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「日本の漫画は海外でも大人気!」
そんな話をよく聞くけれど、ホントに“大”人気なの!?
実際はどれぐらいの人気なの!?
講談社の国際ライツ事業部の森本達也と加登絵梨佳に、海外の“リアル”な漫画市場を聞いてみました!
動画配信プラットフォームの台頭で原作漫画にも着火!
――日本と比べて、海外で漫画はどれぐらい人気なんですか?
ライツ・メディアビジネス局 国際ライツ事業部 森本達也
森本: 市場の規模を金額で見てみますと、日本は約4,400億円、海外は合算して約1,000億円弱ではないでしょうか。もっとも大きいアメリカでも約250億円ほどです。 ※ 講談社推定
日本のほうが圧倒的に売り上げは大きいですね。
――「日本の漫画は世界に広まっている」とはよく耳にしますが、成長率はどうなんですか?
森本:
大きく成長しているのは確かです。
講談社だけで見ても、この7〜8年ほどで海外漫画出版関連の売り上げは全体で3倍以上伸びています。
――地域ごとの成長率だとどうですか?
森本: それは私のほうでもどんなイメージを持たれているのか知りたいです。どの国、地域が伸びているって思いますか?
――想像もつかないですが、アメリカとフランス、中国が伸びているのかなと思います。
森本:
成長率で言えば、アメリカが7年で約7倍、ヨーロッパは2.6倍、中国を含むアジアは2倍ほどです。
国ごとだと、どの国の売り上げが大きいと思いますか?
――先ほどアメリカが一番多くて250億円と話していましたよね……やはりフランス、中国が大きいのかなと思います。
森本:
北米がもっとも高く全体の25%。
次いで僅差でフランスが22%、そして韓国が15%、ドイツが8%、中国は6%という感じで続きます。
以前はアジア地域の比率がもっと高かったのですが、最近は欧米の比率がだいぶ高くなっています。
――その中で、国際ライツ事業部がどんな仕事をやっているのか簡単に教えてもらえますか。
森本: ひと言で言えば「海外版権を効果的に管理・運用して収益を最大化する」のが主な仕事です。
アメリカには100%子会社のKodansha USA Publishing(KUP)という現地法人を持っていますが、基本的には現地の出版社などとライセンス契約を締結して翻訳や流通をお任せしています。
我々は漫画作品を紹介し、売り込んでライセンスするとともに現地企業による制作やマーケティングに深く関わりながら読者の拡大を進めています。
例えば、アメコミはマーヴェル社やDC社とライセンス契約を結んだ出版社が翻訳版やグッズを制作し、日本の流通に乗せて日本の本屋さんなどで販売していますよね。
同じようなことを海外でやっていると思って頂ければわかりやすいと思います。
――国際ライツ事業部から見て、7〜8年で急激に成長した背景には何があると考えていますか?
森本: いろいろあるんですがなんと言っても最大の要因は、日本のアニメを配信する動画プラットフォームサービスが増えたことではないでしょうか。
ネットフリックスをはじめ、アマゾンプライム・ビデオといったさまざまな動画を観られるサービスや、クランチロールや中国のビリビリなど、アニメに特化した配信サービスも出てきています。
作品ごとに都度課金が必要だと本当に観たいものを厳選するでしょうが、サブスクリプションサービスであれば、あれもこれも手軽に見られるということがあります。
その結果、これまでアニメや漫画について知ってはいたが観たことがなかったような人たちが、アニメを視聴できる機会が以前より格段に増えました。
最初はアニメを観て作品を知りファンになる。
好きになればなるほど続きが気になったり、深く知りたくなって原作を読んでみたくなる。それで、現地で出ている漫画を購入する、という流れができていると思います。
日本の漫画が海外で普及しはじめたのは、いまからだいたい20年前からです。
海外は一部の国を除き、日本と違ってあちこちに書店があるという状況ではないですし、漫画コーナーも日本のように充実しているわけではありません。
大多数の人にとって漫画が簡単に買えるという環境にはないのが実態です。そんな不便な環境で、作品を探してまで買って下さる人達はよほどコアなファンに限られます。
それが、アニメのおかげで作品を知る機会が格段に増え、より深く知るために漫画を読んでみたいという人が増えていることは間違いありません。
結果、漫画市場が拡大するという構図があります。
海外でコミックが買えるお店の一例(メキシコ)
――動画配信サービスのアニメが入り口なんですね。
加登: 裾野が広がってきた、というのもありますね。 以前では受け付けなかったジャンルのものを吸収できるようになった、とか。
森本: 我々講談社の海外売上も伸びているのですが、他社さんも当然伸びていると思います。つまり、全体的にパイが広がってきた、地球規模で漫画を読む人口が増えてきたということですね。
――地球規模ですか! それはスケールが大きい話ですね。
「海外」と一口に言っても事情はさまざま
――海外で人気がある作品は?
