ミステリ小説「きみとけ」シリーズの魅力を著者・綾崎隼さんへのQ&Aと書店員さんの声から探る
“タイムリープ”をテーマにした「きみとけ」シリーズ最新刊
定価:本体660円(税別)
残酷なルールが支配する、タイムリープ・ミステリ4部作の第2幕! 過去に戻って人生をやり直したいと思っている人に、いまいちばん読んでもらいたい物語
過去に戻って、もう一度やり直す機会を与えられる――。
それが現実に起こったとしたら、どんな気持ちになるでしょう? しかも、変えたい過去のできごとは変えられないまま、もっと残酷なことが現実になるとしたら?
SMAP・木村拓哉さんの発言で、一躍話題のキーワードとなった“タイムリープ”。この時間跳躍をテーマにしたミステリ小説「きみとけ」シリーズ4部作の最新刊が2月17日(水)に講談社タイガから発売されました。
西尾維新氏、森博嗣氏などの小説を愛読する若い世代の読者からも熱い支持を受け、読書メーターの「読みたい本ランキング」1位を獲得した、このシリーズの魅力はどんなところにあるのでしょうか? 作者・綾崎隼さんへのQ&Aと書店員さんの声から探ってみました。
【君と時計シリーズ あらすじ】
大好きな女の子が死んでしまった――という悪夢を見た朝から、すべては始まった。高校の教室に入った綜士は、ある違和感を覚える。唯一の親友がこの世界から消え、その事実に誰ひとり気付いていなかったのだ。自らがタイムリーパーであることを自覚した綜士は、「愛する人を救えなければ、強制的に過去に戻され、その度に親友や家族が一人ずつ消えていく」という失敗が許されない過酷なルールの下、『時計部』の先輩・草薙千歳と、不思議な同級生・鈴鹿雛美と共に、理不尽なこの現象を止めるため、奔走を始める。3人が辿り着いた哀しい結末とは!? 新時代のタイムリープ・ミステリ開幕!
作者・綾崎隼さんへのQ&A
Q:「きみとけ」シリーズのストーリーが生まれたきっかけ、他シリーズとの違いは!?
これまで20冊ほど物語を紡いできましたが、SFやファンタジー的な要素が含まれる作品は、1度しか書いたことがありませんでした。
講談社タイガ創刊に伴う執筆の依頼をいただいた時、最初に考えたのは、これまでの作品とは一線を画す物語を作らなければ意味がないということです。
同時に、ずっと挑戦したかった『時間』をテーマにした物語を書くのは、今なのではないかとも思いました。
『タイムトラベル』と『タイムリープ』、どちらを主題とするかは随分悩みましたが、自分が描写したい<青春の痛み>と親和性が高いのは、『タイムリープ』だろうという結論に至り、その後、本作の骨子を練り始めました。
『タイムリープ』を主題とした作品は、古今東西に多く存在します。
そして、類似ジャンルの作品に触れる際、私にはいつも疑問に思っていたことがありました。
それは、未来から過去に戻る人物がいるのに、その現象によって押し出される人はいないのだろうか、というものです。
<愛する人を救えなければ強制的に過去に戻され、その度に親友や家族が一人ずつ消えていく>という「きみとけ」シリーズの根幹を成す設定は、そんな疑問から生まれたものです。
タイムリープに代償が伴うため、愛する人を救っても、単純なハッピーエンドにはなりません。
加えて、本作には2人のヒロインがいますが、主人公、綜士の片想い相手である芹愛は多くを語らず、協力者であるはずの雛美は嘘ばかりついています。
そのため、2人の本心が綜士には分かりません。
芹愛と雛美が、本当は何を考え、何に怯え、何を求めているのか。
上手く緊張感を演出しながら、結末まで描いていけたらと思っています。
Q:主要な登場キャラクター4人(綜士、千歳、芹愛、雛美)を紹介してください。
綜士の一人称で物語が進みますが、4人全員を主人公のように思っています。
最も魅力的に描きたいと思う人物を、語り手のパートナーとすることが多いのですが、本作ではそれが先輩の千歳になります。
これまで私が書く男は、(自分がそうだからかもしれませんが)ダメな男が多かったように思います。
そんなこともあり、今回は強い意志を持つ男を描きたいと思っていました。
千歳は体力がなく運動神経も悪いのですが、とにかく前向きで善良な意志を持つ秀才です。
落ち込む暇があったら、反省して次に生かす。
何度失敗しても諦めない。
そういう千歳の精神的な強さは、過酷なルールに縛られた本作に灯る、唯一の希望かもしれません。
千歳は物語を引っ張っていく強さを持っていますし、書いていて心地好い人物です。
読者の皆様にとっても、そういう存在であってくれたなら嬉しいです。
対照的に主人公の綜士は、ズルくて、卑怯で、脆さを抱えた少年です。
ただ、17歳というのは、多くの少年にとってそういう微妙な時期だとも思うのです。
自分の弱さや欠点に落ち込んで、
身近な家族にいらだって、
そうすべきと分かっているのに、感謝の言葉も、謝罪の言葉も、上手く口に出来ない。
そんな綜士ですが、作中の経験を通して、成長していって欲しいと思います。
芹愛と雛美、2人はどちらも説明が難しいヒロインです。
本音を隠し続けていますし、共に物語のキーパーソンなため、そういう意味でも多くを語れません。
現状、芹愛は冷徹な人間に映るかもしれませんが、先に拝見したコミック版では、彼女の持つ可愛らしさも表現されていましたので、そちらも一緒に楽しんでもらえたら、なんてことも思っています。
Q:「取り返しのつかないこと」が「取り返しのつかない」ままである現実について、綾崎さん自身はどう思われますか?
