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居場所のない少女を救うのは絶滅危惧種の「ニッポンバラタナゴ」

なないろ探訪記(1)
(著:日生 マユ)
2022.02.11
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光があたるとキラキラ輝く「ニッポンバラタナゴ」。通称「ペタキン」。
奈良県では絶滅したと思われていたこの魚が、2005年に奈良公園内の池で偶然発見されました。
この実際にあった出来事をベースに、亡き父親の面影を探し求める少女と、生き物が殺せない生物学研究生のお話……と聞けば、しっとりとしたヒューマンドラマを想像するかもしれませんが、『なないろ探訪記』はそれだけではありません!!
とにかくクセの強いキャラクターたちが笑いを誘い、一気に話に引き込まれます。

奈良の大学の農学部・水圏生態学研究室に所属する浅葉(あさば)レイは、大学が管理する「立ち入り禁止」の池で、勝手に魚を盗ろうとしていた金髪の中学生、樫原(かしわら)カナと出会います。

「ここに珍しい生き物おるんやろ。つかまえて見してくれへん?」

檜前渡(ひのくまわたる)という人物が2011年に書いた日記には、「ペタキン」という生物がこの池にいて、彼が魅了されたその生き物が見たいと言うのです。

ところが、大学の研究室に潜り込んだカナは、水槽の魚を殺そうとしていたところを教授に見つかってしまいます。



実は日記の持ち主である檜前渡は、カナが3歳の時に生き別れた父親だったのです。
カナは、家を出て行った父親が、その後どこでどう生きて何を思いながら死んだのかが知りたくて、ここに来たのです。

と話の筋だけ聞くと、いたいけな少女を連想しがちですが、カナはとんでもなくぶっ飛んでいます!!

ひょんなことから、「ペタキン」の育成プロジェクトに加わることになったカナは、家出同然で叔母さんの所に転がり込み、学校新聞の取材と偽って研究室に出入りし、道端の自転車を拝借したりと、なかなか腹黒い(笑)。

母親ですら、「あの子は人の弱みにつけこむんよ。利用できそうな人見つけたら、どんどん嘘つく」と言われてしまうほど。
「近いほど憎しみあうんやわ」という、母娘ならではの複雑な情愛も描かれていて、この話にさまざまな色合いが加わります。

さらに父方の祖母も想像の上を行く人物。はるばる会いに来た孫に対し……、

しかし、カナも負けていません。
「孫なら無条件に喜ぶわけでもないんやな。このままやと今夜寝る場所が…、まずは信頼確保」と、自主的におばーちゃんちの草刈りを始めると……、

このおばーちゃんとカナなら、今後一波乱ありそうで、今から楽しみで仕方ありません。

でもこれは、ほんの一断面でしかないのです。
「ペタキン」がどんな魚であるのかはもちろん、絶滅危惧種を守るために学生たちがどんな活動をしているのかというサイドストーリーもしっかりと描かれています。

そして、父親が単に「ペタキン」の研究者だったというだけでなく、1人で亡くなった父親と、誰にも気づかれずに消えて行く絶滅危惧種という、命についてのテーマが根底にあることにも気付かされます。

一見バラバラに見える話が実はしっかりと絡み合い、笑いの中で見事に融合しているところが、この『なないろ探訪記』のすごさ。
光にあたった時の「ペタキン」だけでなく、お話も “なないろ”なのです。
心がふわっと温かくなる、いい作品に出会えた!!  読み終えたとき、きっとそう思うに違いありません。

  • 電子あり
『なないろ探訪記(1)』書影
著:日生 マユ

奈良の公園の池で偶然発見されたニッポンバラタナゴ(ペタキン)。とうに絶滅したと思われていた、その魚の発見は奇跡と称された。ペタキンの生育には、卵を産みつけるドブガイという二枚貝、ドブガイの幼生が成長するためのヨシノボリというハゼの仲間の存在が必要で、その生態系をまるごと維持していた奇跡的な池は「タイムカプセル」と呼ばれた。かつて、ペタキンの奇跡に魅了され、一心に研究を続けていた父親の面影を追って、少女・カナは家を出る。自然と環境、父の足跡をめぐって、とまっていたカナの時間が再び動き出す──。
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レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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