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仕事の進め方を変えよう。2:8の2、重要なコアに集中するには?

2016.04.25
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──全体の中でコアが占める比率は量的には2割程度であることが多く、他方で、「コア」によって全体の成果や価値の8割程度が生み出される場合が多いのです。──(本書より)

「数の上では2割のものが、重要度では8割を占める」のです。これが「2:8の法則」と呼ばれるものです。もちろん正確に2:8というわけではありません。重要なのは「分布が偏っている」ということです。そして、これに着目して「コア(核=重要部分)」に向けて“集中力”を行使せよ、というのが野口さんがこの本で提案していることです。

重要なものをより重点的に扱うというのは当然のことですが、実際に行うのは意外と難しいものです。なぜなら取りこぼし、見落としということからくる不安(心配)がなかなか頭からはなれないからです。この2割が大事なことはさまざまな本でもいわれてきました。しかし、実は肝心なことが指摘されてきませんでした。

それは、「(1)コアは、どうすれば見出すことができるのか? (2)コアが変化したとき、どのように対応したらよいのか?」の問いに充分な答えが用意されていなかったということです。ですから野口さんによると「データによってコアを発見しやすい品質管理などの分野」を除くと、この2:8の法則が実際に活用されていないのが実態だそうです。

この本は極めて具体的にこの2割のコアの発見の方法を解き明かしたものです。

──書類や資料の場合、「コア」に当たるのは、「ワーキングファイル」です。内容によって分類せずに時間順に並べるという「押し出しファイリング」の方法を取れば、これを自動的に見出すことができます。──(本書より)

すべての書類を一様に扱うのは、効率がよくありません。情報については「新しいものが重要」であり、次いでは「繰りかえし利用するものが重要」だということを徹底すればいいということになります。野口さんの名著『「超」整理法』は、2:8法則に基づいたこの方法の実践版でした。

これは“時間軸”をキーとした「秩序づけ」するということです。この“時間軸”という方法は「デジタル情報のシステムとはもともと相性がよい」ということがすぐ分かると思います。ここでは「分類するな。検索せよ」ということが、「コア」の発見に結びつきやすいからです。つまり、電子情報については「内容別に細かく区別するのではなく、時間順に格納し、必要なときは検索で探し出す方式が効率的」になります。

2:8法則が最も当てはまるのは試験勉強というものです。それを例として、野口さんは「コア」の発見法の実践版を紹介しています。その中にはアメリカの大学院での体験がありました。膨大な参考文献を読まなければならなかった野口さんは、図書館から借りだした本の「黒くなっている部分」に注目しました。この「黒さ」は「繰りかえし利用」されている部分だということを証していたのです。「図書館の本を見るとコアが分かる」ということです。「繰りかえし利用するものが重要」ということでは、試験勉強では「過去問題勉強法が効果的」となります。ただし、こればかりですといわゆる〝受験秀才〟で終わってしまうことにもなりかねません。

それ以上に重要なのが「鳥の目による全体把握」です。この視点からだと個々の部分の関連性が把握できるからです。それは同時に重要度が理解できることにつながります。この全体把握のために活用すべきなのが「目次」と「索引」です。そしてそれを活用して「できるだけ高いところまでのぼること」を勧めています。

全体を把握するためにはできるだけ早く先に進む必要があります。そのためには「基礎から一歩一歩のぼる」ということに拘泥せずに、臆せず「必要事項を調べるだけで読み進める」ことを提案しています。野口さんはこの方法を「パラシュート勉強法」と呼んでいるそうです。まずは全体をつかめ、ということです。

ではビジネスではどうでしょうか。勉強と違って「コア」が変化する世界だということはすぐにわかります。変化の要因として技術進化、世界情勢の変化、嗜好性の変化などの数多くのものがあげられます。「勉強のコアは固定的であるのに対して、ビジネスのコアは動くのです。ですから、一度は成功しても、その成功が永続するとは限りません」。ビジネスの世界ではこのさまざまな変化に柔軟に対応することが求められます。変化の中で「コア」を求めるのに重要なのが“ビッグデータ”とよばれるものです。

──ビジネスにおけるコアの発見とその変化の把握には、データの活用が必要です。(略)ビッグデータと呼ばれる大量のデータを利用することが可能になりつつあります。これを適切に利用すれば、変化するコアを把握することが可能になります。──(本書より)

そのためにはまず自分が担当している事業について、できる限りデータを定量的に把握しなければなりません。さらにデータのグラフ表示を利用して全体を把握するようにしなければなりません。

では、数値化、グラフ化できないものはどうすればよいのでしょうか。先に、図書館の本の例がありましたが、ここは“先人”に学ぶ必要がでてくるところです。野口さんはこう記しています。

──あなたの職場を見渡してください。ヒット商品や企画を連発したり、どの地域を担当しても必ず一定の成績を上げる人がいます。こうした人々は、コアを見抜く「嗅覚」や「眼力」をもっているのでしょう。(略)この人たちが持っているコア発見法は、簡単には言葉に表せない「見えない方法」であり、多分に名人芸的なものでしょう。──(本書より)

そしてそれに加えて「昔から、名人芸は教えてもらうものではなく、盗むものだった」とも。この名人芸を心がければ仕事の進め方が変わると思います。

──多くの人は、片づけやすいことから着手します。そうすると、何件も処理できて、いかにも仕事が進捗した気持ちになるのです。しかし、これは錯覚にすぎません。本当に重要なことは処理されていないからです。こうして、「重要だけれども簡単には処理できない案件」は、先送りされます。そして、将来においてもさらに先送りされます。そして、結局のところ、解決されないままに放置されてしまうのです。これは、誠に本末転倒の状態ですが、実際にはそうなることが多いのです。──(本書より)

このような仕事の進め方は変えていかなければなりません。なにより私たちが心に置かなければならないのは次のようなことだと思います。これを忘れず、なにがコアかを考えて行動すれば無駄な集中に陥ることなく時間を味方にできるように思えます。

──「世の中の現象の多くは、一様に分布しているわけでもなく偏っている」のです。世の中は、均質ではなく、不平等です。その結果、一部だけが不釣り合いで重要になっているのです。──(本書より)

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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