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講談社社員 人生の1冊【40】奇術ミステリの最高峰!『奇術探偵 曾我佳城全集』
(著:泡坂 妻夫)
泉友之 文芸第三出版部 20代 男
謎の名探偵
「名探偵」っていい響きですよね。「謎の名探偵」って、もっといい響きじゃありませんか?
普段はだらけていても、いざという時にはジッチャンの名にかけちゃう少年もかっこいいですが、ここでご紹介したいのは、本書が生み出した稀代の奇術探偵・曾我佳城(そが かじょう)です。この場を借りてすこし、彼女についてお話しさせてください。
この本は推理小説です。別の言い方をすると、謎解きなんていいます。字の通り、お話のなかに生まれた謎を解くお話です。そして多くの場合、魅力的な主人公(あるいは主人公の友人)である名探偵がその魅力をもってお話をぐいぐいと押し進め、最後に犯人という最大の謎を解き明かすことで終わります。とても気持ちのいいものです。
ところが、名探偵・曾我佳城はひと味違います。まず立ち位置は基本的に「事件に偶然居合わせた人」です。なぜか周りの人に一目置かれていてやたらと美しく、なぜか謎を解いてくれと頼まれ、控えめに笑ってすこしだけ事件について話して解決してしまいます。
また、彼女はあまりしゃべる方ではありません。周りの人たちの話から、元マジシャンで未亡人だということが察されるくらい。そして結論を言ってしまうと、この分厚い二冊の本のなかに、それ以上の彼女の情報はほぼ、出てこないのです。
どう考えても、この人が一番謎です。
お話を引っ張りもしない、魅力どころか情報もない。にもかかわらず、この本はまごうことなく彼女のお話なのです。こんなにも霞をつかむようなキャラクターなのに、曾我佳城は魅力的に見えてしかたがないのです。
なんなんだ、この名探偵。高校生のころの私は不思議で仕方がありませんでした。今ならすこし、その理由がわかるように思います。このお話は、名探偵が事件の謎を解くことで「犯人を解き明かす」物語なだけでなく、「曾我佳城を解き明かす」物語でもあるのです。
このお話は推理小説の短編集です。なので、事件が起こっては解決し、また起こります。そのたび曾我佳城がなぜか居合わせ、謎を解いていきます。ですが、全編を通して、その人格は霧がかかったようでつかむことができません。
ですが、一瞬だけ例外があります。
事件の謎に向き合う瞬間。その刹那だけは、彼女の思いや考えを垣間見ることができるのです。 それはとても些細です。事件を作り上げた人の心理を想像し、その糸口を見つけ出すとき、曾我佳城はすこしだけ自分の考えを話します。あるいは、すこし表情を動かします。
そして、ほんの些細なしぐさや伏線を積み重ねていくうちに、読者はいつのまにか曾我佳城という、不可思議な側面を多々持った美女がそこにいることを肌で感じるようになってしまうのです。
謎めいた美女なんてお話のなかには掃いて捨てるほどいます。言うだけならただですものね。ですが、謎めいていて、その謎が徐々に明らかになり、それが他者の謎を解くとともに行われるとなると、その数は激減するに違いありません。
これこそ本当の「謎の美女」ではないでしょうか。この点については、ルパン・ザ・サードな不二子ちゃんもまだまだ甘いと言わざるをえません。
ひとつ謎が解かれるたびに、ひとつ謎めいた人格への手がかりがあらわれる。そのすべてがカタルシスに結実するのが、曾我佳城が人生をかけて作り上げた館が完成する最終話「魔術城落成」です。
目の前にはまざまざと曾我佳城の魔術城が存在し、それが存在するための伏線とロジックでできた道のりを振り返り、そして、それを作り上げた奇術探偵・曾我佳城の心のうちを思い、読者は感嘆のため息をつくのです。
ああ、曾我佳城はたしかに主人公で「名探偵」だった、と。
佳城とは、墓場を指す言葉だそうです。そのせいか、墓場の名を冠した彼女の振る舞いは、どこか妖しく、澄み切った空気を思わせます。
謎に満ち、決して出しゃばらず、だからこそ名探偵・曾我佳城は格別の印象を残すのです。
こんな「謎の」名探偵はいかがでしょうか。私は、大好きです。
- 電子あり
奇術ミステリの最高峰!
曾我佳城(そが かじょう)。若くして引退した美貌の奇術師。華麗なる舞台は今も奇術ファンの語り草である。もう1つの貌は名探偵。弾丸受止め術が自慢の奇術師がパートナーを撃ち殺してしまった。舞台に注目する観客の前で弾や銃をすり替えた者は誰か。佳城は真相を見抜けるか? 究極の奇術トリック満載の<秘の巻>。 奇術の殿堂づくりに情熱を燃やす、奇術師にして美貌の名探偵、曾我佳城が仕掛けた大トリックとは? その正体が明かされる<戯の巻>。
執筆した社員
泉友之【文芸第三出版部 20代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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