県/40代/女性)
「皮膚と心」
相手の女性を思いやる様子が素敵です。(奈良県/40代/女性)
「惜別」
語り手、魯迅、藤野先生の3人を通して、人間の卑小な部分、偉大な部分をしっかりと描き切った太宰はすごいです! (静岡県/30代/男性)
「お伽草子」
人間失格も斜陽もいいけれど、太宰のユーモアを感じられるお伽草子が好き。(愛知県/20代/女性)
「お伽草子」
最高のコメディ。(兵庫県/40代/男性)
「パンドラの匣」
太宰治がこんなにユーモアのある文章を書くとは思いもしなかった。主人公の昭和の男としての“遠慮の美学”も堪えきれずに本心を叫ぶあたりは爆笑物です。(山口県/60代/男性)
「人間失格」
仕事の当直中に読んだが、面白くてぶっ通しで読んだ。おかげで翌日すごく眠かった。あまりにダメダメな人生すぎて、自分の平凡な人生が相対的に良い人生だと思えた。明らかに太宰自身のことを描いてるなと思える感じも好き。(東京都/30代/女性)
「人間失格」
自分のことを書かれてるみたいで衝撃を受けた。(広島県/30代/女性)
「人間失格」
ありきたりなチョイスですが、読んでいてここまで苦しくなる作品はないと思います。(石川県/30代/男性)
「人間失格」
定番で恐縮ですが、若いころに読んだ衝撃は今でも忘れられず、何度も再読してきました。読むたびに、そのときどきによって異なる感情を抱きます。私にとって、自分が何者であるのかを深く考えさせられる作品です。(神奈川県/70代/男性)
「人間失格」
高校生の頃読んだときは、あまりにも暗い話で好きになれませんでしたが、20代で再読したときには、この本はまさに自分のための本だとばかりに、毎年1回は読み直すほどのほれ込みようでした。彼のプロフィール写真で有名なバーに行ったりもしました。20代の自分は本当に人間失格でした。50代になった今も精神的には、その頃となんら変わっていないように感じるため、本書を読むのが怖いほどです。本当に何も変わっていなかったらどうしようという恐れがどうしてもつきまとう作品だからです。(広島県/50代/男性)
「ヴィヨンの妻」
死に向かう太宰の心性が伝わってくる。頽廃的な時代の空気もあわせて、太宰特有の読後感を味わえる。(大阪府/20代/男性)
「駈込み訴え」
同じストーリーでも視点が変われば真実が異なるということを教えてくれた本。(神奈川県/30代/女性)
「斜陽」
読む年代・読んだ時の自分の心境で、解釈や好みが変わる作品だと思う。高校生の時に初めて読んだが、その頃と今読むのでは、全く違う感想を持った。(神奈川県/50代/女性)
「斜陽」
冒頭のスープを飲むシーンが頭から離れない。今でもきちんとした席でスープを前にすると頭でひらりひらりと言ってしまう。太宰の呪いかも。(神奈川県/40代/女性)
「斜陽」
ストーリーの面白さもさることながら、文章がリズミカルで読んでいるだけで楽しい。(千葉県/20代/男性)
「斜陽」
没落とはニュアンスの異なる「滅びの中の美」という意味をこの言葉に持たせたこの作品を、成熟衰退期にある今の日本の若い世代はどのように読むのでしょうか。(静岡県/40代/男性)
「女生徒」
まるで少女が書いたような可愛らしさがあります。太宰って暗いイメージが強いけどそんなことない作品も沢山あって毛嫌いしてほしくないです。(北海道/40代/女性)
「恥」
読んでいて普通に良いなぁと思うのは「走れメロス」や「人間失格」なのですが、「恥」という短編が読んでいていたくていたくてどうしようもなくなるのです。そしてその感覚をまた味わいたくて読んでしまう。私にとって複雑な物語です。(埼玉県/50代/女性)
「人間失格」、「斜陽」、「惜別」
政治学者橋川文三が太宰を評して「人間の優しさの究極のイメージ」(「太宰治の顔」)と述べていますが、その通りだと思います。(群馬県/30代/男性)
「親友交歓」、「トカトントン」
これを最初に読んだらやられてしまいます。教員ですが、桜桃忌には生徒に読ませてます。(広島県/40代/男性)
ないですね
性格が太宰治に似ているみたいで読んでると調子が悪くなって死を考えたり、自身も深く自分を追及するタイプなので太宰治の本を読んでは特に「人間失格」を読んで自分を追い込んでしまい参ってしまったことがあるんです。太宰が何度も自殺を考えた気持ちが何か分かるような気がしました。物事を深く考える鋭い才覚が太宰治にあるから彼はあれだけの文章を書けたんだと思う、自殺は惜しい。(兵庫県/30代/女性)
編集者が選ぶ太宰治
「男女同権」
男性作家、女性作家、30代作家と、計21人の選者の皆さんに、それぞれの視点で太宰の短篇を選んでいただきました。こんな短篇選を企画できるのも、太宰作品の多彩さあってこそです。明るさと暗さ、美しさと滑稽さ、深刻さと軽さ、聖と俗──そして、太宰を語る際に忘れてはならないのが「笑い」です。陰惨きわまりないのに吹くこと必至の世にも奇妙な一篇を、シメにどうぞ!
(文芸文庫編集部 森山)
太宰をより深く知るための文芸文庫作品
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著:津島美知子
戦中戦後の10年間、太宰の妻であった著者が豊富なエピソードで綴る回想記。
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編:日本ペンクラブ, 選:中村光夫
文学史を飾る作家十五人の珠玉の「私小説」の競演。「富獄百景」を収録。
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編:講談社文芸文庫
いつの時代にも変わらぬ若者たちの生態を鮮やかに描いた11篇。「眉山」を収録。
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編:吉行淳之介
古今東西、酒にまつわる名作エッセイ。「酒ぎらい」を収録。
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著:井伏鱒二
太宰治の不可思議な人柄にふれて書かれた随筆「社交性」を収録。
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著:木山捷平
木山捷平最晩年の珠玉短篇。若き太宰治の真摯な青春像を描く。
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著:木山捷平
〈桜桃忌〉に出られなかった事から太宰治を回想する「玉川上水」を収録。
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著:小山清
小山清の希少な作品集。太宰治、井伏鱒二との交流を振り返る随筆を併録。
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著:石川淳
中期評論エッセイ24篇。「太宰治昇天」を収録。
著 : 太宰 治
その他 : 朝吹 真理子
その他 : 西 加奈子
その他 : 津村 記久子
その他 : 佐藤 友哉
その他 : 村田 沙耶香
その他 : 青木 淳悟
その他 : 滝口 悠生