森本: 「海外全体でこれ!」とひとくくりにはできませんが、講談社作品で言いますと『FAIRY TAIL』と『進撃の巨人』の人気は高いです。
『FAIRY TAIL』は2018年末時点で、世界発行部数6,000万部を超えています。特にフランスで人気が高く、700〜800万部売れています。『進撃の巨人』は海外22ヵ国、合計で1200万部が売れています。
――ほかに海外で人気のある作品について教えてもらえますか。
森本: 『七つの大罪』などファンタジー系のものは欧米、アジアを問わず様々な国・地域で強いです。
一方台湾、韓国、タイなどアジア地域では『金田一少年の事件簿』がいまでも大人気で、アメリカでもアジア系アメリカ人を中心に人気があります。
グローバルトレンドというものは勿論あるんですが、国ごとにニーズや好みは結構違います。また同じ国のなかでもまたニーズが違うことはよくあります。
――じゃあ、編集部で「この作品は海外向けに作りまーす!」というのも……。
森本: 一概に「海外向け」というとちょっと乱暴かもしれませんね。
少なくとも欧米市場を狙うのかアジアなのか、作品のテーマや設定がターゲットとする国、地域で受け入れられる可能性があるのか、それぞれの地域のニーズを探るところから始めるべきかなと思います。
――細かくセグメントしていかないといけないんですね。
森本: 海外向けだからといって、「ファンタジーやSFものを入れていこう」「日本的なラブコメはやめておこう」という判断は、ちょっと乱暴なのかなと……。
――「海外向けの作品を創る!」と考えるときは、各国の現地法人がどの作品を選ぶのか?も指標にしながらが良いかもしれませんね。
森本: 確かに現地ライセンシーのチョイスは大きな意味を持ちますが、だからといって必ずしも現地だけに任せておいていいというわけではないんです。
現地ライセンシーは選択しなかったんですが、講談社側で「これは絶対にウケるはず」と投入したものが大ヒットした、という例もあります。
――どちらの目利きも、重要だということなんですね。海外市場は大変そうですね……。
森本: そうですね(笑)。
世界は広く、そして実に様々です。
面白い事例として『進撃の巨人』の全世界での定価を現地通貨ベースと円ベース一覧表にしてみました。所得レベルや金銭感覚などで異なってきます。
日本では税別429円で買える『進撃の巨人』の単行本が、アメリカでは約1,200円もします。ベトナムでの100冊の売り上げは、ポルトガルやアメリカでは9冊を売れば達成できてしまいます。
国・地域によってコミックの価格相場は全然違います。それはもちろん給与水準や物価に影響を受けています。また経済成長率や人口増加率も全然違います。
とにかく世界を「海外」の一言で片付けず、同じ作品であってもそれぞれの国・地域に合わせた導入・展開プランを考えていくことが重要だと思っています。
ウェブトゥーンに勝てる?
