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国が発注して描かれた「戦争画」。国民性のありかたを示す、極めて現代的なものなのです。
(著:椹木 野衣/会田 誠)
作戦記録画、いわゆる戦争画というものがあります。「国家の発注によって描かれた、戦争を題材にした一連の絵画」で終戦までに5000点にのぼるものが描かれ、発表されたそうです。「国家総動員法の制定以降、多くの画家が従軍して」制作されました。
戦争画の全貌はまだ明らかにされていないものの、椹木さんと会田さんは戦争画が今の私たちにどのような意味を持っているものなのかを改めて語り合ったのがこの本です。
戦争画は国の要請によって制作されました。目的は国威発揚等のプロパガンダです。それにのめり込んでいったのが藤田嗣治さんでした。
この本に再録された「陸軍派遣画家 南方戦線座談会」で藤田嗣治さんがこんな発言をしています。
「戦争の時にはいゝ戦争画を作る、それが画家の仕事だと思ふ。記録画を残すといふことだけでなく、どんどん戦争画を描く。それが前線を偲ばせ、銃後の士気を昂揚させる。これは大事なことだ」
確かに藤田さんの作品にはそれをうかがわせるだけの〝熱さ〟が感じられます。
けれどそれが戦争画のすべてではありません。むしろ会田さんは「日本の戦争画はやっぱりやさしい。(略)戦争画も、ふと詠む俳句のように「墜落した飛行機の残骸は哀れをさそうなあ」みたいな淡彩画のほうが、得意な感じもするのです。だから日本の戦争画を見る面白さのひとつは、もしかしたら世界でも一番、戦争画に向いていない民族がやろうとした、ということかもしれません」という特徴をあげています。
「従軍とはいえ、弾が飛び交っているところまで絵描きは連れていってはもらえないでしょう」「休憩中の兵士をスケッチして、実際の作戦の場面は写真を見て、後で描くということも事実多かったんだと思います」(会田さん)。つまり「鬼気迫る絵なんて描けっこない」(椹木さん)のであり「兵士の個性や人格といったものを、画家として描こうとしており」、逆に「意外なほど牧歌的な作品が多い」(会田さん)というものだと語っています。そこに画家の〝良心〟とでもいうものを会田さんは見ているのかもしれません。
出来上がった作品がそのようなものを感じさせても、国の意向にそって描かれたものには違いありません。けれどもまたそこは国民性というものもあらわれていると思います。
画家たちの戦争協力のありようとともに、国民性を探ることもまた、これらの戦争画を知り、考えることで明らかになると思います。それは戦争画を忌避することではなく正面から向き合うことでしかわからないことではないでしょうか。
「過去のもろもろは、未来を映す複雑に屈折した鏡として、今後も注意深く見ていきたい」という会田さんの言葉が重く感じられます。
戦争画にのめり込んでいった藤田さんは「戦後は風当たりが集中して、挙げ句の果てにおまえが全部責任をとればよいっていうことにまでなって、日本から出ざるを得なく」(椹木さん)なりました。「絵描きは絵だけ描いてください」「日本画壇は早く国際水準に到達してください」という言葉を残して日本を去ることになったのです……。
藤田さんはその時の思いをこう語っていたそうです。「私が日本を捨てたのではない。日本に捨てられたのだ」「国のために戦う一兵卒と同じ心境で描いたのになぜ非難されなければならないか」(『ウィキペディア』より)
これは遠い過去の話ではありません。「戦争画ならぬ「五輪作戦記録画」」(椹木さん)が待っているのかもしれないのです。
国家と個の問題として、国策加担の問題としても「戦争画は依然まったく、終わっていないのです」(椹木さん)。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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https://note.mu/nonakayukihiro
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