人生というのは解答のない選択の連続で。
どちらを選んでも正解で、どちらを選んでも後悔する。
そんな選択も珍しくはないように思います。
「きみとけ」シリーズの作中で、やがて主人公たちの前に提示される選択も、そういった類のものです。
私は元サッカー日本代表監督のオシム氏を尊敬しているのですが、彼には日本人が使う言葉で嫌いなものがふたつあるそうです。
それは「しょうがない」と「切り換え」で、日本人は責任や原因を明確にしないまま次に進もうとする傾向があるというのが、彼の考えでした。
とりかえしのつかない後悔は、私にも幾つかあります。
大事故に巻き込まれて、右腕に後遺症が残る怪我を負ったこと。
デビューが遅かったことで、一番読んで欲しかった人に、自分の小説を読んでもらえなかったこと。
どちらも「とりかえしがつかないこと」で、悩んでも仕方がないことかもしれません。
ただ、「しょうがない」で終わらせる前に、責任の所在を明らかにし、反省し、改善点を見つけておくことが出来たなら、経験してきた後悔こそが、次にくるだろう後悔を、少しだけ緩和してくれるかもしれない。そう思いたいです。
とりかえしがつかない失敗をした後で。
しょうがないことだ。切り替えよう。
そんな思考に至る前に、いちど、じっくりと考える癖をつけたいと考えています。
Q:これからのストーリー展開を踏まえ、注意して読んで欲しいことを、ひとつだけ教えてください。
自分でも忘れてしまうんじゃないかというくらい沢山の伏線を張ってきたので、なかなか難しい質問です。
ただ、ひとつだけということであれば、やはり<雛美の嘘>になるのかなと思います。
嘘つきが登場する物語は珍しくありませんが、大抵、そういった人物は作中でとても上手に嘘をつきます。
しかし、雛美は嘘が下手なので、次から次にボロを出してしまいます。
そして、完全に嘘だとバレた後でも、その嘘を貫き通そうとします。
何故そんなにも沢山の嘘を雛美がつくのか。
どうして真実を仲間にも話そうとしないのか。
雛美が隠し続ける本当の気持ちを想像しながら、物語を追っていただけたら嬉しいです。
書店員さんからも“続きが気になる!”という声が続々!
・オリオン書房 アレア店 松本亮太さん
こんなに理不尽なタイムリープものは初めて読みました……!
「今すぐ続きが読みたい!」というのが読了後すぐの感想です。
理不尽全部盛りのどうしようもない三竦みみたいな関係が、どうやったら解決するのかまったく想像がつきません。
・有隣堂 伊勢佐木町本店 佐伯敦子さん
面白い! タイムトラベルものは、何冊か読んだことがありますが、
これは、面白い! タイムリープできたらいいなとか、そんなことまで思いながら読みました。みんな、多かれ少なかれ、どこか人生やり直したいなあなんて、思っているからこそ、現実ではありえないお話に心惹かれるのかもしれません!
ひさしぶりに続きが気になるお話に出会いました!
・ジュンク堂書店 西宮店 曽田未絵さん
まさかのラストにびっくりでした。
後半は一気読みで、続きが気になって仕方ありません!
・書泉ブックタワー 田村恵子さん
すごく続きが気になる作品!!
綜士は大切な人を助けてタイムリープを止めることができるのか。
タイムリープによって親しい人を失ってしまう、というのは、精神的にとてもキツイ話です。いじめや自殺、重いテーマでもあるこの作品が「4部作」ということですが、連続刊行してほしいほど、続きが読みたいです。
●「ARIA」(講談社)にて3月28日よりコミカライズスタート!
綾崎隼×西ノ木はら
「きみとけ」シリーズが
ARIA5月号(3月28日発売)にて早くも漫画化決定!
新鋭・西ノ木はらが描く、
「きみとけ」をお楽しみに!