――デジタルについてもお聞きしていきたいです。最近、スマホで見るのに適したカラーで縦読みのウェブトゥーン(韓国発のデジタルコミック)の人気が高く、アジア地域で広がっているとも耳にします。
加登: 「日本漫画はクオリティが高いから、負けるはずがない」という人たちもいますが、デジタルに限ってはそうともいえない、とわたしは考えています。
ケータイ片手に読む人たちは、ライトにコミックを消費したい人たち。カラーの雰囲気を楽しみながら、でも文字が多いものは避ける。ウェブトゥーンを読むのはそういう層の人たちではないでしょうか。
森本: インドネシア、ベトナムなど物価が安いところでは書籍の値段も安いこともあり日本の出版社が現地でライセンスビジネスを拡大していくことがなかなか難しいという面はあるのかなと思います。
一方で韓国や中国はそういう国に対して、デジタルでガンガン攻めていくんですよね。
それらの国の人は本屋にはあまり行きませんがスマホはたいてい持っています。ユーザーからしてみれば、スマホで手軽に楽しめる娯楽がほぼ無料で簡単に手に入るわけです。しかもカラーで見栄えがいい。
そんなわけで、ウェブトゥーンは東南アジアのみならず北米など先進国でもどんどん受け入れられ始めています。
これはサムスンなどが台頭しはじめたころのテレビとか携帯電話といったエレクトロニクス業界で起こったパターンととても似ています。
東南アジアでやられているうちはまだ大丈夫といって安穏としているんですが、気がつけば日本以外の全世界を席巻される可能性はあると思います。
だから、「日本の漫画はクオリティが高いから負けるはずがない」という考え方は非常に危険だと思っています。
――あぐらをかいていてはダメということですね。
森本: これはよく言われていることですが韓国では国内需要が限られているから海外に自国のエンタメカルチャーを輸出することを常に念頭に置いています。日本でよく目にするようになったK-POPや韓国ドラマもそうですよね。
漫画についても同じように、海外志向はとても強いです。
――そして、実際にアジアである程度、成功を収めている。
森本: 怖いのは、漫画=「カラーで縦読みが当たり前」という具合に文法を書き換えられてしまうことですね。
気がついたら白黒主体で右開きの日本漫画スタイルこそが異質なものになっているという状況になるのが恐ろしいです。
――英語圏などでのウェブトゥーンのシェアはどうでしょうか。
ライツ・メディアビジネス局 国際ライツ事業部 加登絵梨佳
加登: 英語圏ではいまのところ読者の多くが紙で読んでいます。そのため、コアな読者を奪われるところまで進行していないのではないでしょうか。
デジタルの割合が増えてくると、ウェブトゥーンの割合も高まってくると思われます。
――講談社は他社以上にデジタル化に力を入れていますが、これは痛し痒しですね。
加登: ウェブトゥーンがカラーライズ・縦読みという手法で伸ばしてきたので、わたしたちはそれを追うのではなく、別の見せ方をしていかないといけないんじゃないでしょうか。
よりニーズに訴えかけるような、読みたくなるような。
森本: カラーは確かに見栄えがしますし、デジタルではそこが活きることは事実です。
ただ「ないものねだり」をしてもいけないと思っています。日本の漫画が勝っているところはまだまだたくさんあります。自分たちの強みを打ち出しつつもユーザーの求めるスタイルに柔軟に対応にしていきます。
ウェブトゥーンのビジネスモデルや新たなメディアへの柔軟な対応などを見て考えさせられるのは、「いいものさえ出していれば読者が勝手に探しだして読んでくれる」という発想を捨て去らないといけないところにきている、と感じますね。
漫画の楽しみ方がどんどん変化していくなかで、我々のおもしろくてためになるコンテンツをいかにしてもっと多くの読者に届けるかという模索と試行錯誤を常にしていく必要性を日々感じています。
ブラジルで大人気の『セーラームーン』
本屋の数、単行本の価格、漫画への馴れなど、海外では“日本漫画”はまだまだマニア向けとなっているケースも多い。ライトに手を伸ばせるカラー&縦読みのウェブトゥーンは驚異。
海外へデジタル化作品を配信していくためのハードルと対策
――電子書籍などの今後の見通しについて分かる範囲で教えてください。
森本: アメリカでは、出版市場全体に占める電子書籍の割合は約30%で頭打ちになっているそうです。
ただその統計資料には、AmazonのKindle Direct Publishingのデータが含まれていないと聞いています。これは推測の域を出ませんが、実際に人々はもっとデジタルで本を読んでいて、その傾向はこれからますます強まっていくのではないかと考えています。
――講談社としても海外でのデジタル化に力を入れていく?
