今日のおすすめ
講談社社員 人生の1冊【10】はやみねかおる『そして五人がいなくなる』
(著:はやみねかおる)
鍜治佑介 文芸図書第二出版部 20代 男
ほんの、隠しごと。

はやみねかおるさんの『そして五人がいなくなる』(講談社の青い鳥文庫から刊行されたミステリです)。この1冊で、ぼくは本が好きになりました。
いま手元にある『そして五人がいなくなる』は、1996年7月3日に発行された、第8刷です。当時小学生だったぼくは、はじめてもらった2枚の図書券を、この1冊と交換しました。
物語の冒頭で、引越しを終えたばかりの名探偵・夢水清志郎の家に、おとなりの女の子が3日つづけて遊びにきます。その3日目のこと、24ページの最後の行で、名探偵は言いました。
「きみ※※※、※※※※※※※※※※※だろ」
……え?
ミステリーはおろか、小説をほとんど読んだことのない小学生にとって、このひとことは革命でした。本を読んで、時が止まるほど驚かされるなんて。
そして一度ページを閉じ、表紙を観察しました。次にひっくりかえしてあらすじを読みました。
そんなこと書いてあったっけ? このときに名探偵が言ったひとこと(この文章の最後に書きます)を言わずに、本はつくれないはず。
──なのに、表紙の絵にも、あらすじにもタイトルにも、そしてあとがきにも、手がかりになるようなことは、なにも書かれていませんでした。
300ページ弱あるこの1冊で、冒頭の24ページに書かれた名探偵のことばは、メインの事件とは何の関係もありません。最初に夢水清志郎の名探偵っぷりを示すための、小さな小さなミステリです。しかしこの本は、その小さな驚きすら、読む人から奪わないようにつくられていたのです
瞬間、うわっと胸が詰まり、本ってすごい!! と思いました。この1冊をつくった人たちの想いに気づけて、得意になりました。
ミステリを好きになり、小説を好きになり、本が好きになりました。
しかし、魅力的な事実を隠して本をつくることがどれだけタイヘンか、わかっていただくには、名探偵の謎解きをお伝えしなければいけません。ここから先は、未読の方、ネタバレが嫌な方は読まずにおいてくださいね。
実は、
このとき、
※※※は……※※※※※※※!!
……すみません。やはり、書けませんでした……。
もし、少しでも気になっていただけたなら、お近くの書店さんで、ぜひ……!
いま、青い鳥文庫では、『そして五人がいなくなる』の試し読みページがあるようです。
このページをさきほど見てみたところ、なんと21ページで唐突に試し読みが終わっていました。
この本は初版が1994年です。それから16年経った2010年の現在も、24ページで名探偵・夢水清志郎が言ったことばは、この本を実際に手に持って、12回ページをめくった人にしか、読めないんですね。
以上がぼくの“この1冊”でした。
ぜひみなさんも、ご自身の“この1冊”を、ご友人に紹介してください。
もちろんそのときに、あなたの本の隠しごとは、秘密にしておいてくださいね。
- 電子あり
夢水清志郎は名探偵。表札にも名刺にも、ちゃんとそう書いてある。だけど、ものわすれの名人で、自分がごはんを食べたかどうかさえわすれちゃう。おまけに、ものぐさでマイペース。こんな名(迷)探偵が、つぎつぎに子どもを消してしまう怪人「伯爵」事件に挑戦すれば、たちまち謎は解決……するわけはない。笑いがいっぱいの謎解きミステリー。
既刊・関連作品
執筆した社員

鍜治佑介【文芸図書第二出版部 20代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
関連記事
-
2016.06.18 インタビュー
『都会のトム&ソーヤ』はやみねかおる、漫画版に大爆笑!?
『都会のトム&ソーヤ(1)』原作:はやみねかおる 漫画:フクシマハルカ
-
2017.04.30 レビュー
講談社社員 人生の1冊【9】“非モテ男子のバイブル”『モテキ』
『モテキ』著:久保ミツロウ
-
2017.04.28 レビュー
講談社社員 人生の1冊【8】西尾維新『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』
『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』著:西尾維新
-
2017.04.23 レビュー
講談社社員 人生の1冊【7】「モテたい!」男子が恩田陸を読んだ理由
『麦の海に沈む果実』著:恩田陸
-
2017.02.16 特集
【動画】メリットしかないランニングの仕方を教えます!
『ランニングする前に読む本』著:田中宏暁
人気記事
-
2021.02.19 レビュー
インスタグラム人気No.1ダイエットアカウント「24/7DIETER」が贈るやせるレシピ
『PFCバランスを整えるだけ! やせるレシピ』監修:24/7DIETER
-
2021.02.16 試し読み
【図書カードが当たる!!】織田信長に嫁いだ帰蝶の物語『帰蝶さまがヤバい』
『帰蝶さまがヤバい 2』著:神楽坂 淳
-
2021.02.15 レビュー
伝説の雀鬼が数多の死闘から体得してきた「人間観察力」をマンガで学ぶ
『マンガでわかる 人を見抜く技術 20年間無敗、伝説の雀鬼の「人間観察力」』著:桜井 章一 作画:森元 さとる
-
2021.01.28 レビュー
植松聖により知的障害者19人が殺害された相模原事件の深層に迫る!
『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』著:森 達也
-
2021.01.27 レビュー
日本の科学技術力は衰退? 疑似科学信仰は拡大?──新しい科学論が必要な理由
『科学とはなにか 新しい科学論、いま必要な三つの視点』著:佐倉 統