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猫派仕様の「徒然草」。気ままなウイットに満ちた「猫本」
(編:講談社ビーシー)
「猫の飼育数、犬にほぼ並ぶ 以前は100万匹以上の差 昨年調査」というニュース2016年1月30日の朝日新聞にありました。ペットフード協会の調査によると「推計飼育数は犬が前年比4.1%減の991万7千匹、猫が同0.9%減の984万4千匹」という結果が得られました。「一人暮らしやシニア層が増え、犬の世話が難しくなっている。猫は散歩の必要もなく、支出面でも負担が比較的少ない」からではないかと考えられているそうです。YouTubeなどの投稿動画でも犬より猫の投稿のほうが多いのように思えるのですが。
あどけなさ、とりわけ子猫の持っているかわいらしさというものは筆舌に尽くしがたいもので、まるで〝子猫〟という別の生きものがいるようにすら思えます。成猫になった時、かつての子猫とまったく別の性格(生きもの)になったように感じるかたもいるのではないでしょうか。まあ、それでもかわいいのには変わりありませんが……。
さて、そんな60枚を超える猫たちの姿に導かれて分け入る『徒然草』の世界、〝つれづれ〟とは「すべきこともなくたいくつなこと」(講談社『国語辞典』)という意味で、『徒然草』という随筆は兼好法師が、「退屈なときにひとりで1日中ぼんやりしながら(略)心に浮かんできた他愛ないあれこれ」を書き綴ったものをまとめたものです。気のむくまま、心のむくままというこの随筆が醸し出す雰囲気が気まぐれで愛嬌のある猫の姿に妙にあっています。といっても猫は(あるいは兼好法師も)確固たる意志をもって行動しているので、はたから気まぐれというのは意に添わないかもしれませんが……。
序段+243段からなる随筆から選び抜かれた60本、どれもがウイットに満ちた生きる指針です。私たちに必要な知識があふれています。
古典として考えると、ついつい仏教的無常観(もちろんそうなのですが)とか乱世の孤、俗世をはなれた生とか、難しく考えてしまい身構えがちになってしまいそうですが、そんなことはありません。こうして猫と共に(?)読むと『徒然草』が今に通じる普遍的なことを教えているんだ、兼好法師も私たちと同じような感覚を持って生きていたんだ、と「そこはかとなく」感じられると思います。
「なにもかも欲しがるのは何もほしがらないのと同じ」だし「内輪ネタはカッコ悪い」といった日常のふるまいへの感想や、人の心の傷つきやすさに触れて「体を損なうよりも、心を傷つけるほうが、人の健康を脅かすものです」し、「外見と心はつながっている」から「いつも動きやすくしていれば傷つきにくい」とか、楽しく読みながらついつい頷く自分がいることに気づくと思います。もし猫を飼われていたら、とりわけ子猫なら時には一緒にのぞき込むかもしれませんし、読むのを邪魔されるかもしれません。でも、それも楽しみのうちではないでしょうか。
猫にふさわしく「声や匂いや音がいっそう引き立つ」夜の魅力を綴った段や、「違いが分からない人っているよね」での秋月の魅力を綴った段では、撮された猫の風情も加わって見るもの、読むものになんとも心地よい気分をさせると思います。
なかには、「どんなにいい女でも毎日一緒でいつも顔を合わせていたら、そのうち気に入らなくなって憎く感じるようになるでしょう」というような、シニカルで辛辣な人間心理をついた洞察もあります。そんな辛口も猫の写真が感じさせる癒やしでスーッと心にしみこんできます。動乱の時代の中で生きた兼好法師の洞察力あふれる言葉と猫たちの写真がもたらす癒やしが、辛いときでも私たちを元気づけてくれるにちがいありません。
この「ずっと一緒だと飽きるもの」の段で、そっぽを向いた猫の写真が使われていますが、それもついつい笑ってしまうような秀逸な一葉です。それ以外でも犬とのツーショットがいくつか収められていますが、自由奔放な(気まぐれな)猫にいたずらされて、ふりまわされて、〝やれやれ〟といった顔の犬がなんともほほえましいような、「わかるわかる、猫ってそういう生きものなんだよね」って、つい犬に声をかけたくなるようなものが収められています。
猫派だけでなく犬派にも、もちろんちょっと古典をのぞいてみようかなと思われる人にもおすすめします。まず手に取って開いてください。閉じるのが惜しくなること間違いありません。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
note
https://note.mu/nonakayukihiro
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