森本: 今後海外事業を伸ばしていくに当たって、デジタルに力を入れていく以外に道はないくらいに思っています。
そのためには作品数が決定的に重要です。より一層コンテンツの多言語化を進めていかねばなりません。
やはり人口の多い英語、中国語圏は伸びしろが大きいですし、将来的にはスペイン語圏にも注目していきたいです。そして、ファンのニーズを把握してそれを満たしていくためにマーケティングやプロモーションがより一層重要になると思います。
例えばトヨタやホンダなどの自動車メーカーも、最初は現地のメーカーにライセンス販売させていたけれど、後に現地進出したり現地仕様の車を生産したりすることで事業を拡大していきました。
我々も単純なライセンス完結型から、一歩踏み込んでマーケティングやプロモーションまで力を入れていくようなスタイルへと進化していく時期にきています。
――そうなると、人が必要ですね。
森本: はい、人が必要です。しかも切実に(笑)。
でも世の中にこれまで海外で漫画をガンガン売ってきた、ファン層拡大に努めた、更にこれからのデジタルシフトを先取りして変化をリードする、そんな人がうようよいないのも事実です。
簡単に外部から採用できるものでもないと思っています。やっぱり社内で人材を育成するしかないです。
講談社にはよい漫画編集者を育む土壌みたいなものはすでにあると思うのですが、我々国際ライツも単なるライセンス業務にとどまらず、様々なやり方で海外の市場を切り開いていくようなリーダーを育てる土壌を作りたいと思っています。
もちろん語学力は不可欠ですが、作品の深い理解、大胆な発想力や行動力、予測不能な事態に対処しつつ目標を達成するマネジメント力を備えた人材をどんどん輩出して行かねばと思っています。
――勝算はあるんでしょうか。
森本: 国内同様に海外でも海賊版は非常に大きな問題になっています。
違法に漫画を配信しているわけで許される行為ではありませんが、それらの違法サービスが集めているユーザー数を見ていると、デジタルの分野に非常に大きな可能性があることは明らかです。
海賊版が実現していて我々ができていないこと、翻訳されたコンテンツのラインナップや日本と同時に現地版を公開するスピード感など、まずはこれを正規版でも同等以上に充実させることが不可欠です。
そのうえで出版社である我々の強みを活かす、例えば作家さんにご協力を頂いて制作秘話や制作過程を披露する、原作の面白さを損なうことなく読者に伝える良質な翻訳を行う、などがそれに該当すると思っています。
例えば日本語の『荒ぶる季節の乙女どもよ。』のような独特の表現を、作家さんや編集者と国際ライツで徹底的に話し合ってイメージを損なうことなく現地の言葉に訳するとかですね。(ちなみに英語版タイトルは” O Maidens in Your Savage Season”と言います)
海賊版対策と並行して、読者が海賊版をいま読んでいることで得ている満足感を超える正規のサービスを提供できるようにならないといけないと思っています。
海外では、海賊版を取り扱うモールも……。
――デジタルで配信するとしたら、現地の人に受け入れられる配信や入手方法も作っていかないといけないですね。
森本: 「マガポケベースに掲載する記事なのに」というところはあるかもしれませんが、講談社がイチから配信や販売する独自アプリを作るのは難しいと感じています。
いまは様々な電子書店、様々なサービスで漫画が買える、読めるようにすることに注力しています。
アニメのおかげで漫画を読む人、読みたい人の層は確実に拡がっています。それでもまだまだニッチなジャンルです。タッチポイントを作るのが重要ということを考えるのであれば、もともとユーザーベースのあるところに配信するのが得策だと思うのです。
