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次の世界地図が見えた! テロリズムvs.アメリカ終焉の先に何が?
(著:進藤榮一)
グローバル化の波に乗って、いま世界中を猖獗(しょうけつ)している“ポピュリズム”と“テロリズム”という「二匹の妖怪」に新たな光をあて、この2つの正体を追求した読みごたえのある1冊です。
“ポピュリズム”は現在に特有なことではありません。また必ずしも大衆迎合的な、あるいは衆愚的なものと断じてすませられるものでもありません。
──民衆が民衆の手に政治を取り戻すという意味でもポピュリズムが、テロリズムとともに、現存秩序のあり方に反旗を翻したのである。──
新藤さんは19世紀末から20世紀初頭のアメリカ史を検証し、ポピュリズムをこう捉え返しました。
このようなポピュリズムはどこから生まれたものなのでしょうか。
──グローバル化が「一つの世界」をつくりながら、同時に「二つの世界」をつくり出していた。社会の上層には、富める一握りの人びとが、下層には、大多数の窮乏化した人びとが生み出された。しかも窮乏化は、国が富めば富むほど“絶対的”に進んで、格差はいっそう開いていた。──
──新移民の急増によるアメリカ社会の分断と解体。ついで、巨大資本の誕生と、貧富の差の拡大。さらに、大資本と癒着した議員や既存政党が進める金権政治化と、ニューメディアの登場である。──
グローバリズムによる格差拡大と腐敗した政治がポピュリズムを生んだのです。
そしてポピュリストたちは「アメリカの富を海外進出に求めるのではなく、国内産業や、農民や人民に寄与すべき」という政策を主張しました。まるでいまのトランプ政権の主張とそっくりです。
けれどこのトランプの「国の資源を国内に振り向け、劣化したインフラ投資に振り向ける」という政策には大きな困難が立ちふさがっています。というのはかつてのアメリカが工業生産国であったのに対して、現在のアメリカが「金融サービス国家」へと国家の形を変えたからです。かつてのアメリカはグローバル化の中で「工業革命の先端をつかみ(略)世界の工業大国から、帝国へと成り上がるのに成功」しました。けれど現在のアメリカにはかつての繁栄を支えた工業生産力の著しい低下が見られます。今のアメリカは新藤さんによれば「ものづくり大国」から「カネ作り大国、つまりは金融カジノ資本主義国家」へと変容したのです。
このアメリカの“脱工業生産国”の動きに拍車をかけたのが「情報革命」でした。この革命は「生産様式の主軸を一国内垂直統合型から多国間水平分業型へと変えて」いきました。アメリカでなければ生産できないということはなくなっているのです。
さらに「情報革命」は軍事でも大きな影響をアメリカに与えています。これは現代の“テロリズム”ともかかわることです。「情報革命」がもたらしたものは「最先端情報電子兵器群に誘導されて戦う」という戦闘であり「ドローン空爆機」という究極の兵器の出現です。これがもたらしたものはアメリカの勝利ではありません。
その結果起きたことは、「爆撃にさらされる現地政府や住民の反米感情」を募らせるというものでした。「帝国のヘゲモニーに不可欠な倫理的社会的理念──アメリカ帝国のソフトパワー──は下から削がれつづける」ことになりました。この「倫理的社会的理念」の低下(劣化)は次のようなアメリカの国際法違反としてあらわれています。
・先制攻撃。
・無差別攻撃。
・国連安保理の承認なしの攻撃:国連が加盟国に容認する武力攻撃は、自衛の場合と、安保理決議のある場合に限られる。
──かくして大米帝国は、冷戦終結後、これら三重の国際法違反を犯しながら、アフガニスタンからイラク、リビア、シリアへと、無差別攻撃を繰り返していた。──
このアメリカの行動は止むことがあるのでしょうか。安全地帯からのドローン兵器による攻撃は、物理的にも精神的にも荒廃をもたらしていることを忘れてはならないと思います。
こういった「情報革命」「新戦闘」の変化がテロリズムの一因にもなっています。わたしたちは「テロとは西欧文明に対するイスラム文明と、その過激派集団による、暴力的な挑戦」と考えがちです。またこのように喧伝(けんでん)されてきました。けれどそれだけではありません。新藤さんはシカゴ大学グループの調査を引きながらこう記しています。
