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あなたの住む自治体の黒幕、目指していること、ご存じですか?

地方議員の逆襲
(著:佐々木信夫)
2016.05.30
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地方分権が叫ばれてから、しばらく経つ。昨今、首長や地方政党の動向がクローズアップされるようになって久しい。名古屋市の「減税日本」や、大阪における「大阪維新の会」、北海道における「新党大地」の影響力は国政政党以上のものがある(もっとも、「おおさか維新の会」が、既に国政政党と言ってよい影響力を持つ)。

国政選挙においては、支持政党なしが最大数となり、政党政治がかつてほど国民の負託に応えられなくなってきている状況を鑑みると、もっと地方議会や地方政治の重要性が認識されてよいはず、と思うのだが、イマイチ地方政治に関心が持てない理由は、地方議会の仕組みや地方議員の実態が理解されていないからではないだろうか。

そこで特に、都知事が公金の使い方について釈明会見を開いたばかりで、国民の不満が高まっていると思われる2点(議員報酬の高さと、議員数の多さ)について、本書の内容を参考に考えてみたい。

1点目の議員報酬が高い、という点について国際比較をすると、日本は議員報酬が高い、という結果である。例えば、スイスは、州単位、地方都市単位でもほぼ無報酬であり、フランスも同様に州や県の議員が数十万円レベル、地方都市単位ではほぼ無報酬である。それに対してアメリカでは州議会で約400万円、ドイツで約620万円である。日本は、県議の全国平均額で920万円である。ただし、アメリカは100万人以上の都市では950万円の報酬となっている。

2点目の議員数が多すぎる、という点については、結論から言うと、日本は、特に多すぎず少なすぎずという位置である。30万人規模の都市での議員数が最も多いのはスウェーデンで、100議席である。ちなみに、日本はイタリア、ドイツと同じ46~48議席であるので、2倍以上も差があることがわかる。

日本は、低成長、人口減少社会を迎え、今後の地方議会と地方議員のあるべき姿を真正面から議論すべき時期に来ていると思う。議員報酬を少なく、人数は多くするスウェーデン型が良いのか、報酬はある程度多くして人数を減らすアメリカ型が良いのか、また、報酬も人数も減らすのが良いのか、実のある議論をするうえでも、本書に書かれている様々なファクトは実に有用だ。議員報酬や議員数以外にも、統一地方選挙の投票率の推移、なぜ地方議会がオール与党化しやすいのか、など、地方議会と地方議員を正しく認識するための内容がすべてそろっている。

諸外国との比較も大事だが、自分の住む自治体について知ることはもっと重要だろう。自分の住む町を身近に捉える視点として、筆者は、条例に目を向けることをおススメしたい。なぜなら、条例を知ることで、その自治体が何を重視し、何を目指しているのかがよくわかるからだ。

例えば、京都市の建築基準条例や、鳥取県の鳥取砂丘の落書きやゴミのポイ捨て禁止条例などは有名だが、それ以外にもユニークな条例があるのをご存じだろうか。東京都荒川区の動物への餌やり禁止条例、兵庫県小野市の生活保護世帯におけるギャンブル禁止条例、鹿児島県いちき串木野市の焼酎乾杯条例。焼酎の乾杯などはなんとも微笑ましい。今後、より画期的な条例が多く出てくることを大いに期待したい。

本書は、自分の住む自治体の行政を身近に知り、今後、どういう地方政治が良いのかを考えるための材料として最適な一書である。

レビュアー

望月 晋作 イメージ
望月 晋作

30代。某インターネット企業に勤務。年間、150冊ほどを読破。

特に、歴史、経済、哲学、宗教、ノンフィクションジャンルが好物。

その中でも特に、裏社会、投資、インテリジェンス関連は大好物。

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