近年北米を中心に、音楽や映像配信では定額のサブスクリプションサービスが普及しています。ユーザーのコンテンツ消費スタイルが変わりゆくなか、その勢いは出版物にも拡がりつつあります。
月額利用料を支払っている多くのユーザーを抱える読書サービスで我々の漫画コンテンツを読めるようにする、ここで初めて漫画に触れる人が多く出るでしょう。興味はあったがこれまで単品では購入したことがなかった人にはそのハードルは大きく下がるでしょう。
いまは正規デジタル版漫画を読めるところが少なすぎます。「様々なところで手軽に読める、買える」環境を作るのが大切だと思っています。
「観られるなら観てみよう」、それがアニメ→漫画へとつながっていた。同じように漫画でも「読めるなら読んでみよう」という構図を作れば広げていくことができるかもしれない。
日本漫画は海外に目を向けるべき
――ここまでうかがっていて、日本と比べて海外市場は1/4ほどの売り上げだし、多くの壁もある……それでも海外に進出していくべきなのか? とも考えてしまいました。
森本: 「目を向けなければならない」のではないでしょうか。
その理由はいくつかあって、国内は人口減少もあって残念ながら成長が限られてしまう。いっぽうで海外は総じて見れば人口は増えていますし、漫画を含むコミックを読む人の数もますます増えています。
海賊版で読まれているものを売上に換算したら、驚くような金額になるでしょう。成長の伸びしろはまだまだあります。もし我々がやらないとウェブトゥーンがじわりじわりと浸透していくと思います。
今後も漫画を原作としたアニメは、ますます世界中の多くの人々に観られるようになってくるでしょう。原作にも興味が湧いてきて、ニーズが高まるはずです。
せっかくアニメで触れたのに、原作が売られていない。
国内ではせっかくアニメ化した作品がアニメ放映中に本屋さんでもアマゾンでも買えないなんてことはまずないですよね。 せっかくのチャンスをみすみす見過ごすのはもったいないですよ!
――でも読書率の問題がありますよね。
森本: 去年トルコに出張したんです。まだまだ少ないのですが現地でも漫画が出版されています。
現地の人に聞いたのですが人口が8,000万人いるのに、うち本を読むのは約30%だそうです。そんな市場ってどうなの? 難しいんじゃないの? もちろんそういう意見はあると思います。
「でもイラストがあって若い人が入りやすく、共感できるテーマが多い漫画は本を読むきっかけになる」と言われて、なるほどなあと思いました。
いまある市場のサイズを見るのではなく、どう広げていくかを考えています。
加登: メキシコでも、ネットフリックスで『七つの大罪』が配信されたおかげで、この作品の虜になる人が増えました。
森本: 読者層を拡げていくうえで当たり前のことですが、まずは漫画の面白さを体験してもらう……。
「啓蒙」という言葉が適切かどうかわからないけど、最初のうちは資金回収のことを考えず、投資と思ってとにかく漫画に触れる機会を作ることが重要だと思います。
日常生活のなかに漫画があふれている日本と違い、海外に住んでいる人にとって漫画は身近なものではありません。いかに接点を作るかという点でアニメ同様に効果的だと思っているものに、海外での原画展や漫画家さんの海外イベント出演があります。
現地のメディアにも大きく取り上げられたこの原画展は、世界有数の博物館で漫画がアートとして展示されるという大変名誉なことであるとともに、新たな読者を開拓する絶好の機会になりました。
また漫画家さんの海外イベント参加にも大きな意味があります。
例えば『FAIRY TAIL』はフランスで累計700万部を超える大ヒット作品ですが、作者の真島ヒロ先生にはJAPAN EXPOをはじめとして現地の大きなイベントに何度もゲストとして参加して頂いております。