──テロリズム、とりわけ自爆テロとは、外国軍による「祖国」占領からの権力奪取と自立のための行動であるという、もう一つの、より本源的な現実を明らかにしたのである。外国軍による「直接占領」であれ、外国軍支援下の国内勢力による「間接占領」であれ、占領の本質に変わりはない。──
このようなテロと暴力の連鎖は止めることができるのでしょうか。
──たしかなことは、帝国とその代理人が、苛烈な軍事力による占領支配と、民衆への価値剥奪の動きを押しとどめないかぎり、そしてその動きを、何らかのかたちで平和的チャンネルへつなげていかないかぎり、テロの動きは止まることなくつづくということだ。──
この「価値剥奪」について興味深い方程式が取り上げられています。
R=rd/rc
R:反乱係数
rd:相対的価値剥奪:手にできるはずと考える期待水準と現実的な達成水準との格差
rs:相対的拘束要因:行動を抑制する社会的拘束要因
この式はなにを意味しているのでしょうか。
──貧困であれ飢餓であれ、単に経済的貧窮度が大きいだけでなく、政治的な収奪の度合いが大きければ大きいほど、そして反乱を食い止める制度的な仕組みが弱く、秩序が解体過程に入っていればいるほど、抑圧された人びとは反乱に向けて立ち上がりやすくなる。(略)民衆を反乱に立ち上がらせる究極の分岐点は、外国軍による「祖国」の占領である。そしておびただしい破壊と犠牲者を生み出すドローン爆撃機なのである。それが、九・一一以後の、二一世紀型紛争、つまりは国境を超えた内戦とテロリズムの本質である。──
テロリズムに新たな光をあてた新藤さんは、さらにテロとの戦いを続けるアメリカの背後にあるものを追求します。そこにあるのは「戦争の民営化」であり「超高額化する兵器群」に支えられた軍需産業の姿です。「新軍産官複合体国家」と呼ばれるものです。
この「情報革命」「倫理的社会的理念の低下」「新軍産官複合体国家」アメリカはどこへ向かうのでしょうか。評論家デヴィッド・イグナチウスの1節が引用されています。
──アメリカがイラクやシリアを変えたのではない。そこで戦争がアメリカを変えているのである。(略)アメリカがISISを敗北させても、長い混乱と混沌が続く。そして中東からアメリカが後退し、アメリカが変容していく。──
この衰退するアメリカと交代するかのようにあらわれたのが「アジア」経済です。これを導いたのもまた「情報革命」です。新藤さんが「アジア力」とよんでいるこのアジア経済の実態を追うことが、この本のもうひとつのテーマです。確たる地歩を固めつつあるアジア経済の中の日本はどうあるべきなのか。「新自由主義の罠」「軍事化の罠」「ナショナリズムの罠」の3つの罠に陥ることなく、日本はどのように進むべきなのか、新藤さんとともに考えてみなければならないと思います。それは「日米同盟なるものを“神格化”しながら、アジアとの共生を拒みつづける、ニッポンという「この国のかたち」を問い直す」ことでもあります。
危機を煽りがちになる今だからこそ、じっくり呼んでほしいと思います。そして誰もがこの本を読み終わったとき、世界が新しく見えてくるのではないか、そう思わせる重厚な1冊です。
- 電子あり
世界を徘徊するポピュリズムとテロリズムという二匹の妖怪。ブレグジット、トランプ・ショック、その次は? アメリカ大衆の反逆、泥沼化する中東、勃興するアジア型資本主義……これが多極化世界の新しい見取り図だ! 世界最大の自動車生産都市として栄華を誇ったアメリカ・デトロイトの荒廃が示す、「ものづくり資本主義」から「金融証券資本主義」への変貌。首都ワシントンの職業政治家、ウォール街への大衆の反逆。
アフガニスタン、イラク、そしてシリアと、中東でつづけられる「もっとも長い戦争」の裏で進む、アメリカの「軍産官複合体」国家化。その一方で、インドネシア・ジャカルタや中国・寧夏の喧噪が示す、欧米型とは異なる新興アジア型資本主義の興隆。
米欧日などの先進国から、中国やインドなど新興国への主軸転換、南北が逆転しつつある、新しいグローバリズムを、北海道・十勝をはじめとした、日本の地方の中小企業はどう生き抜こうとしているのか。トランプ・ショック以後の、「同盟の作法」を、長年、国際政治を追跡してきた著者が描き出す。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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