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どうすれば飲めるか? イスラム禁酒のリアル裏事情
『イスラム飲酒紀行』は誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書くがモットーの著述家・高野秀行氏が、酒を求めてイスラム圏を旅するルポルタージュである。
高野秀行氏は「私は酒飲みである。休肝日はまだない」と豪語する、無類の酒好き。そんな高野氏が、バンコクからドーハ経由で、インド洋の真ん中浮かぶリゾート地・セーシェルへ向かうところから旅が始まる。
セーシェルまでの格安航空券の片道チケットを手に、バンコクから旅立とうとする高野氏だったが、出発直前に、ある問題が発覚する。セーシェルに入国するには片道チケットだけでは入れず、帰りの分のチケットも見せなくてはならないという条件が付けられていたのだ。
高野氏は帰りの分のチケットを用意出来ず「航空券申し込み画面」を印刷した、それっぽい証明書をもって飛行機に乗り込んだのだが、セーシェルでの入国審査が厳しければ、強制送還されてしまう。そして、もし強制送還されてしまった場合は航空券30万円は無駄になってしまうというギリギリの勝負に出ることになる。
そんなプレッシャーを紛らわそうと機内で酒を飲もうとするのだが、乗り込んだ飛行機は、イスラム系の航空会社。イスラム系の航空会社では機内でお酒を出さない航空会社もあるらしい。しかし、すべての航空会社がお酒を出さないわけではなく“見極め方”があるとのこと。
「フライトアテンダントが全員男性」また「女性がベールかスカーフを被っている」場合は厳格なイスラム教徒である確率が高く、お酒は出してもらえない。しかし、ラフな格好である場合はお酒を出してもらえる確率が高いようだ(高野氏が乗った飛行機は運良く、お酒を出してもらえる航空会社であった)。
高野氏はその後、パキスタン、アフガニスタン、イラン、シリアなどイスラム圏を旅することになるのだが、「酒が禁じられているから現地の人は全員お酒を飲まない」という私たちの先入観を大きく覆す、リアルな酒事情が綴られている。
例えばパキスタンでは「この病気の治療にはアルコールが必要だ」という証明書を医者に発行してもらい、酒を飲むというドクター・ストップならぬ「ドクター・ゴー」があるらしい。
また、昼間から酒を飲むと匂いでバレてしまうため、昼間はマリファナを吸い、酒は夜に飲む習慣をもつ学生との出会いがあったり。
イランではタクシーの運転手さんに「お酒ある?」と尋ねると、一度は「ない」と素っ気なく答えるものの、お金を払って降りようとするときに「お酒飲みたい?」と話を持ちかけてくるというおきまりの行程がある、など、「禁酒」にまつわるリアルな事情がふんだんに詰まっている。
イスラム圏に住んでいるからといって、全員が厳格な教徒というわけではなく、我々と同じように酒をこよなく愛する人もいる、という驚きの事実が描かれている。
「世間の評判というのを信じていない。悪評が高い場所ほど、イメージと現実にギャップがあるのをさんざん見ている」と高野氏が作中に記しているとおり、当来のイメージをくつがえすエピソードがつまった『イスラム飲酒紀行』、旅に出かけた気分で酔いしれていただくのにおすすめしたい一冊である。
レビュアー
作家。1985年、京都府生まれ。レースクイーン、男装アイドルユニット風男塾の活動を経て、現在コラムニストとして活動する。哲学、エニアグラム、マンガ書評を中心に執筆中。経験から哲学者の教えを解釈した著書『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)発売中。
近況:連続して人に会いすぎて少し消耗してしまい、しばらく一人で過ごすがだんだん寂しくなり、また人に会いまくる……というルーティンを長年繰り返していますが、その中で中庸が見つかりません。「程よく」が一番ムズい!(笑)
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