日本語は英語などと比べて論理的ではない。
あなたは、このような主張を耳にしたことはないだろうか。僕はある。しかし『日本語の作文技術』の著者である本多勝一さんは、日本語は論理的ではないというのは俗説であると本書で指摘している。
「日本語が論理的ではない」は俗説である。従って、日本語は論理的である。論理的であるならば、作文を「技術」として教えることは充分可能なはずだ。
もちろん、この本で書かれている通りに文章を書かなければならない、ということではない。実際、いま僕が書いた文章──「この本に書かれている通りに文章を書かなければならない、ということではない」は、本書で教えてくれる技術的には(もとい本書に限らず)、悪文かもしれない。
「必ずしもこの本に書かれている通りに文章を書く必要はない」
とすれば、先に述べた文のように読点(、)を打たなくていいし、否定の表現も連続しないので、そのぶん読みやすいだろう。
しかし僕は、先に述べた文章も嫌いではない。文章の好き嫌いに関しては、やはり〝趣味〟の問題だと思う。ある人にとっては悪文でも、別の人にしてみれば個性的な名文と感じる文章は往々にしてあるものだ。
極論するなら、言葉というものは伝わればそれでよい。
とはいえ、自分が書き綴った文章を他者に読んでもらう場合、読解を助ける上で最低限の「わかりやすさ」は必要だろう。
本多さんも本書の第一章で次のように述べている。
「目的はただひとつ、読む側にとってわかりやすい文章を書くこと、これだけである」(原文ママ)
要するに本書は、わかりやすい日本語の作文(相手に伝わりやすい文章)を書くための技術書である。
もっとも、正直に言って僕は『日本語の作文技術』で学んだ通りに文章は書いていない。理由は、すでに述べたように個人的な〝趣味〟である場合が大半だ。
ただし、文章を書いていて装飾の順番だの句読点の打ち方だの技術的な問題で迷ったときには、必ず本書に頼るようにしている。
レビューの最後にあらためて述べるが、ここまで論理的に文章指南をしてくれている本は、『日本語の作文技術』以外にはないのではないか。僕の知らないところで仮に類書が存在しているのだとしても、『日本語の作文技術』一冊持っておけば充分だと断言してもよい。それぐらい質が高い。
とりわけ第四章の「句読点のうちかた」に関しては、目から鱗が落ちる体験となった。それまでは「こんなところにテンを入れて大丈夫だろうか」と不安な気持ちのまま読点を打っていた。理屈ではなくて、感性だけで文章を書いていたのだが、それだと、そのときどきのリズムに影響されて文章が安定せずに困っていた。そうした悩みから解放してくれたのが、『日本語の作文技術』の第四章なのだ。
もちろん第四章で書かれている「句読点のうちかた」が絶対に正しいと僕から断言することはできない。また、それら「技術」に従う義務もない。けれども技術的なバックアップがあると、実際に書く上でも精神的にも助かるものだ。迷ったときにその「技術」に頼ればいいので、自信を持って文章を書くことができる。
そういう意味で本書は、日本語で文章を書く人のための「応援書」と呼び換えてなんら差し支えないものだ。
僕の手元にある『新装版 日本語の作文技術』の帯に、ジャーナリストの故・筑紫哲也さんが次の文を寄稿している。
「相手に伝わる文章をどう書くか。それを教える類書が、このロングセラー以外に未だに無いとは驚きである」
真実、類書が存在しないとする。僕の勝手な想像だが、たとえいかにロジカルな内容の「わかりやすい文章の書き方」本が執筆されたとしても、とどのつまりそれは『日本語の作文技術』のコピーのようなものだろう。
『日本語の作文技術』が最初に単行本として世に出てから40年弱(1976年に朝日新聞社より刊行)。新装版も2005年に講談社から刊行されて早10年が経つが、この本は未だに売れ続けている。売れ続けるにはわけがあるはずだ。
『日本語の作文技術』一冊あれば、たぶん事足りるのだ。だから同レベルの類書が存在しない。同レベルの類書が存在しないから未だに売れ続けているのである。
レビュアー
小説家志望の1983年夏生まれ。2014年にレッドコメットのユーザー名で、美貌の女性監督がJ1の名門クラブを指揮するサッカー小説『東京三鷹ユナイテッド』を講談社のコミュニティサイトに掲載。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。書評も書きます。
近況:未熟な文章で本書を紹介してしまったことに罪悪感を覚える。『日本語の作文技術』的に、ダメな箇所でいっぱいだろう。改行や空白の行が多いのを真っ先に指摘されそうです。実を言うと僕も、改行を増やしたり空白の行をやたらと挟み込むのは好きじゃないのですが、ネットに掲載される文章というものは、改行や空白の行が多くないと言葉が詰まりすぎていてやはり読みづらいという印象があるので、レビューやブログでは嫌々ながら改行を増やしたり空白の行を挿入しています。