現地のファンにとって漫画家さんに会えるということは本当にかけがえのない体験であり、フランスでの『FAIRY TAIL』大ヒットの裏には真島先生の現地ファンを大切に思う気持ちがあると思っています。
まず触れてもらい、興味を持ってもらう。そして、より世界を深く知ってもらう。前途多難な海外市場ですが、「できることはたくさんある」と森本、加登は語ります。
――いずれはエンタメのメインストリームになる、という将来像でしょうか。
森本: 残念ながらそれはないかなと(笑)。それを狙うとしたら、ハリウッド映画並みに広告費用をかけないといけませんね……。
――……ケタ違いでしたね。
森本: 具体的に何千億円市場にするというのは大っぴらには言えませんけど、夢は大きく持って読者の拡大という点では無限の可能性を秘めるデジタル分野で着実に伸ばしていきたいです。
どこの国を伸ばすか、ということではなく万遍なく手をかけるのが正解だと思っています。
なぜなら、アメリカの市場がいいときもあれば、中国市場がいいときもある。海外全体合算で「イケる」ビジネスに育てられる、というのが広く全世界をスコープに入れている海外事業の可能性であり、おもしろいところだと思っています。
――それにしても、社内他部署からの協力も必要ですね。
森本: 翻訳の際、現地語版でベストのタイトルを付ける、カバーデザインをその国で一番ウケるテイストに合わせる、海外で売れている作品とそうでない作品の原因究明の積み重ねをする、といったところでしょうか。
主に漫画事業を手掛けている第3、第4事業局の皆さんとの共同作業ですが、もっともっともっと密にやっていきたいですね。それから英語での情報発信にも力を入れてもらいたいです。
加登: 日本の読者の皆さまにも、自分の「好き」をSNSで日本語だけでなく、英語でも発信してもらえたらうれしいです。
――海外、現地で売ることをうかがいましたが、インバウンド、日本国内の旅行者に向けては何か考えていますか。
森本: ちょっとおもしろい話があって、ポーランドのワルシャワで日本料理店をやっている日本人の方が、日本と結ぶ直行便ができてから客の入りが良くなった、と言っていたんです。
それまでは、本物とはちょっと違う和食“風”の店に行っていた人たちも彼のお店に流れてくるようになった、と。
これはどうしてか。
日本に行ってはじめて本当の和食がどういうものかがわかった。これまで食べていたものが“風”でしかないものだと気づいた。だから、本物の和食を食べさせてくれる彼の店に行くようになった、ということらしいんです。
日本で味わった味を帰国して自分の国でも味わえるものなら味わいたい、という心情はとてもよく分かりますよね。
同様に、特に来年は東京オリンピックで多くの外国人旅行者が日本を訪れます。またオリンピックに関連して日本そのものや文化が世界中で報道されることにもなります。
これは漫画にとってもすごいチャンスだと思っています。
できればですが、期間中に訪日客に漫画を読める手段――例えば、電子書店で講談社の英語版漫画を1巻無料で配信する、とかできるのではないかなぁと。
――スポーツ漫画との相性が良さそうです。
森本: 会場近くでビラをまくなど施策を練って。観戦前の待ち時間や競技の合間に読んでもらってもいいわけですしね。
日本が好きで、日本に興味があってやってくる人たちに、日本漫画を読んだ、という体験を持ち帰ってもらう。その体験を母国でも継続的に楽しんでもらう。現地版に翻訳された本物の漫画を読み続けてもらう。
海外の日本ファンが日本漫画ファンになって〜とビジネスにつながれば嬉しいですね。
出典元:https://pocket.shonenmagazine.com/article/entry/interview20191213
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