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カレシが突然会社に行けなくなった! 崖っぷち2人の実録「ウツ活」コミック

むしろウツなので結婚かと 解説付き
(原作:城伊 景季 漫画:菊池 直恵)
2019.06.11
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「俺と結婚してからひどくなったじゃない。結婚している以上治らないよ。もう離婚しよう」
「君が怖い」

……これはうつ病だった私が夫から言われた言葉です。
正確に言うと「うつ病だった」ではない。今はとても合う薬と環境のおかげで寛解しているだけで、今もうつ病の爆弾を抱えています。
良くなったり悪くなったり、細かい波、大きな波を繰り返しながら、うつ病との付き合いはかれこれ15年近くになります。

今は健常者のように元気なので「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、悲惨な日々の詳細は頑張らないと思い出せないくらいですが、思い出すと本当にひどかった……。よく今日まで生き延びたなと我ながら思います。

うつ病は元気な時のその人を、まったくの別人に変えてしまいます。
きっと私も、元気なときと死にそうなときの両方を知っている夫から見たら、まったくの別人、恐ろしい存在に映ったのでしょう。

だから結婚して4年、どんどん悪化する私を見て夫は冒頭の言葉を発したのです。
当然です。まったく当然。夫は何も悪くない。離婚されても何も反論できない事由です。
でも……悲しかった。最も近い人に突き放される恐怖。忘れることはないだろうな。

でもその言葉を機に、私はどんな辛い治療を受けてでも直そうと決意し、実際良くなり、妊娠もでき、今の平和な生活に繋がるのでそれはそれで結果オーライなのですが。

さあもしあなたの大事な恋人、伴侶、家族、友人がウツになったら、どうしたらいいのか、何を言うべきなのかわかりますか?
万人に対し「これが正解」という世界ではないかもしれません。
でも知識として一例を知っておくだけで、ひとつの命を救えるきっかけになるかもしれません。

例えば車の免許を取るときや保健体育の授業では、救命を学びますよね。
目の前にいる心の病にかかった親しい人間に適切な対応をする、というのもレスキューやサバイバル能力だと思うのです。
かといって安易に関わり悪い対応をするととても危険。
適切な対応を知っておきたいものです。

本書は、同じブラックIT企業に勤める彼氏のセキゼキさんが突然うつ病を発症し、その命を守るために懸命に奮闘するシロイさんの記録です。
セキゼキさんはウツへの病識(自覚)がない、通院も服薬も拒否。シロイさんには相談相手もいない。
そんな状況でも、なんとしてでも恋人を支えよう、救おうとするシロイさんの気持ちの強さや頑張りに、いたく感動しました。

1999年にオフ会で出会い、7年の時を経て同じ職場で働くことになり、恋人同士になったセキゼキさんとシロイさん。
でもその職場は、激務により次々と社員が休職していくブラック企業……。
半同棲中の2人でしたが、ある日シロイさんはセキゼキさんが大量の鎮痛剤を飲んでいることを知ります。最近やたらと眠くて頭が痛いというセキゼキさん。
それがウツとの闘いのはじまりだったのです……。

それから約1年後、ついにセキゼキさんが会社に行けなくなりました。

セキゼキさんに落ち合ってシロイさんが会社に電話しようとすると
「(会社の奴らを)呼び出して無理やり俺のこと会社に連れてこうとしたんだろ?」と妄想をしだしたセキゼキさん。
セキゼキさんの妄想と恐怖感が止まらず暴走します。


「…この人は誰?」というこの言葉。
私の夫もきっと思ったであろう言葉。
突き刺さって痛い……。自分でもわかる、私が私でなくなっていることが。でもどうにも止まらないんです。

それでも絶対にシロイさんは諦めません!

さあ、このシロイさんの対応は合っていると思いますか? どう思いますか?
あなたは愛する人がこんな状態になった時に、なにをしますか? どうしますか?
シミュレーションできますか?

……普通わからないですよね。そう、これは本当に難しいんです。
うつ病経験者の私でも、友人からウツの兆候を感じ取った時、慎重に言葉を選びながら語りかけるのですが、それはこちらの身も削られるような作業です。
「これだ!」という正解にたどり着かなくてもいいと思います。
でも事例を知っているというだけで、その命は救える可能性があります。
どうか、ご一読を。この現実を知っていてほしいなと切に思います。


漫画本編だけではなく、各話の後ろに掲載されている〈シロイ解説〉といううつ病に関するコラムが非常に役に立ちます!
これは保存しておきたい。

1巻では
・続く頭痛は、まず病院
・訂正できないから妄想だ
・石油王なら全て解決?
・「観客」は選べない
・みんなちがって、辛い時もある
・前よりマシでも治っていない
という6つのトピックがあります。

中でも滲みたのが、「石油王なら全て解決?」の中の「あなたが健康でいること」という話。
ウツの人を相手に、説得したり、その心の闇を見たり聞いたりしているうちに、一緒に闇に引っ張られることは多々あります。特に繊細な人。
そして病院に行きたがらない相手を説得するというのは並大抵のエネルギーじゃありません。
看病する側の人がまずは規則正しく健康に生活すること。
私の場合、夫のメンタルが強くいつもぶれないことが私にとって心強かった記憶です。

ぶれず、逃げずに戦うシロイさんは本当に素敵。かっこいい。


心の病はいつ誰が発症するかわかりません。
明日は我が身。
セキゼキさんとシロイさんの未来を見届けながら、一緒にウツへの知識を高めていただけたら幸いです。経験者から、強くお願い、おススメします!!

  • 電子あり
『むしろウツなので結婚かと 解説付き』書影
原作:城伊 景季 漫画:菊池 直恵

平凡な会社員シロイさんの前に現れたセキゼキさん。いつしか彼はウツを患ってーー死に向かおうとするセキゼキさんをあらゆる手を駆使して止めろ! 兆候を見抜け! 誰にだって起こりうる、日常の翳に潜むサバイバルゲーム!!
はてなブログ連載の「wHite_caKe」の日記から「鉄子の旅」の菊池直恵が描くウツの真実。単行本では、さらなるケアのポイント&重要な反省点を〈シロイの解説〉で教えます。

「本人の闘病記」ではなく、ありそうでなかった「ウツ介護者」視点によるウツ克服(ウツ活!)の記録。

第1話 競馬場に連れてって
第2話 この人は誰?
第3話 私にできること
第4話 病院へ行こう
第5話 前を見てた
第6話 逃げないよ
第7話 次は誰の番?

レビュアー

野本紗紀恵 イメージ
野本紗紀恵

一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。

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