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成立から異例だらけの国、アメリカ。なぜ世界最強になったのか?
2016年11月8日、第45代アメリカ合衆国大統領および第48代アメリカ合衆国副大統領を選出する、アメリカ合衆国大統領選挙の一般人投票が行われます。2009年から2期にわたって大統領を勤めたバラク・オバマ氏の後釜として、民主党からはヒラリー・クリントン氏が、そして共和党からはドナルド・トランプ氏が大統領候補として名乗りを上げており、テレビや新聞では米国大統領選のニュースが頻繁に取り上げられています。
大統領選ともなると、各候補者たちはおよそ1年におよぶ長期間を戦い続けることになるため、その資金調達の能力はもちろん、精神的、肉体的タフさが求められます。世界に影響力を持つ〈自由〉の国、アメリカの大統領になるには、そのくらいのバイタリティがなければ無理なのかもしれません。
米国大統領選挙の前に、アメリカという国を形作っているものはなにかを考察するこの1冊をご紹介します。
アメリカの由来「アメリゴ・ヴェスプッチ」
西暦1776年、独立宣言を経てアメリカ合衆国という新しい国が、太平洋と大西洋を分ける南北に広がる巨大な大陸のほんの片隅に誕生しました。
1492年にコロンブスによってその一端が発見された新天地アメリカには、ヨーロッパから多くの移民が入植してきました。彼らが宗教的、経済的自由などを求めて新大陸アメリカに渡り、後にヨーロッパの支配からの解放を目指して独立を勝ち取ったことは、世界史の教科書などにも詳しいことです。
「アメリカ」という名称はいくつもの意味を持っています。大陸そのものを指して「アメリカ大陸」と呼び、北アメリカ、南アメリカのように南北に分かれた地域すべてを総称します。その一方で、アメリカ大陸で「アメリカ」を国名に冠しているのはアメリカ合衆国ただひとつ。
また身近なところでいえば「アメリカ式」「アメリカ映画」などという、文化や生活様式にまで広く使われ、世界中に浸透しています。
この呼称は、フィレンツェ生まれの航海者アメリゴ・ヴェスプッチ(1454~1512年)の名にちなんだものであることは、たいへん有名な話です。
そして新大陸の呼び名としてこの名を採用し、最初に地図に書き込んだのは、マルチン・ヴァルトゼーミュラーというドイツの地図製作者でした。
しかし、大西洋岸から遠く離れた内陸ロレーヌ地方(現在の独仏国境あたり)の、「大航海」とは縁もなさそうな当時27歳の名もない若き地図製作者が、どうして、どんな資格があって、あの大陸を命名できたのでしょうか。
独り歩きして広く受け入れられた「アメリカ」の名称
旧家の出で、長くメディチ家の執事として働き、そのスペイン代理店の管理などを努めて50歳に近づいたアメリゴ・ヴェスプッチは、遅まきの「転職」で船乗りとなりました。
高名な人文学者のもとで教育を受けていたかれは、当時の船乗りとしては格段に教養があり、自分の航海の見聞を雇い主のポルトガル王やメディチ家の当主に書き送っていました。その書簡が商売になると踏んだイタリアの印刷業者の手に渡り、1503年頃にパンフレットとして広く世に出回ったそうです。
そしていよいよ『世界誌入門』という本の収録地図を製作したヴァルトゼーミュラーが、その解説に「この陸地は、発見者であるアメリゴ・ヴェスプッチの功績を記念して『アメリカ』と呼ばれるのがふさわしい」と記し、みずから作成した地図上にその名を書き込んで発行、これがたいへんな話題となったのです。
しかしその後、『世界誌入門』の新版が出されたとき、ヴァルトゼーミュラーはみずからの軽率さを訂正して、大西洋端に書き込まれた“新大陸”から「アメリカ」の名を消し「未知の大地」と記し直したのですが、時すでに遅しで、「アメリカ」の名は独り歩きしていたのでした。
新大陸発見が相次ぐ時代背景と、その名称の響きもあいまって、「アメリカ」は広く大衆に受け入れられ、以来、ヨーロッパから見た新大陸は「アメリカ」として認識されるに至ったのです。
「アメリカ」が広く世界に浸透するのはなぜか
古い体制による支配を断ち切るため、独立戦争を経て、ヨーロッパからの宗教的・経済的独立という自由を獲得したアメリカですが、その一方で、先住民族を虐殺したり、黒人奴隷制度と人種差別を長く擁護するなど、陰鬱な歴史を内包しています。
国家の成り立ちも他の国には見られない特徴的なものですが、そうした国が20世紀の後半になって突然、経済的にも軍事的にも、国際政治的にも世界に大きな影響力を示し始めます。1980年代には国内外に「強いアメリカ」を誇示し、「世界の警察官」を自称するようになったアメリカの強硬な態度は、対立陣営との大きな摩擦を生みだし、新たな世界大戦の予感に全世界的に緊張が走ったものです。
一方で、アメリカの文化や生活様式が世界に広がり、受け入れられているのも不思議なことです。音楽、ドラマ、映画など、アメリカ的なスケールのヒットを生むものは、他に類を見ません。
アメリカというものがこれだけ世界に浸透したのはなぜでしょう。米国大統領選挙の前に、アメリカの根底に流れるものの片鱗に触れてみてはいかがでしょうか。
- 電子あり
〈アメリカ〉と聞くと、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。実像はさておき、おそらく大半の人が「アメリカ合衆国は豊かさと繁栄を象徴する〈自由〉の国である」という印象を持っていることでしょう。
20世紀後半には世界に多大なる影響力を持つ巨大な国家となったアメリカについて、とくに経済、軍事的な側面が目に付きやすいが、アメリカ文化の世界への浸透度も見逃すことはできません。
本書は、アメリカ成立の大きな原動力となり、いまもなおアメリカの行動原理とされる〈自由〉に着目しながら、アメリカという国が世界にどのような影響を与えたのかを探っています。世界史におけるアメリカとはなんだったのか、根本にある規範性を捉えるのに最適の1冊です。
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