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超高校級の怪人に、バントさせるには?──野球のcrazyが痛快な青春小説

白球アフロ
(著:朝倉宏景)
2016.08.27
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瀬山恭一(せやま・きょういち)は、等々力高校野球部のセカンド。弱小校なので、甲子園なんて夢のまた夢です。冒頭の練習試合からサンドバッグ状態。でも、そのへんの弱小校とは、ちょっと違っているのでした。

須永(すなが)クリストファー。父親が黒人のアメリカ人、母親が日本人の、ハーフ。通称クリスは、190センチ近い長身の天然アフロ。彼がいるんですよね、等々力高校には。見た目だけで威嚇できちゃうのだ。実際、クリスの守備は反則レベルの超高校級です。巨漢に似合う豪快なバットスイングは、特大のホームランを連想させます。
 
ただ、ひとつ非常に困ったことがあって、その豪快なバットスイングにボールがさっぱり当たらないんですよね……。残念ながらね。

ボールが当たらないと、ホームランにもヒットにもならない、というわけで、顧問はクリスに「送りバント」を命じます。ところが、クリスはそれを拒絶。目も合わせず、頷きもせず、ふてぶてしく、命令無視。ボールは打ち返せないけれど、顧問の指示は強打で打ち返すクリスは、つい最近、家庭の事情でアメリカから日本に来たばかりなのです。アメリカでは送りバントなんて「そんなみみっちい」ことはしないそうです。
 
そればかりか、クリスにとって日本の高校野球的日常風景は、ことごとく奇妙きてれつ。なぜガムを噛んではいけないの、どうしてみんな揃いも揃って軍隊でもないのに、ボウズなの……と他にも「Why」「Why」「Why」を連発する。

──「みんな意味わからないことshoutしてる。crazyダヨ」
(中略)
「さぁ行こうぜぃぃ!!」
「ウェェーイ!!」
「行こ、行こ、行こっせぃ!」
「セイ、セイ!」
チーム全員が口々にそう叫びながらボールをやりとりしている。(中略)部外者のつもりで眺めてみると、たしかに気持ち悪い。──

野球経験がない僕も、軽くカルチャーショック。むろん、ここは明るく笑うところです。ただ、クリスにしてみれば、「crazyダヨ」なんです。そんな彼に送りバントをさせるなんて、そりゃどだい無理な話かもしれません。
 
しかしそうはいっても「ウチみたいな弱小校でバントをやらないという選択肢はありえない」(瀬山)わけで、かくして、瀬山はクリスに「献身」と「犠牲」の精神を説き、送りバントを強制します。ついでに、クリスが気にしている女生徒との仲を取り持つという裏技も駆使。この試みは、ひとまずは上手くいくのですが、図らずも彼らの人間性にスポットライトを当て、深く掘り下げるという役割まで果たしてしまう──そしてそれは、この小説の重要なテーマのひとつでもあるのでしょう。

『白球アフロ』は、野球小説で、青春コメディです。でも、もしかしたら著者が一番力を込めて描いたのは、瀬山の「なぜ野球をやっているのか?」という問いと、それに答えようとして思い悩む彼の姿、クリスの過去とそれによって形作られた彼の人格、それらなのかもしれません。あるいは、彼らを取り囲む社会や世界の出来事というような、漠然としていて実感がなく、しかし確実に存在するもの、そうしたものであるのかもしれません。そのような存在を認識せずにこれまで生活してこられた者と、ある日突然に否応もなく意識させられた者。そのふたつが接触して生じるドラマ。それなのかも──。
 
作中、そう思わされるだけの力強さが滲み出ていました。それでいて、明るく笑える小説に仕上がっているところが、『白球アフロ』の大きな魅力なのです。
 
僕のお気に入りは、瀬山がある女生徒にじょじょに惹(ひ)かれていくところでしょうか。瀬山と自分自身を重ねて、高校時代の思い出がよみがえって、なんだか懐かしいなあ、なんて気分に。僕自身、似たようなシチュエーションを経験したような、していないような……。

まあ、それはそれとして、著者の朝倉宏景(あさくら・ひろかげ)さんは元高校球児だそうです。そのためか試合の描写が非常に細かい。野球好きも、そうでない人さえも惹きつける試合展開の妙は、やはり野球経験者だからこそ描けるのでしょう。普段、サッカーばかり観ている僕も、野球っていいなあと思わされましたもの。

「ウェェーイ!!」「行こ、行こ、行こっせぃ!」とか叫びたくなったぞ。「crazyダヨ」とか言われたって、いいですよ。だって、きっとそれが楽しいんだから。

レビュアー

赤星秀一

赤星秀一(あかほし・しゅういち)。1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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