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究極の最前線メシ!! 太平洋戦争真っ只中、海兵のハラを支えた男たちの物語
(原作:池田 邦彦 作画:萩原 玲二)
戦場で食べる、気が遠くなるほどの旨いメシ
人間が生きて活動している場所には、ほぼ間違いなく人間の仕事がある。そして食べ物がなければ人間は生きていけない。どれも至極当たり前の話なのに、歴史やドキュメンタリーを観ていると私はつい見落としてしまう。出来事をなぞりすぎて人間が見えなくなるのだ。
『艦隊のシェフ』の舞台は第2次世界大戦中の駆逐艦・幸風(さちかぜ)。幸風の乗員は239名。
戦争の真っ只中の最前線にいる彼らだって当然ごはんを食べている。そしてごはんを食べているということは、
毎日それを作っている人がいる。1日3食ときどき夜食。右下の厨房の絵が大好きなんですよ、調理台に並ぶ大きなお魚や、時代を感じさせる桶、そしてその日の献立が書かれている黒板。あとバルブやタンクもありますね。見飽きない。
この烹炊所(ほうすいじょ)と呼ばれる場所で兵士たちのために作られる食事のおいしそうなこと。
チキンライス、鮭缶詰のコロッケ、五目握り飯。和洋中なんでもある。「海軍ってカレーをいつも食べてるんじゃ?」なんて思っていたら大間違い。それに想像してほしい。毎日毎日カレーばかり食べていたら飽きるし士気だってダダ下がりだ。
そう、食事はただお腹を満たすためだけじゃない。人を奮い立たせる力がある。そして張りつめた心を救い出し、魂を癒(い)やすことだってできる。
士官用の銀シャリを使った「日本一旨い握り飯」。気が遠くなるほど旨いのだという。
艦隊の食事にドラマがないわけがない。そしてなにより、旨そうだ。
駆逐艦で米を炊くということ
兵士の食事を作るのも兵士の仕事。烹炊所に配属された主計兵が調理を担当する。主計兵は艦船での補給部隊だ。厨房の様子を見てみよう。
烹炊所で一等主計兵の“海原護”が里芋を剥いている。ここだけで私は「おー!」ってなるんですよ。ちゃんと野菜を船に積み込んで、下ごしらえから作っている。おいしそう。
で、幸風は客船ではない。
ひとたび戦闘に突入すればメニューも戦闘モードに変わる。席について食事を摂る余裕なんてないから握り飯。しかも栄養たっぷりの五目握り飯だ。
駆逐艦がドッカンドッカン戦っている最中も烹炊所では調理が続く。レシピが当時の言葉で記載されているのが楽しい。主計兵は、司令官や砲手のように脚光を浴びることはなかなかない。でも、兵士と艦と国を守る大切な仕事だ。
でも戦わずに済むから烹炊所の仕事はラク? いや、ぜんぜんラクじゃない。
海が荒れていようがなんだろうが、米をホカホカに炊くことは必達のミッション。しかも駆逐艦はよく揺れるのだという。重労働。
炊飯の釜にしがみついているのは主人公の“湊谷賀津夫(みなとや かつお)”。おいしそうな名前を持つ彼も艦での食事に救われた1人だ。賀津夫はある事情により幸風の烹炊所で働くことに。
食べた人の顔
この賀津夫の視点から描かれる艦隊の物語が、おいしそうなごはんをより魅力的にする。
賀津夫、優しい。落ち込む士官を元気づけるのはどんなメニューか?
「うまかった」って最高の言葉だな。そしてこの満ち足りた顔! 食べる人のことを考えて精一杯作るから、ますますおいしくなるんですよね。
史実を知っているだけに今後の幸風の行方が心配でたまらないが、巻末の解説「知ればもっと面白い! 史実と『艦隊のシェフ』」にあった「船が沈まなければ、飯は食える」というたくましい言葉を信じて次のメニューを待っている。
太平洋戦争真っ只中の日本。艦橋の真下で海兵のハラを満たしつづける、究極の最前線(バトルフロント)メシ!!
第2次世界大戦中の太平洋。常に最前線にいた駆逐艦・幸風。その艦橋の真下に、兵士たちのためにメシを作り続ける男たちがいた。彼らの名は烹炊兵。武器を扱うわけでも、作戦に携わるわけでもなく、戦争のハラを支え続けた男たちの物語。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。
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